西武鉄道は、2018年10月29日に新型特急電車001系「Laview」の概要を発表した。このニュースは、すでに多くのマスコミによって速報され、ご存じの方も多いことだろう。

この車両は西武池袋・秩父線(池袋~西武秩父間)への投入が予告された。列車としての愛称がどうなるかは未発表だが、現在の特急「ちちぶ」と「むさし」(池袋~飯能間)が、001系に置き換えられる。

001系の新製予定は2018年度に8両編成×2本、2019年度に8両編成×5本の、計7本である。これは現在、「ちちぶ」「むさし」に使用されている、池袋線配置の10000系特急電車の本数(7両編成×7本)に付合する。両列車の001系への完全な置き換えが予想されるところだ。

斬新なエクステリア、インテリアデザインで話題となった西武「Laview」。2019年春に営業運転を開始する(提供:西武鉄道)

新宿線の10000系はどうなる?

西武10000系電車は、1993年に登場。新製後25年が経過したことで、新型特急電車の投入が計画された。法令により、電車はおよそ8年ごとに全般検査(全検)と呼ばれる、徹底的な検査が鉄道会社に義務づけられている。この検査費用は大きく、塗装の塗り替えや老朽化した部分の取り換えなども含めると、一説には1両1000万円ともそれ以上に及ぶとも言われている。10000系はおそらく、3回目の全検を施すことなく、検査期限ギリギリまで使用された上で除籍されることであろう。

10000系は完全な新製車ではなく、制御機器、モーター、台車などの機器を旧型車両から流用している(最終増備車1本を除く)。鉄道など、公共性の強い企業の近年の社会的な使命でもある「省エネ」「省資源」にも適合しないことから、一般的な鉄道車両の寿命である30~50年を待たずに消えることになるであろう。中古車として、中小私鉄への譲渡も考えられなくはないが、今のところ情報はない。

ところで、10000系は池袋・秩父線だけで使用されているものではない。新宿線の特急「小江戸」(西武新宿~本川越間)にも、まったくの同型車が7両編成×5本、使われている。前述の最終増備車が2003年製であることを除いて、これも1993~1996年製であり、当面は製造年次が比較的新しい編成が集められると思われるが、前述の事情から、早晩、置き換えが計画されるかもしれない。

西武の特急は、池袋~西武秩父間の所要時間が1時間18分、西武新宿~本川越間の所要時間は45分と差があり、前者が観光客の利用を意識した列車なのに対し、後者がビジネス・通勤客の利用が多い列車という違いがある。「小江戸」を、観光利用を主に考えた001系で置き換えることは考えづらい。

10000系が使用されている西武新宿線の特急「小江戸」。こちらの動向が、今後、注目される

気になる? 東武鉄道の動き

東京~川越間の鉄道としては、西武のほかに、JR埼京線と東武東上線もある。このうち埼京線は大宮を経由するため、多少、遠回り(新宿~川越間は快速で54分)ではあるが、埼玉県の県庁所在地であるさいたま市と川越市との間の旅客輸送を一輸客手に引き受けている。または渋谷やりんかい線に乗り入れてお台場方面へも直通できるという、アドバンテージもある。

りんかい線に乗り入れた埼京線の列車。JR東日本ならではの、広範囲なネットワークが活かせるのが強みだ

東武東上線は、ほぼ直線状に池袋と川越を結んでおり、新宿をターミナルとしていない不利はあるが、所要時間ではもっとも有利だ。池袋~川越間は急行に乗れば30分である。

この東上線で通勤客の人気を博しているのが、追加料金(現在310円~)で座席が確保(指定席ではなく着席整理券による)される、「TJライナー」だ。2008年に夕~夜の時間帯の6本(平日)で運転を開始。その後、増発を繰り返し、2016年には平日朝の池袋行きも登場。平日の本数で下り13本(池袋~森林公園・小川町間)、上り2本(森林公園~池袋間)が運転されるまでに成長した。下りは土休日の夕刻以降にも運転がある。

東武東上線の通勤客向け「着席保証列車」である「TJライナー」。安定した需要に支えられ、拡充が繰り返されてきた

さて、東武鉄道は2018年2月に、「東武川越特急」「東武川越ライナー」など、東上線における、特別料金を必要とする列車向けと思われる名称の商標登録を出願。2018年11月24日現在、審査中となっている。商標登録については、当然ながら広く一般に公開されるので、これによって鉄道会社の車両や列車運転の計画が知れることもある。

東武では、「特急」という種別は特急料金を必要とする座席指定制列車にのみに与えられている。類推にはなるが、近い将来の東上線への特急設定の計画を想定した上での出願であると見てよいだろう。現時点での情報公開はまったくないが、「TJライナー」の好調、観光地としての川越の認知度向上、西武などライバル企業の動向をにらんで、「先手を打っておいた」とも考えらよう。

東武は、2017年に新型特急電車500系「Revaty」を日光・伊勢崎線系統に投入した。この電車は、3両編成を1単位としての運用が可能で、アーバンパークライン(野田線)や野岩鉄道・会津鉄道への直通といった、特急への大きな需要が見込めないルートであっても運転を可能とした。東上線特急が実現するのなら、このタイプの電車がもってこいといえる。「TJライナー」の日中時間帯への運転拡大も考えられるが、その場合は、10両固定編成という「器」の大きさが問題になるかもしれないからだ。

東武鉄道の最新特急型電車500系「Revaty」。現在は浅草、大宮発着の特急列車への充当のみだが、汎用性は高い

武蔵野西側の輸送力を強化する東武、迎え撃つ西武

こういう東武鉄道の動向は、当然、西武も把握していることだろう。10000系自体の老朽化、陳腐化もある。001系と走行システムなどは共用化するとしても、新宿線向けにふさわしい車体、車内設備を持った新型特急電車の登場が望まれる。

一方で、東武の営業エリアは池袋~川越間に限らない。東上線は寄居まで通じており、秩父鉄道とも接続している。1992年までは、池袋~長瀞~三峰口間といった秩父鉄道直通列車も運転されていた。需要動向次第では、有料特急での復活が構想されてもおかしくはない。秩父鉄道が採用している保安装置を搭載した「Revaty」を増備すれば、すぐにでも可能だろう。なお、秩父鉄道の筆頭株主は大平洋セメントであり、西武、東武とは、旅客運送上は密接な関係にあるものの、どちらとも資本関係はない。

秩父鉄道はSL列車の運転などで、人気が高い。西武のみならず、東武にとっても沿線は魅力あるエリアだ

西武にしてみれば、川越のみならず、「自社エリア」と認識している秩父にまで、東武の陰が見え隠れしてくるとなると、手をこまねいているわけにはいかない。「Laview」の投入は、そのテコ入れの第一歩と見られる。

ただ、利用客からすれば、競争によるサービス向上は望むところであり、夢のある話だ。積極的な投資を期待したい。

(土屋武之)