あけましておめでとうございます。科学コミュニケーターの田中です。みなさん、お正月はどのように過ごされたでしょうか?おいしいお正月料理を食べましたか?お正月といえば、お雑煮やおせちが定番ですが、他にも普段よりも豪華なものが並んだりしますよね。その中には魚やエビなど、いろいろな海の幸が使われているのではないでしょうか。というわけで、今回はきっと多くの日本人が大好きな、海の幸のお話です。

未来館では、2018年11月10日に海のイベントを開催しました。「東北の海を復興せよ! ~"海博士"たちと語る一日」と題して、東北の海を研究し続けている"海博士"たちにお集まりいただきました。さらに海を調べるためのいろいろな道具や東北の海で捕まえた生き物たちも大集合!海の生き物たちに触れるタッチプールには、お客さんも私たち科学コミュニケーターも興味津々。"海博士"たちに海の生き物や東北の海について直接聞きながら、ウニ、ホヤ、ナマコの、間近に見る生きた姿や初めての感触を楽しんでいました。

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ウニ、ホヤ、ナマコに触れる

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研究内容をパネルで紹介。会場奥にはプランクトンを採取するプランクトンネットも。

加えて、4人の"海博士"たちには、それぞれ30分間のトークを実施していただきました。当日お集まりいただいた"海博士"たちは、東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)*のメンバーのみなさん。それぞれの角度から、東北の海の復興を目指し、調査・研究を行っています。2011年3月11日の震災、津波に襲われた東北の海はどう変わり、どう回復してきたのでしょうか? 今回のブログから、以下のように4回に分けて"海博士"たちのトーク内容をお伝えします。

その1 東北の海のおいしいヒミツ~豊かな海の源と津波のはなし(この記事)
その2 あれからガレキはどうなった?~ガレキとともに生きる深海生物
その3 知ってる?海のパイナップル~海の恵みをいつまでも
その4 海の砂漠化?~ウニの良いトコ、悪いトコ



というわけで、第1回目のタイトルは「東北の海のおいしいヒミツ~豊かな海の源と津波のはなし」。東京大学大気海洋研究所 名誉教授の木暮一啓先生にお話しいただきました。

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トーク中の木暮一啓先生(東京大学大気海洋研究所 名誉教授)

◇おいしい魚は何を食べて大きくなるの?

登壇した木暮先生がまず見せてくださったのは、東北での漁業の様子。大量のサケを獲る漁の様子は圧巻です(下の写真では、網にかかったイカの群れが写っています)!東北は漁業が盛んな地域。そして海のすぐそばに住む東北の人たちは、魚が大好きだそうです。市場はもちろん、スーパーや道の駅にもたくさんの魚が並びます。季節に応じていろいろな種類が獲れるので、季節を感じながら海の幸を楽しむことができます。みなさんの住む地域ではどうでしょうか?日本の食卓においしい魚は欠かせない存在ですよね。

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東北の海での漁の様子。たくさんのサケのほか、イカやサケ以外の魚も獲れる
(画像提供:田村公生氏)

木暮先生のトークは、そんな魚の話からはじまりました。では私たちが食べている魚は、何を食べて大きくなったのでしょうか?大きい魚だったら、食べているのは小さい魚。その小さい魚は、もっと小さい魚や、動物プランクトンを食べています。そして動物プランクトンは、植物プランクトンを食べます。陸に生きる生き物たちと同じように、海の生き物たちも、植物プランクトンから大きな魚まで生き物同士がつながっているのですね。

さらに、その先も木暮先生と一緒にたどっていきましょう。植物プランクトンはどうやって育つのでしょうか?植物プランクトンは、その名前のとおり植物の仲間。陸に生えている木や草と同じように、太陽の光を浴びながら光合成をして育ちます。ここで欠かせないのが海の中の栄養です。リンや窒素といった栄養塩類と呼ばれるものがないと、植物プランクトンは育たないのだそうです。畑で野菜を育てるときには、肥料をあげないとよく育ちませんよね。その肥料の中身も、リンや窒素です。おいしい野菜を育てるために畑に肥料が必要なように、おいしい魚が育つために、海には植物プランクトンを育む栄養塩類が欠かせないと先生はおっしゃいます。

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私たちが食べている魚を育てる源は、窒素やリンといった栄養塩類
(画像提供:東京大学大気海洋研究所)

このように海では、栄養塩類が源となりさまざまな海の幸が育ちます。そしてどんな生き物も排泄物を出します。また、ずっと生き続けるわけではないので死骸にもなります。すると、海に排泄物や死骸が出てきますが、これらはそのまま海の中で漂い続けるわけではありません。微生物、特に植物プランクトンよりももっと小さな細菌によって分解されるのです。学校の授業ではなかなか教えてもらえない、こうした生き物たちの働きが、実はとても重要なのだと、木暮先生はおっしゃいます。微生物たちの働きによって、排泄物や死骸に含まれていた窒素やリンが放出され、それはまた次の生き物の体をつくるために利用されます。このように窒素やリンは、形を変えながら、海の中をぐるぐると回っています。

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窒素やリンといった栄養塩類は、形を変えながら海の中をぐるぐる回っている。陸地に囲まれた湾では、湾の内外で水が入れ替わるときに、栄養塩類も移動する。
(画像提供:東京大学大気海洋研究所 渡部寿賀子氏)

◇三陸沖は栄養塩類が豊富な世界三大漁場のひとつ

東北の三陸沖の海は、世界三大漁場のひとつと言われ、世界的に見てもたくさんの海の幸が獲れる場所なのだそうです。その理由にも、栄養塩類が関わっています。三陸沖は、親潮、津軽海流、黒潮という3つの海流がちょうどぶつかる場所。これらの海流のうち、栄養塩類を特にたくさん含んでいるのが、北からやってくる親潮です。親潮に乗って流れてきた栄養塩類は、三陸沖において南からやってくる温かい黒潮とぶつかり、ここでせき止められます。だから三陸沖には栄養塩類がたくさんあり、これによって太陽の光を受けながら海の幸がたくさん育つことできます。木暮先生は、これが世界的にも珍しいほどに恵まれた漁場のヒミツなのだと、説明してくださいました。

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3つの海流がぶつかる三陸沖は栄養塩類が豊富なため、豊かな海の幸を育むことができる
(画像提供:東京大学大気海洋研究所 渡部寿賀子氏)

◇栄養塩類を調べるには

海の豊かさに欠かせない栄養塩類ですが、"海博士"たちはどうやって海の栄養塩類を調べているのでしょうか?木暮先生には、栄養塩類を調べるのに使う採水器をもってきていただきました。これでいろいろな深さの海水を採ってきて、その水を分析しているそうです。

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採水器

船で海に出て調査したい地点にたどり着いたら、まず目的の深さまで、ワイヤーやロープにつなげて蓋を開けた状態の採水器を船から下ろします。そして船の上からワイヤーに通した重りを落とします。この重りが採水器にたどり着くと、採水器の蓋を固定していたストッパーが外れて蓋が閉まり、水が採れるという仕組みです。この重りで蓋が閉まるところを、実演で見せていただきました!(蓋は見事に閉まったものの、重りの勢いが強すぎて、採水器が破損してしまったのはここだけの話......※本当は水中でないところで重りを落とすのはNGなのですが、今回は特別に実演していただきました)

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持ってきた採水器を見せてくださった伊知地稔先生(東京大学大気海洋研究所)。採水器の上下の蓋が開いている状態。この状態で、目的の深さまで下ろす。

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ロープに通した重りを落とすと、採水器の蓋が閉まる

採水器で採ってきた海水は、オートアナライザー(自動分析装置)にセットし、窒素やリンの量を測定します。こうしていろんな場所の、いろんな深さの海水の栄養塩類を調べているそうです。

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栄養塩類の測定をするオートアナライザー(自動分析装置)。海水をチューブに入れてセットすると、自動で分析ができる。

◇津波が起きた!海の栄養は大丈夫?

栄養塩類の豊かさに恵まれた東北の海ですが、3.11の地震・津波によって大きな影響を受けました。木暮先生が所属する東京大学大気海洋研究所には、岩手県の大槌町に附属研究機関である国際沿岸海洋研究センターがあります。このセンターは大槌湾という海に面した研究施設。津波は3階建ての建物の3階部分まで押し寄せました。これほどの大きな津波が起きたのですから、海の中も大混乱です。海の幸を育むのに欠かせない栄養塩類にはどんな影響があったのでしょうか?また、漁業が重要な地域ですから、魚たちへの影響も心配です。そこで木暮先生たち"海博士"が立ち上がり、大槌湾の栄養塩類を継続的に調べることにしました。

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津波が起きたとき、海の中では......
(画像提供:東京大学大気海洋研究所 渡部寿賀子氏)

◇豊かな海の幸を育む力は変わらない

木暮先生たちは、2か月に一度、大槌湾の水を採取して栄養塩類を調べることを続けました。その結果、震災後も大槌湾の豊かな栄養塩類は大きな変化がないことがわかりました。大槌湾は震災前と同じように、海の生き物を育む源に恵まれた海だったと、木暮先生はおっしゃいます。しかし、これで大槌湾の生き物たちも漁業も心配無用!というわけではありません。

◇海や漁業への影響は、この先も続く

津波で流されてしまい、大きな影響を受けた海の生き物は少なくありません。そのひとつ、アワビへの影響について紹介していただきました。アワビは赤ちゃん(稚貝)と大人(成貝)で、食べるエサもすんでいる場所も異なります。成貝は大きな海藻を食べるため、大きな海藻の茂った場所にすんでいます。一方、稚貝は小さな海藻を食べるため、岩がほとんどむき出しで小さな海藻だけ生えているような場所にすんでいます。3.11の津波が起きても、大きな海藻は流されずにある程度残り、その周りにいるアワビの成貝も残ることができました。しかし、稚貝は小さな海藻とともに流され、いなくなってしまったのだとか。アワビは、私たちが食べられる大きさの成貝になるまで少なくとも5年以上の長い時間がかかります。震災後、流されなかった成貝は成長していることが確認されていますが、稚貝がいなくなってしまった影響は、これから私たちに見えるようになるかもしれません。

また、陸で行われている復興工事も無関係ではないとのこと。陸からは川を伝っていろいろなものが流れてきます。陸の状況が変われば、海に流れてくるものやその量も変わるのです。大槌湾に面する場所でも嵩上げ工事や防潮堤の建設が行われていますが、雨が降ると建設に使われている土が大量に海に流されてしまう様子が見られているそうです。

◇これからも海の恵みを受け続けていくには

木暮先生たちの調査で、大槌湾には、震災後も海の生き物を育む源が豊富にあることがわかりました。しかし、それだけでは豊かな海を保っていくことはできません。そしてそれは、海の幸を食べる私たちにとっても無関係ではないはず。たとえば、今はまだアワビが獲れるから大丈夫だろう、とどんどんアワビを獲ってしまったら、数年後にはアワビが獲れなくなり、食べられなくなってしまうかもしれないと、木暮先生は危惧していました。

「海にはたくさんの生き物がつながり合って生きています。そしてその生き物たちが育つ場所があります。これらが維持できて初めて、私たちは海の幸を食べることができます。そのことを知り、これらを大切にしていきましょう」──この木暮先生のメッセージで、当日のトークを締めくくっていただきました。

これからも海の恵みを受け続けていくために、"海博士"たちは科学で挑み続けます。しかし、科学だけですべては解決できません。海に生きる漁師の方々や海の幸を食べている私たちも協力しあって、みんなで豊かな海を守っていきましょう!


このあと、他3名の"海博士"たちのトークも本ブログで紹介していきます。ぜひお楽しみに!

*東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)
東北大学、東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構が中心となって実施している事業。震災直後の2011年度からスタートし2020年度まで続く10年間のプロジェクト。


【関連サイト】
東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS)ホームページ
https://www.i-teams.jp/j/index.html

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、東京大学大気海洋研究所の木暮一啓先生、渡部寿賀子氏には大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。



Author
執筆: 田中 沙紀子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
生徒も先生もみんな自由でキャラが濃い。そんな充実した高校生活を送り、いろんな人と出会う楽しさを知りました。その後、興味をもった理系の道に進み、大学院修了。企業で働く中で、科学の情報をなかなか知ってもらえない壁に直面。いろんな人と出会い、科学のおもしろさを共有したいと思い、2018年より未来館へ。