どうにも気持ちが乗らない、楽しいことをしていても冷めたまま……。もしかしたらそれはアパシー(無気力症)になっているのかもしれません。

どうにも気持ちが乗らない時ってありませんか? 例えば仕事に取り掛かっても、モチベーションは上がらず、しまいには仕事が片付いても片付かなくても、どうでもよくなっている。友人と遊びに行っても仲間だけ盛り上がっていて、自分は冷めたまま……。

このように意欲・感情・情熱がスランプになってしまった状態がアパシー(apathy)です。

◆アパシー(無気力症)が長引いては危険!
生きていれば、一時的にアパシーになることはよくあることです。でもアパシーが長引けばいかに深刻な悪影響が出やすいか、動物の例から見てみましょう。

だいぶ前のことですが、筆者の毎日の通り道に犬を飼っている家がありました。犬小屋は道路脇で、犬の様子はよく分かります。

その家の前を通ると、筆者は犬に嫌われているのか大きく吠えられます。毎朝、犬小屋の前には決まって空の皿があり、犬は鎖を外されています。食事を終えてこれから散歩に出るようで、少し興奮しているように見えました。

ある時、その家の前でいつものように吠えられましたが、どうも吠え方がいつもと違います。よく見ると、犬は鎖につながられたままで、どうもその日の散歩が無しになったようでした。

飼い主さんの体調が悪くなられたとか何か理由があったのでしょうが、その日以降犬はずっと鎖につながれたままで、やがて筆者がその家の前を通っても、吠えないどころか見向くこともなく、力なく地面に横になったまま何の反応も示さないのです。

散歩という生きがいを奪われた犬は人生(?)に絶望し、何もかも興味を失ったかのように見えました。生き甲斐を見出せなくなった時、あるいは現実と理想のギャップに戸惑った時、失望感や無力感を覚えやすいものです。もちろん犬と人間は同列には扱えませんが、同じようなことは人間にも起こり得ます。

いわゆるフレッシュマンの五月病などアパシーの時期は程度の差はありますが誰にでもあるものです。通常こうしたアパシーは一時的ですが、もしそれが長引くと何にも関心を持てず、家に引きこもってしまうなど、アパシーが深刻化する可能性もあります。

◆まずはアパシーのサインを見逃さないで!
もしアパシーならば、自分がそうだと気づくことがそれから抜け出す第一歩になるでしょう。そのためにはアパシーに特徴的な以下のような症状は見逃さないようにしましょう!

・感情の量が低下している
・感情の起伏が小さくなっている
・意欲や自発性が低下している
・今まで通りの情熱で物事を行えない
・家族や仲間など相手と一緒に過ごす時間を楽しめない
・身の周りの出来事に無関心になっている
・自分がしていることの結果に関心がなくなっている

◆自分に押し寄せてくるストレスには負けないで!
アパシーは多くの場合、ストレスに対する一種の現実逃避です。上記のような症状はストレスによる心のダメージを防ぐための、心の自然な反応という面もあります。

例えば、家族に不幸があった時、あるいは引っ越し、入学、就職や転職など自分を取り巻く環境が大きく変化すれば大きなストレスです。その時期、アパシーは生じやすくなります。また私たちが暮らす現代社会は以前にもまして短期間でしっかり成果を出すことが求められている……といったこともアパシーが生じやすい素地になっていると思います。

もしそうしたストレスが自分に押し寄せてきた時、普段からどう付き合っているかがアパシーを予防するカギになるでしょう。皆さま、ストレスの対処法は個人個人で「好きな音楽を聴く」「ジムで汗を流す」「ショッピングを楽しむ」……などと違ってくるでしょうが、より効果的になるように随時、見直していきたいものです。

またアパシーは時に病気の症状として現われることもあります。例えば、うつ病、統合失調症、薬物中毒、あるいは認知症、パーキンソン病、脳梗塞など、さまざまな病気の症状として出現することもあります。

こうした場合、アパシーの原因になっている病気を治療することがアパシーを治療することにつながります。また、もしアパシーが長引いている時には、こうした病気の可能性もぜひ考慮したいところです。

以上、ここではアパシーを解説しましたが、皆さまのなかには「アパシーなんて自分とは無関係!」と思われたかもしれません。しかし、人生においてアパシーの時期は必ず来るものと覚悟しておいた方か良いでしょう。

例えば現在、仕事も家庭も充実した毎日を送っていても、もし子どもがみな成人されて家を巣立てば、家の中は灯りが消えたようで毎日、寂しさを覚えてしまう……。でも備えあれば憂いなし! ストレスへの対処は普段から磨いておくとともに、自分が情熱をもつ対象は言わずもがなでしょうが大切に育てていきましょう!

文=中嶋 泰憲(精神科医)