日本ハムと同社の子会社であるインターファーム、NTTデータ、NTTデータSBCは12月19日、AI/IoTを活用した養豚場の働き方改革を促進する「スマート養豚プロジェクト」を開始すると発表した。

同プロジェクトでは、12月よりインターファームの知床事業所第一農場にIoT技術を導入し、AI技術開発を進めており、まずは、豚舎へカメラや温湿度などの環境センサを設置し、豚の飼育状況をリアルタイムで把握。また、収集したデータを基にして、仔豚の健康や母豚の交配可否などをAIで判別する技術の開発を進める。

  • プロジェクトの開発イメージ

    プロジェクトの開発イメージ

各社の役割として、日本ハムの中央研究所とIT戦略部が養豚における研究ノウハウの提供、同社内で関連する社内インフラとの連携、セキュリティなど必要対策の検討・実施を、インターファームがフィールドの提供、養豚の飼育プロセスにおけるノウハウの提供を、NTTデータがIoT機器の提供、動画・センサデータの収集および収集したデータを取り込み豚の発情や飼育状況を学習・判定するAIモデルの構築、最新のAI/IoT技術の提供を、NTTデータSBCがネットワークインフラの設計、IoT機器の選定・設置、動画・センサデータの収集・閲覧ソフトウェアの提供を、それぞれ担う。

現在、インターファームでは国内4事業所、70農場(預託含む)を展開し、年間62万頭の養豚を出荷し、近年では養豚個数は減少している一方で農場の大規模化が進み、企業養豚が増加しており、1農場あたりの飼養頭数は20年前と比較すると約2倍以上の平均2000頭に拡大しているという。

養豚の生産は繁殖と飼育の2つの工程で成り立っている。繁殖では交配、妊娠、分娩、離乳と約150~160日周期のサイクルがあり、飼育では離乳した仔豚を出荷可能にまで育てる。しかし、これらの工程における判断は飼育者(経験値)への依存度が高くなっている。

日本ハム 中央研究所 所長の村上博氏は養豚業が抱える課題として「特に企業養豚では労務管理が発生する。従業員に長時間労働で無理をさせることはできないほか、養豚管理の従業員を確保するためにも働き方改革を進める必要があり、充分な飼育時間の確保も難しくなっている」と指摘。

  • 日本ハム 中央研究所 所長の村上博氏

    日本ハム 中央研究所 所長の村上博氏

そこで、同プロジェクトは生産性の向上や技術継承、人材確保、長時間労働の解消を目的にAI/IoT技術を活用し、これまで人の目では気づかなった豚のシグナルを捉え、豚が快適で健康に育つために必要な飼育作業を省力的・効率的かつ的確に行える管理支援システムを開発する。

  • プロジェクトの目的の概要

    プロジェクトの目的の概要

例えば、母豚の発情兆候を判別する場合、従来は作業員が一頭一頭のエサを食べる量や雄豚と接触した際の反応、人が触れた時の行動の変化などを注意深く観察し判断してきたが、AIによる画像判定を行うことで、労務の軽減とともにノウハウの継承や生産性・品質の向上、安定化を図ることができるという。

  • 養豚管理支援システム運用イメージ

    養豚管理支援システム運用イメージ

NTTデータ 第四製造事業部長の杉山洋氏はシステム構築のポイントとして「気温や雪など厳のしい自然環境、豚舎内外における豚やネズミの噛みつきなどによる機器設備の破損リスク、複数の豚舎の統合管理、公衆ネットワークの利用、豚の画像判定などの課題解決を実現していく必要がある」と説明した。

  • NTTデータ 第四製造事業部長の杉山洋氏

    NTTデータ 第四製造事業部長の杉山洋氏

IoTシステムについては、すでに同農場にカメラ18台、環境センサ4台を導入。環境センサについてはNTTデータSBCが独自開発した通信や温度・湿度・二酸化炭素、アンモニアといった複数のデータ取得が可能なセンサ制御などを備えたマルチセンサターミナルを採用し、拡張性を担保しつつ低コストを実現している。

  • IoTシステムの概要

    IoTシステムの概要

  • マルチセンサターミナル

    マルチセンサターミナル

AIシステムに関しては、仔豚・母豚をAIで個体認識した上で分析する学習モデルを開発し、来年度から段階的に知床事業所第一農場に導入を予定。初期段階においてはAIによる画像判定をエッジ側で完結するスタンドアロンの構成で実現し、今後は導入範囲が拡大する中でAIエンジンの拡充が必要となるが、ネットワーク環境の状況やエッジ側とクラウド側の機能配置を見極めた上で最適なシステムを構成していく考えだ。

AIの技術的な観点としては、現状ではセグメンテーションの技術を応用した物体認識の開発を進めており、各仔豚を特定することで行動や位置情報を画像から判定し、行動量を定量化した上で、実際に飼育員が不調と判断した様子との相関を分析している。

  • AIシステムの概要

    AIシステムの概要

NTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部 課長の高村哲貴氏は「行動量を定量化すること自体が新しい取り組みだ」と強調する。

  • NTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部 課長の高村哲貴氏

    NTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部 課長の高村哲貴氏

行動量を定量化することで、これまで飼育員が気づいていないような行動特性をデジタル化することが可能となるという。また、密集と分散の行動特性が不調と相関性があるのかといことを検証するために、クラスタリングの手法を用いて仔豚の位置情報から密集度を可視化することにも取り組んでいる。

以下は、仔豚の体調管理(育成後期舎)に関するAIシステムのデモ。

高村氏は「今後は豚舎の温度、湿度などの環境情報、行動の定量化情報などをつなぎあわせ、仔豚の不調に関して、どのような判定が可能なのかということも実施する。そして、最終的には仔豚のシグナルを現場の仔豚の不調判定、母豚の発情判定につなげることに加え、養豚場の管理指標やセンサ情報などを可視化することで、管理業務の効率化、品質向上に寄与したいと考えている」と、述べていた。

日本ハムでは、今回のプロジェクトを通じて、豚の行動パターンから健康状態の悪化を検知する技術や、繁殖母豚のたね付時期や分娩時期を推定する技術、仔豚の体型・行動から空調・餌をコントールする技術など、養豚の効率化、省力化に関するトータルサポートを実現する養豚支援システムを目指す。さらに、畜産業におけるAI/IoT技術活用ノウハウを蓄積し、グループ内の農場にデジタル化技術、IoT活用技術を幅広く展開していく方針だ。

  • 左から村上氏、杉田氏

    左から村上氏、杉田氏