今年3月、小田急線代々木上原~登戸間の複々線が完成。新ダイヤでは新宿~箱根湯本間の所要時間が最速73分となり、改正前より9分短縮されたほか、土日祝日の新宿方面の最終列車が箱根湯本駅22時7分発となり、改正前と比べて74分繰り下げられた。箱根観光をゆったりと楽しめるようになった。

  • 小田急電鉄の新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)

    小田急電鉄の新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)。今年7月から2編成目も就役している

同じく今年3月にデビューした新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)は、今年7月から2編成体制に。展望車両のある特急ロマンスカーはVSE(50000形)と合わせ、2形式4編成となった。

このような小田急線の変貌により、都心から箱根方面のアクセスはより速く、快適になったといえる。その箱根で、今年から「箱根・すてきな灯り」(以下「すてきな灯り」)というイベントが開催されているのをご存知だろうか。

冬の箱根で「あたたかい気持ちになっていただきたい」

「すてきな灯り」は海賊船・遊覧船や美術館、レストランなど11施設が参加。ライトアップや「灯り」をテーマにした展示を行うイベントである。

「紅葉シーズンが終わる12月から2月の箱根は閑散期になります。昨年までも集客を図るべく、施設ごとにイベントを行っていましたが、冬の箱根をより盛り上げようということで、箱根全体でイベントをやろうということになりました」と、箱根プロモーションフォーラム代表理事の稲葉健二氏は言う。

冬の箱根といえば温泉、あるいは箱根駅伝といったイメージがある一方で、「寒い」「雪で路面が凍結しているのでは?」といったマイナスイメージを持たれることもある。しかし実際には、温暖化の影響もあって近年の降雪回数は減っており、記録的な寒さといわれた昨季も、道路への積雪が見られたのは5回くらいだったという。

「『灯り』を見ていただくことで、お客様に少しでもあたたかい気持ちになっていただき、冬の箱根のマイナスのイメージを払拭したい」と、稲葉氏は今年から始まるイベントに込める思いを話した。

「灯り」の企画展とオリエント急行のティータイム

今回は「すてきな灯り」に参加する施設等のうち、「箱根ラリック美術館」「箱根ガラスの森美術館」「彫刻の森美術館」と、芦ノ湖を運航する「箱根海賊船」のライトアップについてレポートする。

最初に訪れたのは箱根ラリック美術館。ススキの名所として名高い仙石原に近い自然豊かな環境にあり、フランス人ジュエリー作家でガラス工芸家でもあったルネ・ラリック(1860-1945)の作品約1,500点を収蔵。約230点を常設展示している。

  • 箱根ラリック美術館では照明作品をテーマにした企画展を実施。普段、素通りしてしまう天井の照明も、じつはラリックの作品

  • 日本刀の鍔(つば)をモチーフにしたティアラ型照明。ラリックが手がけたベッドサイドランプは、この形状が多い

ラリックは20代から40代までの前半生でジュエリー作家としてのキャリアを築いた後、香水瓶の制作を皮切りに、52歳になった1912(大正元)年以降、ランプ等を制作するガラス工芸家に転身した。一般に「アール・デコ博」と呼ばれる1925年開催の博覧会では、高さ15mの噴水塔をガラスで制作し、観る者を圧倒したという。

箱根ラリック美術館では、12月22日から来年3月17日まで、照明作品をテーマにした企画展「あかりの競演 ラリックとドーム兄弟」を開催する。1879(明治12)年にエジソンが白熱電球を発明した後、いち早く照明器具を手がけたドーム兄弟の作品と、これに続く時代に照明器具を手がけたラリックの作品を展示する。

同美術館の学芸員、林田早代氏は、「アール・ヌーヴォー期のドーム兄弟の作品は、色ガラスや何層にも重ねた曇りガラスを使い、光を和らげています。ロウソクやガス灯のほのかな灯りに慣れている人たちにとって、心地良いものでした。続くアール・デコ期に活躍したラリックの作品は、透明ガラスをおもに使用するほか、たっぷりとしたガラスの存在感が際立っているのが特徴。特許も取得した、ガラスの裏面に彫られた文様を下からの光源で浮き彫りにする技法などにも着目してほしい」と話す。

  • 「オリエント急行」の客車内では、優雅なティータイムを楽しむことができる

  • 「オリエント急行」の客車内のガラスパネルなどの装飾もラリックが手がけた

箱根ラリック美術館といえば、パリと南仏を結ぶ「コート・ダジュール号」として製作され、後に「オリエント急行」として使用された客車(サロンカー)が保存されている点も興味深い。客車内では、ラリックが手がけたガラスパネルなどの装飾を眺めながら、優雅なティータイムを楽しむことができる(現地で予約。所要時間約40分)。

箱根ラリック美術館のイベントインフォメーション
「あかりの競演 ラリックとドーム兄弟」
開催期間 2018年12月22日~2019年3月17日
開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 無休

カップルのガラス製クリスマスツリー

続いて箱根ガラスの森美術館を訪ねた。敷地内にある「ヴェネチアン・グラス美術館」では、ヴェネチアン・グラスの作品を常時100点ほど展示している。美術館でありながら堅苦しさがなく、まるでヴェネチアの貴族の館に遊びに来たような感覚で楽しめる。こどもから大人まで幅広い層に人気がある。

冬季の同美術館で必見といえば、クリスタルガラス製の大小2本のクリスマスツリー「ラ・コッピア」だろう。「コッピア」はイタリア語で「カップル」を意味し、大きいツリーは「ロミオ」、小さいツリーは「ジュリエット」と名づけられている。

  • 箱根ガラスの森美術館に展示されたクリスタルガラス製の大小2本のクリスマスツリー「ラ・コッピア」(写真提供 : 箱根ガラスの森美術館)

  • イタリアには、イエス・キリストの誕生シーンを表現した「プレセピオ」を飾り、クリスマスを祝う風習がある。写真はヴェネチアン・グラス製の「プレセピオ」

もともとは1本のツリーを2004年から展示してきたが、2013年に全国のクリスマスツリーを対象にした「一生に一度、必ず見ておきたい」クリスマスツリーランキングで第2位に選ばれて以来、知名度も人気も急上昇。新たなツリーが制作され、2014年から2本展示されている。

同美術館の広報担当主任、柳井康弘氏によれば、「ツリーはクリスタルガラスを使用し、当館のスタッフが手作業で作った完全オリジナルで、他では見られません。また、ツリーは年々バージョンアップしており、現在、ロミオは8万5,000粒、ジュリエットは6万5,000粒、合計で15万粒のクリスタルガラスを使用しています。昼間は太陽の光に輝き、夕方はライトアップに幻想的にきらめく様子を楽しんでください」とのことだ。

また、今年はクリスマスツリーのどこかに、幸せを呼ぶカップルの置物「ふくろうのサンタクロース」を隠しているそう。ふくろうは西洋において智恵の象徴とされ、ここ日本でも「不・苦労」ということで、非常に縁起が良いのだとか。小さなものなので、目を凝らして探してみてほしい。

  • レストランではイタリア人歌手による「カンツォーネ クリスマス スペシャル コンサート」が行われる

その他、館内では12月25日まで、イエス・キリストの誕生場面をヴェネチアン・グラスで表現した「プレセピオ」を中心に、聖書の世界を紹介する特別企画展が行われている。レストランではイタリア人歌手による「カンツォーネ クリスマス スペシャル コンサート」も行われるなど、クリスマス特別企画が盛りだくさん。イベントが充実するクリスマスシーズンこそ、ガラスの森に足を運んでおきたい。

箱根ガラスの森美術館のイベントインフォメーション
クリスタルガラス製のクリスマスツリーの展示
開催期間 2018年12月1~25日(クリスマス後は一部装飾を変え、3月中旬まで展示)
開館時間 10:00~17:30(入館は17:00まで)
12月21~24日は19:30まで開館時間を延長(入館は19:00まで)
休館日 2019年1月15~25日は冬季休館日