Spotifyはアーティストへの支払い方法を変えるべきか?

配信サービスの大手Spotifyは、有名ポップスターへの優遇措置を講じていると関係者が明かした。新たな支払いシステムがその解決策となるのか? 

「再生回数90,000回で8ポンドを受け取った。Spotify、死ね!」
(※8ポンド=約1,150円)

これは、イギリスのエリクトロニック・ミュージックのパイオニア、ジョン・ホプキンスが2011年にTwitterに投稿した言葉で、世界最大の音楽サブスクリプションサービスに対する、最も簡潔で分かりやすい攻撃だ。

しかし、人々の記憶に残る攻撃的な発言はレディオヘッドのトム・ヨークが発している。5年前、ヨークはメキシコの音楽情報誌Spitasに「ミュージシャンの俺たちはSpotifyとかいうヤツと戦う必要がある」と述べ、Spotifyとレコード業界の関係を「死にゆく死体から出る最後の屁」と同じだと言い放った。

同世代のアーティストの中でも言葉遣いの上手さで名高い作詞家のヨークが、”頭痛が痛い”的な言葉遣いをしていることに驚きを隠せないが(死体は既に死んでいる状態の身体を指す)、これこそが発言当時の彼の苛立ちを表していたのかもしれない。しかし、当時の彼の予感は完全に間違っていた。ヨークがこのような反Spotify発言をした後、同社のユーザーベースは400%の伸びを見せ、2013年は3,600万人だった加入者が現在では1億9,100万人になっている。また、有料サービス加入者単体の増加率は1,300%で、当時600万人程度だったユーザー数が現在では8,700万人まで増加した。

Spotifyによって加速した音楽配信サービスは、アメリカ国内のレコード音楽業界に3年連続の黒字をもたらした。そして、今から12ヶ月前、ひっそりとヨークのソロ音源が4年振りにSpotifyで聴取可能になっていた。これは、テイラー・スウィフトやザ・ブラック・キーズに続いて、レディオヘッド軍団の反Spotify運動が軟化したことを反映していたわけだ。

しかし、Spotifyのアーティストへの印税支払い論争はまだ終結の兆しすら見えない。

音楽業界は、2019年にSpotifyがパフォーマーに支払う印税で再び論争が巻き起こるのを待っている状態だ。しかし、次の論争では、金額ではなく、印税の支払い方法が論争の的となるだろう。


音楽配信サービス各社が行っている単純な「比例分配支払い」に倣って、Spotifyも著作権保有者に印税を支払っている。つまり、毎月発生する分配可能な収益の総額を配信会社がプールし、この収益を曲ごとの人気度に準じて分け合うわけだ。分かりやすく説明すると、12月の一ヶ月にドレイクの楽曲5曲が全ユーザーの2%に再生された場合、ドレイク(とこの5曲の著作権を持っているすべての著作権保有者)はSpotifyの全ユーザーが支払った総額の2%を受け取ることになる。

確かに、この支払い方法は公平に思える。しかし、実はアーティストによって事情が異なるのだ。業界関係者によると、この計算方法は大ヒット曲を量産するポップスターに有利に働くようになっていると言う。そして、それ以外のミュージシャンやアーティストたち(例えば上のジョン・ホプキンスなど)には正当な支払いが行われない。

そのため、そういうミュージシャンやアーティストは、Spotifyもその他の音楽配信サービスも「ユーザー重視」の支払いシステムを採用すべきだと主張しているのだ。この「ユーザー重視」支払いを簡単に説明すると、一人のユーザーがSpotifyプレミアムに月額9.99ドル(日本は月額980円)払って、1ヶ月間ジョン・ホプキンスの楽曲しか聞かなかった場合、このユーザーの分配可能な金額(月額6.99ドル前後)が全部ジョン・ホプキンスに支払われるというシステムだ。これは全ユーザーの何%が再生したのかを計算して、その割合に比例して分配するのではなく、個々のユーザーの再生実績を軸に分配可能金額を計算する方法と言える。

2017年11月に、現地の複数のミュージックトレード団体による共著として出版されて物議を醸したフィンランド発の研究報告書が、この議論に火を点けた。デジタル・メディア・フィンランドの報告によると、研究者たちはSpotifyが提供した2016年3月のフィンランド国内のプレミアム加入者の匿名のユーザーデータを分析した。この研究では、10,000曲と4,493人のアーティストに関する800万回以上の配信を分析し、同サイズのサンプルによって5回分析を重ねて確認作業を行った。

この分析で発見された結果は、現行のSpotifyの比例分配システムでは、(全体的な人気度の)上位0.4%のアーティストによってレコーディングされた楽曲に総額の9.9%が支払われている。しかし、「ユーザー重視」システムが導入されたと仮定したケースを分析したところ、研究者が得た結果は全く異なるものだった。つまり、このシステムだと、上位0.4%のアーティストが得るのは総額の5.6%というのだ。

この研究で算出された4.3%の差額は、残りの99.6%に分配される金額に含まれる。この報告書では、両システム間の差額が「かなり大きく」、「ユーザー重視システムは配信回数の少ないアーティストに向いている」と結論付けられている。

加えて、「比例分配システムは再生回数が最も多いトップ数人のアーティストに向いている」とも記されている。

では、公平と民主主義のために、Spotifyは貧乏アーティストに分配する印税を金持ちアーティストからくすねる潮時に来ているのか?と思う読者もいるだろうが、もう少しこの分析結果にお付き合いいただきたい。

この報告書が出た後にSpotify所属の経済部門の責任者ウィル・ペイジが行った追加の研究では、上記の研究結果に疑問を呈している。2018年8月に発表されたペイジの研究報告書では、「何百万というアーティストに紐付けされている何百万というアカウントを作って維持する」必要が生じるため、「ユーザー重視分配システムを導入して実現するには膨大なコストが必要となる」と主張している。

そして、その結果、増加し続けるシステム管理費に圧迫されて、Spotifyからアーティストに支払われる印税総額は「激減」するだろうと、同報告書は述べている。ペイジの報告書では仮定のサンプルが提示されており、平均的なアーティスト(つまり99.6%のアーティストたち)は、膨大なシステム管理費のために「ユーザー重視システムを導入しても何の得もないだろう」と結論付けている。


この研究報告書では、異なる業界の似たようなシステムを例にして説明しており、スポーツジムの会員だとすると、月額を払って提供されるサービスは「すべてのマシンの使用許可を選ぶか、マシンを一切使えないことを選ぶか」の二者択一になると言う。

この報告書で議論されているもう一つの点は、2月にミュージック・ビジネス・ワールドワイドが暴いたSpotifyに対する巧妙な詐欺行為に関連している。2017年にブルガリアで発生した詐欺行為では、複数の容疑者がSpotifyのプレミアム・アカウントを1,000以上購入して、毎日24時間ループ状にした音楽を再生し続けた。

このとき、(何ヶ月にも渡って)これらの偽造アカウントで再生された楽曲はすべて詐欺師が著作権を所有していたものばかりで、その詐欺師は印税として約100万ドルの収入を得たのだ。これは最初に不正に入手した1,000以上のアカウントの購入費を遥かに凌ぐ金額である。

Spotifyはこの事件のあとで詐欺防止チームを増強したのだが、この事件が起きた当時は、この詐欺行為を途中で止めることに失敗したのである。理由は、不正に使用されたアカウントがすべて有料アカウントだったことだ。彼らは、何千ドルも払ってそれ以上の大金を稼ぐ利口なろくでなしがいるとは考えもしなかったのである。

(この詐欺事件は現在、音楽業界の経営者や重役たちの間で語り草となっている。特に、Spotifyなどの配信サービスの再生カウントを偽装する「ストリーム農場」なるものが出現し、無数のディバイスを使って偽の再生カウントを量産している。11月に暴かれた「ストリーム農場」の実態を撮影した驚愕のビデオが公開されている。)

ブルガリアのSpotify詐欺事件を受けて、イギリスに本拠地を置くミュージック・マネージャーズ・フォーラム(これはイギリスのトップレベルのアーティスト・マネージャーが集うフォーラムだ)は、Spotifyやその他の配信サービスはユーザー重視ライセンスを行うべきだと公言した。

同フォーラムのCEOアナベラ・コールドリックは、ユーザー重視システムが「ユーザーが申し込んだ以上のリターンがないわけだから、例の『見事なSpotify詐欺』のような詐欺行為を防ぐだろう」と予想している。そして、「ユーザー重視システム導入と維持の煩雑さは承知しているが、このシステムが本質的に公平で(中略)ストリーミング価値連鎖全体に透明性と説明責任(アカウンタビリティ)という利益を与えると、当フォーラムのメンバーたちは信じるようになっている」と付け加えた。

コールドリックに賛同する音楽業界の重鎮がメディア・リサーチの創設者マーク・マリガンだ。2015年に「ユーザー重視ライセンス」という言葉を最初に使ったのがマリガンである。彼は「ユーザー重視ライセンスには、強力な特性がたくさんあるが、アーティストの収入分配という点ではインパクトは弱い。とは言え、多くの点で(比例分配システムよりも)公平さがあり、みんなそうだと思うが、アーティストに対して公平でいたいと思うなら、どのタイプの公平さが良いかなんて選べるわけがない」と、私に教えてくれた。

SpotifyのライバルであるDeezerは1年以上前からユーザー重視ライセンへの移行を見据えて慎重に調べを続けており、トップレベルの業界関係者の間ではAmazonもAmazon Music Unlimitedのようなサービスでの導入に関して調査を進めているという噂がある。

ユーザー重視ライセンスに反対する者がいるとしたら、世界最大のレコード会社か音楽出版社だと大抵の人は考えるだろう。研究報告書を読むと、これらの大企業が比例分配システムから商業的な利益を得ているのも事実だ。

しかし、毎年5億5,000万ドル以上の売り上げを出し、ローリング・ストーンズも顧客の、世界で4番目に大きい音楽著作権管理会社BMGのCEOハルトヴィッグ・マズーチは変化に大賛成だと言う。

「私にとって、公平性が最も重要だ」と、もうすぐミュージック・ビジネス・ワールドワイドで公開されるインタビューで語っている。「大した違いはないと言いたい企業もあるだろうが、アーティストに『このシステムは公平で、こんなふうに機能する』と説明できるのであれば、そんなことは問題ではない」と。

そして「ユーザー重視ライセンスに関する議論は、ストリーミングの進化の新たな段階として今後話し合われる論争となるべきだ」と付け加えている。

ティム・インガムはミュージック・ビジネス・ワールドワイドの創業者兼発行人で、2015年から世界の業界関係者に向けてニュースや分析、募集情報などを提供しており、ローリングストーン誌のウィークリー・コラムも担当している。