2018年、最後のクールとなる秋ドラマがほぼ終了。テレビ朝日の木曜21時枠『リーガルV』、TBSの日曜21時枠『下町ロケット』が前評判通りの高視聴率を記録したほか、『大恋愛』(TBS系)、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)がネット上の話題を席巻するなど、約3カ月間のすべてで盛り上がりを見せた。

ここでは、「“生きづらさ”の描きづらさ」「直球にまぎれ込んだ超変化球」という2つのポイントから秋ドラマを検証し、全18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

ポイント1:“生きづらさ”の描きづらさ

  • 大恋愛

    『大恋愛』に出演した戸田恵梨香(左)、ムロツヨシ

今秋はとにかく“生きづらさ”を描いた作品が多かった。

理不尽な状況でも言いたいことを言えない『獣になれない私たち』(日テレ系)、自分の気持ちに素直に生きられない『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系)、「好きだけではダメ」という世間の同調圧力に苦しめられる『中学聖日記』(TBS系)、若くして難病を患い不安を抱えて生きる男女の『大恋愛』。

左遷、介護、夫婦関係など中高年の厳しい現実を描いた『黄昏流星群』(フジ系)、未婚男女の結婚しづらい現状にスポットを当てた『結婚相手は抽選で』(フジ系)、大企業や権力者の思惑に翻弄される『下町ロケット』。

主人公の目線から厳しい現実を見せつつ、徐々に答えを見出していく様子を描いて視聴者を勇気づけるような作品が多かった。各局のスタッフは、「“生きづらさ”を抱えながら生きる現代人への静かな応援歌」のようなドラマを作ろうとしていたのだろう。

しかし、上記のようなシビアな世界観のドラマは、「苦しい気持ちになって見ていられない」という視聴者が多く、視聴率では苦戦必至。それをわかった上で勝負し、試行錯誤したのだが、コアなファンを獲得した反面、視聴率の面では思うような成果をあげられない作品が大半を占めた。

ただ、各局のテレビマンがプライドを賭けて描きづらいものに挑んだ姿勢は、視聴率という時代錯誤な数値以上に、視聴者の心を揺さぶったのではないか。

ポイント2:直球にまぎれ込んだ超変化球

  • 下町ロケット

    『下町ロケット』に出演した竹内涼真(左)、阿部寛(中央)、安田顕

“生きづらさ”を描いた作品が苦しむ中、最大の話題作となったのは、まさに大穴の『今日から俺は!!』。ヤンキー、80年代カルチャー、30年前の漫画……放送前は「今どきの視聴者にウケるのか?」「喜ぶのは(脚本・演出の)福田雄一ファンだけだろう」という声も多かったが、そんな不安を軽々と乗り越えていった。

序盤は賀来賢人、伊藤健太郎、太賀、橋本環奈ら若手と、佐藤二朗、ムロツヨシ、吉田鋼太郎、シソンヌら福田組常連のアドリブ演技で笑いを誘う程度だったが、ジワジワとファン層を拡大。笑い、アクション、ラブなどを兼ね備えた映像で、子どもには「カッコよくて面白いヒーローの物語」、大人には「80年代のノスタルジーとゆるいムードを楽しむコメディ」となった。

池井戸潤小説のシリーズ作『下町ロケット』、米倉涼子×弁護士ドラマの『リーガルV』が直球なら、『今日から俺は!!』は超変化球。原作のチョイスから、あえて各話のストーリーに統一感を持たせなかった脚本、全身全霊で笑いに走る演出など、すべて近年のドラマ制作におけるセオリーとは一線を画すスタンスだった。

『下町ロケット』『リーガルV』などがど真ん中の直球だった分、ストライクゾーンから大きく外れる変化球『今日から俺は!!』の効果は絶大。両者がそろったことで、それぞれの魅力は増幅されて、秋ドラマ全体が盛り上がった。

日曜22時30分~という視聴率獲得が難しい時間帯での2桁記録や、未公開カットを配信したHuluでの会員ゲットも見事。とりわけ称賛されるべきは、「ネットのほうが面白い」と言いがちな子どもたちからの熱狂的な支持を集めたことで、「テレビも面白い」と印象づけられたのではないか。


上記を踏まえた上で、秋ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、老若男女を爆笑の渦に巻き込んだ『今日から俺は!!』。思い切った挑戦と細部の努力で、「ドラマでなくコント」というアンチの声を徐々に減らしていく過程は圧巻だった。

「脚本・演出・演技の質」という意味では、『結婚相手は抽選で』と『ハラスメントゲーム』(テレビ東京系)も負けていない。その他では、『昭和元禄落語心中』(NHK)、『忘却のサチコ』(テレ東系)、『僕らは奇跡でできている』(フジ系)も、キャストとスタッフの熱が伝わるような力作だった。

主演俳優では、好対照の役作りを見せた賀来賢人と野村周平、山口紗弥加と戸田恵梨香。助演では、ハマリ役の山崎育三郎と小手伸也、登場シーンは少ないながら強烈な印象を残した橋本環奈と富山えり子。また、演技初挑戦の岡田健史は、その未成熟さを中高生の持つみずみずしさにつなげていた。

  • 【最優秀作品】『今日から俺は!!』 次点-『結婚相手は抽選で』『ハラスメントゲーム』
  • 【最優秀脚本】『ハラスメントゲーム』 次点-『僕らは奇跡でできている』
  • 【最優秀演出】『昭和元禄落語心中』 次点-『今日から俺は!!』
  • 【最優秀主演男優】賀来賢人(『今日から俺は!!』) 次点-野村周平(『結婚相手は抽選で』)
  • 【最優秀主演女優】山口紗弥加(『ブラックスキャンダル』) 次点-戸田恵梨香(『大恋愛』)
  • 【最優秀助演男優】山崎育三郎(『昭和元禄落語心中』) 次点-小手伸也(『SUITS』)
  • 【最優秀助演女優】橋本環奈(『今日から俺は!!』) 次点-富山えり子(『結婚相手は抽選で』)
  • 【優秀若手俳優】岡田健史(『中学聖日記』) 松本享恭(『結婚相手は抽選で』)