韓国航空宇宙研究院(KARI)は2018年11月28日、純国産ロケット「ヌリ号」の、エンジン試験用ロケットの打ち上げに成功した。

今回の試験は、新開発のエンジンの性能の検証や確認を目的としたもので、今後さらに開発を進め、2021年に衛星の打ち上げに挑む。

韓国はかつて、ロシアと共同でロケットを開発するも、発展が見込めず頓挫。国産化に向けて舵を切った。今回の試験の成功で、いよいよその実現の日が見えてきたが、まだ課題も残っている。

  • 韓国の純国産ロケット

    韓国航空宇宙研究院(KARI)が2018年10月28日に打ち上げた、純国産ロケット「ヌリ号」の、エンジン試験用ロケット (C) KARI

韓国のロケット開発

韓国の宇宙開発は1990年代に本格化し、とくに小型衛星の開発では大きな実績をもつ。

すでに、KARIが運用する偵察・地球観測衛星はほぼ国産化している他、民間の宇宙ベンチャーも活発で、国外へ衛星やその部品などの輸出も行っている。たとえば、この10月にH-IIAロケット40号機で打ち上げられた、アラブ首長国連邦の地球観測衛星「ハリーファサット」もそのひとつである。

また近年では、中型・大型の静止衛星の開発にも力を入れており、この12月4日には、韓国の技術で開発した初の静止軌道衛星「千里眼2A」が欧州の「アリアン5」ロケットで打ち上げられた。

その一方、こうした衛星を打ち上げたのが他国のロケットであることからもわかるように、韓国は現在、衛星を打ち上げるためのロケットをもっていない。

韓国は1970年代に、北朝鮮に対抗して弾道ミサイルの開発を計画。しかし、米国との取り決めで射程などに制限が加えられ、また科学目的の小型観測ロケットの開発も行われたものの、いずれも衛星打ち上げロケットに発展する余地はなかった。

しかし、1998年に北朝鮮が衛星打ち上げに挑んだことに触発され、韓国も衛星打ち上げロケットの開発に本腰を入れることを決断。当初は独自に開発する計画だったが、ノウハウが不足していること、また開発をスピードアップさせる目的から、2004年にロシアから技術導入を受けることが決まった。

そして、ロシアが手がける第1段と、韓国が手がける第2段とフェアリングをもつ、「KSLV-I」ロケット、愛称「ナロ号」の開発が始まった。

当初、韓国はこの共同開発を通じて、ロシアからロケット技術を習得するつもりだったとされる。実際、打ち上げ能力を強化した発展型の開発も計画していた。しかし、ロシア側は単にロケットの完成品を売り込むことだけを考えており、ナロ号の組み立てや整備に韓国側が立ち会うことはできなかったという。

ナロ号は2009年と2010年に打ち上げるも失敗。2013年1月30日に打ち上げた3号機で成功を果たした。しかし、1号機の打ち上げの時点ですでに、ロシア側から技術が得られないことが明確になっており、ナロ号はそれ以上の発展が見込めなかった。

そこで2010年、韓国は心機一転、ロケットを独自で開発することを決定。そして開発が始まったのが、「KSLV-II」ロケット、愛称「ヌリ号」である。

  • 韓国がロシアと共同開発したナロ号

    韓国がロシアと共同開発したナロ号。2回の失敗を経て、2013年に3回目の打ち上げで成功。しかしそれをもって運用を終え、国産ロケットの開発へと舵を切った (C) KARI

ヌリ号(KSLV-II)

  • ヌリ号の想像図

    ヌリ号の想像図 (C) KARI

ヌリという愛称は公募で選ばれたもので、韓国の古い言い回しで「世」、「世界」という意味をもつ。

全長は約47.2m、直径は約3.5m。高度600~800kmの地球低軌道に約1.5トンの打ち上げ能力をもつ、小型~中型ロケットである。

ロケットは3段式で、1段目に新開発の推力75トンf級の大型エンジンを4基、第2段に同じく推力75トンf級エンジンを、真空用の大きなノズルに改修したものを1基装備。そして第3段には、推力7トンf級の小型エンジンを装備する。75トンf級も7トンf級も、推進剤にケロシンと液体酸素を使う、ガス・ジェネレイター・サイクルのエンジンである。

射場は、ナロ号と同じく、全羅南道の高興にあるナロ宇宙センターを使う。射点も同じで、発射装置なども一部改修されつつも、基本的には流用しているようである。

ロケットの開発は2010年3月から始まり、2015年7月までを第1段階とし、ロケットの予備設計や7トンf級エンジンの開発を実施。続いて2015年8月から2018年12月までを第2段階として、ロケットの詳細設計や75トンf級エンジンの開発と地上試験、そして同エンジンの性能の検証や確認を目的とした試験ロケットの打ち上げを実施する。

さらに並行して、2018年4月から2021年3月までを第3段階とし、さらなる開発と、そして2回の試験打ち上げを行い、ヌリ号の開発を完了させる計画となっている。

他のロケット開発の例に漏れず、ヌリ号の開発においてもさまざまな困難が立ちふさがった。たとえば、もともとナロ号開発の前に国産開発を目指していたこともあり、ある程度エンジンの技術はあったものの、それでも推力75トンf級エンジンの開発では、燃焼試験で振動が発生するなど難航した。

そして政争の具として利用されるという不運もあった。開発がスタートして2年が経った2012年、朴槿恵・前大統領はその選挙戦中に「2020年に月に太極旗を立てる」という公約を発表。それを受け、ヌリ号の開発を約1年ほど前倒し、2019年と2020年に完成形の機体を打ち上げ、さらにこの2020年の打ち上げで無人の月着陸機を載せることになるなど、計画は迷走した。

もっともその後、開発者らからの非難の声、そして朴氏が大統領を罷免されたこともあり、計画は修正。現在では、2021年に完成形のヌリ号の試験打ち上げを行うという計画になっている。

また月探査機についても、まず2020年に月周回探査機をスペースXの「ファルコン9」ロケットで打ち上げ、月着陸探査機の打ち上げ時期は2020年代中ということ以外、詳細はまだ未定という、現実的な計画となった。

  • 推力75トンf級ロケット・エンジン

    ヌリ号の開発の肝となる、推力75トンf級ロケット・エンジン (C) KARI