2018年、日本映画界の話題をさらった『カメラを止めるな!』は、ストーリー展開の面白さはもちろんのこと、個性ある登場人物たちが輝いている作品でもありました。こんなに面白い人物像を描く上田監督は、一体どんな高校生活を送っていたのでしょうか?

■映画監督になることではなく、映画をつくることが目的だった

――『カメラを止めるな!』を拝見しました。仕事や親子の葛藤など、現代人が抱える問題も随所で描かれているのに、思わず笑ってしまうこの映画の明るさはどこからくるのでしょうか?

日本映画はテーマやメッセージをしっかり決め、映画をつくる意義は何なのかということを面白さよりも尊重する風潮があります。でも僕は、テーマやメッセージ・伝えたい思いを考えずに、とにかく面白いものをつくろうとしてきました。それでできた映画が『カメラを止めるな!』です。

映画の中に「出すんじゃなくて出るんだよ!」というせりふが出てきます。このせりふの通りで、僕はテーマやメッセージがなくてもいいと思っているわけではなくて、「面白いものをつくる」ということだけを考えていたとしても、そこからにじみ出てくるものがあると思っています。そのにじみ出てくるものに任せたほうが、いろいろな人が広く解釈してくれる映画になると考えました。

例えばわざわざ仕事の映画にしようとか、家族の映画にしようとか、ものづくりをする人たちの賛歌にしようと決めると、やっぱりそちらに集中してしまいます。『カメラを止めるな!』が家族の映画か仕事をする人たちの映画なのか観る人によって分かれるのは、作品からにじみ出てくるものに任せていたからなのかもしれません。


――映画監督になろうと思ったきっかけは何ですか? 

よく聞かれますが、きっかけは特になくて気付いたらなっていました。「この映画をきっかけに」とか、「この言葉をきっかけに」という印象的な出来事よりは、映画を浴びるように観たり、ハンディカムで映画を撮ったりするようになって、いつの間にか映画監督を目指していたのかもしれません。

ただ、映画をつくることができる生活であればいいとは思っていました。「映画をつくる」ということが目的であって、映画監督になることが目的ではなかったからです。

■ハンディカムを手に琵琶湖1周の自転車旅行をした高校時代

――監督はどんな高校生でしたか? 

活発で元気な目立ちたがり屋だったと思います。高2の夏に「何か大きなことをしなければいけない」と思い、いかだを作って琵琶湖を横断しようとして遭難したり、修学旅行で何か爪痕を残さなければいけないと、テーマパークの池に飛び込んだりしました。さすがにこの時は危険を感じて、必死になって陸まで泳ぎました。


――高校時代にやっておいて良かったなと思うことはありますか?

たくさんあります。例えば放課後に友達と映像を撮っていましたし、文化祭ではクラスで毎年映画をつくって上演しました。また滋賀県出身なので、自転車で琵琶湖1周の旅をしました。その時は宿を取らずに毎晩民家に「泊まらせてください」と頼んで、ビデオをまわしながらドキュメンタリーをつくりました。

あとはお笑いが好きだったので、漫才やコントを作って駅前で披露したりしていました。漫画を描くことも好きでしたね。


――ものすごく活動的な高校生だったんですね。

学校外でいろいろやっていたので、授業中は眠くてあまり真面目に勉強はしていませんでした(笑)。成績も後ろから数えて10番目ぐらいだったし、数学は毎回0点だったので追試でなんとか進級できたような感じでしたね。

でも文化祭で撮った映画は3年連続最優秀賞を取りましたし、入部してほしいと頼まれて入った演劇部では近畿地方の高校360校中2位の成績を残すなど、滋賀県の田舎町ではありましたが、成功体験が積み重なった高校時代でした。

■1日をいかに楽しむかを考えることが一番大切

――映画を撮ったり、旅をしたり、漫画を描いたり、高校時代にいろいろなさっていますが、これらに共通するところはありますか?

共通点は、仲間と一緒にやっていくところですね。漫画を描くにしても、当時僕らの中で、漫画を描くのがはやったんです。自転車の旅もみんなでやりましたし、映画も漫才もコントもみんなでつくりました。そこは今と変わらないところですね。


――監督のスローガンは「100年後に見ても面白い映画」だとお聞きました。今後はどんな映画を撮りたいですか? 

まさに言葉どおりですが、その時々の流行に乗って映画を作るのではなく、100年後の人が手に取ってみても面白いと思える普遍的な映画をつくっていきたいなと思っています。


――高校生に向けてメッセージをお願いします。

高校生に向けて何か言えるほどの人生を送っているわけではないですが……。

今日1日をいかに楽しむかということだけを考えて生きていたら、意外といろいろなドアが開くんですよ。もちろんはっきりした目標や道を持っている人はそれを地道にやっていくことが大切ですが、まだ何も見つかっていない人は、目の前のことに夢中になっていたら一つのドアが開き、そのドアを開けて頑張ったらまた別のドアが開いていきます。

今の僕もそうですけど、目の前のことに集中して、今日1日楽しむことを使命として生きたら、楽しくなれるだけじゃなくて自分が何を楽しいと感じるのかも分かってきます。そしてノリの良さはすごく大事で、ちょっとでも気が向いたらやってみたほうがいいです。それがダメでも次につながることはありますから。

あとは、夢を持たなければいけないという圧力もあると思います。でも大きな夢を持たなければいけないということはないと思うんですよ。大切なのは仕方がなく何かをやるのではなく「人生をかけて何をやるのか?」ということだと思います。

とりあえず30代に入るまでは、相当な失敗をしても人生を立て直せるので、失敗をせずに生きていくことのほうが失敗だと思って、恐れないでほしいですね。


上田監督の高校時代は、活動的で時に破天荒! その行動力と数々の武勇伝には驚かされ、たくさん笑わせていただきました。

高校生に向けてのメッセージは、紆余曲折を経て『カメラを止めるな!』を生み出した監督ならではの含蓄ある言葉でした。今後監督がつくり出す「100年後に見ても面白い映画」を楽しみにしたいですね。


【取材協力】
映画監督 上田慎一郎