――あらためまして、お母さんの病を最初に聞いたときは、どんな心境でしたか?

僕が20歳くらいのときだったんですけど、ガンという病気のことを全く分かっていなかったですし、その言葉の強さだけで家族・兄弟を含めてプレッシャーが強かったので、やっぱりきつかったですね。本当に将来どうなるんだろうという不安がありました。

――それから7年という年月が経ちましたが、支える家族としての心境の変化はいかがですか?

やっぱり一番つらいのは本人ですし、これからも続いていく病気なんだというのが分かってきたので、兄弟3人でできることをやっていくしかないという感じですね。母も言うように、そこで落ち込んでても仕方ないんだろうなっていうことがみんな分かってきたというか。そういう気持ちがなんとなくあるからか、弟2人も明るく調子いい感じでいられるんだと思います。

――だんだん前を向いていけるようになったという感じですか?

そうですね。ずっと付き合っていくものなので、前を向くしかないという感じです。こういう言い方はアレですけど、最初の頃に比べたら慣れてきた部分もあります。今回の治療に関しては抗がん剤なので、副作用で髪の毛にも影響が出るということで、ちょっと思うところはありましたけど、やっぱりやっていくしかないって思いますね。

――夢は映画監督ということですが、それはお母さんとお父さん(布施博)の影響ですか?

そうですね。なんとなく映画の仕事という思いはずっとあったんですけど、高校を卒業するタイミングになっても何も決めてなくて。いろんな機会がハマって映画専門の大学に進学したんですけど、そのときは親に反抗する意味で、役者じゃなくて裏方を選んだという痛さが、今思うとあります(笑)

  • 古村比呂(右)と三男・大海さん=『ザ・ノンフィクション「母さんがガンになって 僕が考えたこと」』より (C)フジテレビ

「快諾」と言えばウソだった

――『ザ・ノンフィクション』という番組には、どういう印象を持っていますか?

あまりドキュメンタリーは見ないですけど、取材対象の人が面白いなっていう印象はありました。今回、自分がそれになるのは不思議な気分でしたし、カメラが入ってくるのはキツいことだろうと思っていたので、気持ちとしては「快諾」と言えばウソでしたね。

――それでも、先ほどおっしゃったようにお母さんへの気持ちの変化や、ご自身を俯瞰して振り返る機会もありましたし、結果として受けてみていかがでしたか?

どうなんですかね…。どっちもどっちだと思います(笑)。でも、家族4人で飯を食うこともお正月にあるかないかですし、そういういろんな機会がこの密着によって生まれたのは、まぁ良かったかなとは思います。

――今回は、ガンの患者を支える家族というテーマですが、視聴者にも同じ境遇の方がたくさんいると思います。そうした人たちに向けて、ぜひメッセージをお願いしたいのですが…。

そんなこと言える立場じゃないですけど(笑)。でも、本当に周りの家族は頑張りすぎなくていいんだと思います。各々ができる範囲でいいと思うんです。うちの母が、頑張ったり、気をつかってる人が目の前にいると疲れちゃう人だということもあるんですけど、周りが参ってしまったら元も子もないし、病気とどう向き合うのかというのをちゃんと話して、それぞれがやっていくことを決めるというのが、一番良いんじゃないかと思いますね。

――この密着でも、ご家族4人で話し合うという機会がありましたしね。

母もあまり話さない人で、それによって結局周りを巻き込む形になって、みんなが疲れちゃうということもあったので、あれをきっかけに、母も意識的に機会があれば話すようになってきました。あとは、本当に普通の生活をみんなですれば、直接的に治療の影響になるかどうかは別ですけど、精神的なところできっと本人にも周りにもいいんだろうなと思います。


●『ザ・ノンフィクション』張江泰之チーフプロデューサーに聞く

――今回、取材対象でもある古村比呂さんの息子さんをナレーションに起用した狙いはなんですか?

ガンの患者を家族がどう支えていくかという中で、先の将来が見えずに悩んでいる長男・拳人君が主体となるドキュメンタリーでもあったので、あえて拳人君自身に今の気持ちをぶつけてもらおうということでオファーしました。両親が離婚されて、お父さんに代わって家族を支えている拳人君に、あえて、今のお母さんのこと、自分たちのことを読んでもらいたいと思ったのです。

――被写体の人がナレーションをやるというのは、ドキュメンタリー番組ではなかなかないですよね。

プロのナレーターが一人称で読むというのはよくあるんですけど、被写体である本人というのはないですね。特に、拳人君は、古村比呂さんの息子さんとは言え芸能人でもないですから、今回はチャレンジでしたね。

――テーマとしてガン患者の家族に焦点を当てた狙いはなんでしょうか?

ガンというのは、今や日本人の2人に1人がかかってしまう、さらに若くてもかかってしまう病気でもあり、それに対して家族がどう受け止めるのか、どう生きていくのかというのは、大きなテーマだと思うのです。こうした誰もが起こりうる事態に直面したとき、家族がどう支えていくのかというのは、ドキュメンタリー番組が伝える役割でもあるのだと思って、『ザ・ノンフィクション』では最近、「お母さん、もうすぐいなくなるよ ~ダウン症・愛する娘へ~」(10月28日放送)というのを放送しましたが、私がチーフプロデューサーになってから、わりと取り上げているテーマなのです。かつては、患者の闘病記というのが多かったのですが、ガンという病気を取り上げるに当たっては、今は違うステージに来ていると思いますね。