Appleは11月7日、初のデザイン変更を伴うモデルチェンジとなったiPad Proを発売した。発売日には、店頭在庫が売り切れる店舗もあるなど、非常に好調な滑り出しを見せているようだ。

  • 好調な販売を続ける新しいiPad Pro

iPad Proは、iPhone XRと同じく縁まで敷き詰めたLiquid Retinaディスプレイを備え、デバイスのサイズを維持しながらディスプレイを11インチに拡大したモデルと、12.9インチのディスプレイサイズのまま本体を小さくしたモデルを用意した。

アクセサリ類も刷新され、これまで持ち運びと充電に苦慮していたApple Pencilは、本体右側面に磁石で吸い付いてワイヤレスで充電できるようになった。キーボード付きカバーはSmart Keyboard Folioとなり、フラットで浅いキーボードはそのままに、デスクと膝の上の2つのポジションに対応し、個人的には非常にうれしい背面まで包み込むデザインへと変化した。

  • 新しいApple Pencilは、本体側面にくっついて保持や充電ができる

3年目となるiPad Proは、それまで存在していた問題解決を数多くこなし、iPadの中で、あるいは現状のタブレット市場の中で最も魅力的な製品に仕上がった。しかし、この評価は、Appleにとってあまり喜ばしいことではないかもしれない。特に「タブレット市場の中で」という部分だ。

「iPad=タブレットではない」という解釈

10月30日のニューヨークでのイベントの2日後、アップルは2018年第4四半期決算を発表しており、iPadの販売台数は1,000万台を割り込んだ969万9,000台、売上高は前年同期比15%減の40億8,900万ドル(約4,610億円)となった。iPadが昨年と同じ6月に発売されなかったことが響いていることが、平均販売価格が46ドル(約5,200円)ほど低下した421.6ドル(約47,500円)であったことからもうかがえる。

10月30日のステージは決算発表前だったので、これらの内容が語られることはなかったが、いくつか興味深い数字を披露していた。

まず、iPadは2010年に発売されたが、これまでに4億台が販売されたことが明らかとなった。そして、4,420万台という直近のiPadの年間販売台数の数字と、1枚のグラフが示された。このグラフは、タブレット市場ではなくノートパソコンを含めた市場でiPadを比較しており、HP、Lenovo、DellといったWindowsノートPCを販売する大手メーカーに対して、iPadが販売台数の面で勝っていることを示したのだ。

  • iPadは2010年の登場以来、4億台が販売されたという

  • 「直近でiPadは4,420万台を販売した」としたグラフ。iPadは各社のノートPCよりも売れていることを示した

このグラフは、非常に示唆に富んでいるものだ。

まず、Appleは減少傾向が止まらないタブレット市場からiPadを離脱させ、ノートパソコン市場に属する製品として再定義させようとしていることを表している。

そもそも、2016年3月にiPad Pro 9.7インチモデルが登場した際、プレゼンテーションに立ったワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、フィル・シラー氏は「6億台ともいわれる、5年以上経過したパソコンのリプレイス」を狙った製品であると宣言した。

先行して2015年に発売されていた12.9インチモデルが、クリエイティブ向けのタブレットとして打ち出されていただけに、同じ製品でもサイズ違いで狙うターゲットが異なっていることは、強く印象に残っていた。

今回改めて、AppleがPC市場の製品としてiPadの解釈を与えたうえで、ノート型PCのなかで最も多く販売している点を強調し、その優位性をアピールしたことになる。

その一方で、販売台数はもう発表しない

スライドで販売台数をアピールする一方で、2019会計年度から四半期ごとの販売台数を発表しないことも明らかにした。詳しくは決算のレポートで詳しく触れるが、2019年第1四半期のガイダンスが弱気だったことと合わせて、Appleの株価は大きく売り込まれ、230ドル台だった株価が200ドルを割り込む場面も見られた。

販売台数をアピールしつつ販売台数にはこだわらない、というメッセージに矛盾を感じると同時に、今後販売台数が株価にポジティブな形で伸びていくとの予測を立てていない点も表している。

Appleは、決算発表の電話会議で販売台数を発表しない理由について、各製品のラインアップの拡大で販売台数と売上高の伸びが連動していない点を指摘した。つまり、廉価版からハイエンドモデルまで取りそろえていて、販売台数が必ずしも意味がある数字にならない、という説明だ。

例えば、iPhoneは449ドルのiPhone 7から1,499ドルのiPhone XS Maxまでがラインアップされている。どちらが売れても、販売台数は1台で変わらない。もちろん、サービス部門のことを考えれば、販売台数の拡大によるユーザーベースの拡大は意味があるが、それはサービス部門におけるインストールベースや購読者数のほうが正確な指標となるということだ。

iPadも、価格を抑えたiPad mini 4や第6世代iPad、パフォーマンスを最大限に発揮する2サイズのiPad Proの4つをラインアップしている。いずれも同じiOSで動作するものの、片方(iPad)は教育やビジネスにおける大量導入に適した価格設定の存在、もう片方(iPad Pro)はコンピュータを代替する存在、という2つの役割が共存している。 単純な販売台数が決算の指標となる売上高や利益を直接的に反映しない点は、iPhoneと同様だ。