不妊治療の漢方外来では、体の相談だけではなく、不妊治療中の心の相談も多く寄せられます。友だちや姉妹の妊娠報告が辛くて素直に喜べない。悲しい、悔しい、理不尽さを感じて辛い……。

◆外来でも多く寄せられる不妊治療中の心の相談
「最近、ストレスに感じていることはないですか?」

漢方相談では心身の状態を伺いますので、こんなご質問をすることがあります。治療の進捗や、体の不安を打ち明けてくださることもありますが、その他に、気持ちが辛くなっていると相談されることもあります。

「最近結婚したばかりの子からの妊娠報告があって……、私の方が先に結婚したのに」
「LINEで仲良しグループを作ってるんですけど、妊娠した子がいて、集まる時にも、その子の体調が優先されていて、集まるのが辛くなってきました」
「職場の子が妊娠して、つわりが辛そうで、仕事を変わったりするのですが、複雑な心境になります」

他にも、姉妹など身内の妊娠報告、芸能人の妊娠報告でも、辛い感情が芽生えて苦しい。そんな言葉を、多くの方から伺います。ふとした時に見えるマタニティマークも、妊活をする前は気にも留めなかったのに、赤ちゃんが欲しいと感じてからは、敏感に反応してしまう……という声もあります。

私自身も不妊治療に取り組んだ時期がありますので、その気持ちはとてもよく分かります。流産が分かった翌日の、何年も連絡をしていなかった友人からの突然のLINEでの出産報告には、「おめでとう!」と返すのが精一杯でした。

ただ、同じように「周りの妊娠報告で辛い」という悩みでも、詳しく伺うと、それぞれ違う感情に苦しんでいらっしゃいます。

・先を越されてしまって、悲しい
・何の苦労もせずに授かれたという話を聞くと、悔しい
・タバコや飲酒など、自分より不摂生な生活で授かれたなんて、理不尽だ
・「欲しいと思ってなかった」と聞いて、愕然とした
・心から喜んであげられない自分が、嫌な人間になったと感じてしまう
・流産したらいいのに……と恐ろしい思いが浮かんでしまいショックだった
・おめでとうと思うのに、苦しい
・自分の不妊治療を知っていた相手が、妊娠したことを教えてくれなかったのが辛い

相手との関係にもよりますが、本当に複雑な感情が生まれるのだと思います。それでも淡々と受け入れながら、ご自身の赤ちゃんを迎えるために気持ちに折り合いをつけて、妊活を頑張る方が多いのですが、ご自身の感情に疲れた時は、「辛く感じて苦しい自分」に、蓋をせずに、ご自身で寄り添ってあげて欲しいと思います。

妊娠を喜んであげるのは、この際、他の人に任せましょう。

あなたの苦しい気持ちを、否定することなく、そう思うくらい頑張っているご自身の味方でいてあげてください。思いっきり泣けるなら、涙を流して発散させてください。

上記のように、同じような「周りの妊娠報告」であったとしても、心に生まれる感情は、あなただけの感情です。その感情を、許し、受け入れて、味わい尽くすことで、その苦しみに振り回されることが、バカバカしくなってしまうのが、おすすめです。

なぜなら、周りの方が妊娠したからと言って、あなた自身の価値は1mmも損なわれていないからです。そこにどんな感情を抱いたとしても、心の中はあなたの自由です。もちろん、本当に辛い時は、ご自身を守るために、可能であれば、妊娠した方との距離をとることも問題ありません。

より悩みを深めてしまうのは、カウンセラーなどプロの方ではなく、身近な誰かに相談するパターン。もちろん、悩みを聞いてもらってスッキリすることもあるのですが、相手からの悪気のない言葉に、さらに落ち込んでしまったという悩みを伺うことも少なくありません。

「元気出しなよ」
「そのうち、(子供が)できるよ」
「友達だったら、喜んであげてもいいんじゃない?」

などの言葉で、より傷ついてしまうこともあると思います。

自分の力でどうにもならないと感じたときは、最近は不妊治療クリニックに専門のカウンセラーさんが常駐していたり、ナースの方がカウンセラーの資格をお持ちだったりするので、積極的に利用してみましょう。

また、ご自身で、自分の感情と向き合ってみたい場合には、現在は「マインドフルネス(瞑想などでトレーニングできる心の持ち方)」 「コーピング(ストレスに対処する自分なりの対処法を身につけること)」をご自身で学べる書籍も出ていますので、参考になさってください。

◆漢方・中医学による不妊治療中の心のケア
私が、そのようにお話ししてくださった方と継続して妊活を伴走させていただく時には、心に対しても、漢方や中医学の処方や対策を行います。

漢方、中医学では、目に見えない「気(元気、エネルギー)」も物質として考えますが、気虚(気が不足した状態)や気滞(気の流れが悪い)があると、ホルモンバランスや自律神経が乱れて、体の不調に繋がってしまうからです。特に、漠然とした不安を抱く方は、「心血虚(五臓六腑の心に血が不足している」状態であることが多いです。

中医学・漢方では、血が不足する「血虚」の状態で、不安になりやすくなると考えますが、中でも、精神思考を司る五臓六腑の「心」に血が不足すると、動悸・不安・めまい・不眠・よく夢を見る・論理的に考えられないなどの症状が出ます。

また、落ち込みが強かったり、イライラが止まらない場合には、「肝気鬱血(五臓六腑の肝の不調で気血が鬱滞している」状態の方も多いです。

自律神経を司る「肝」の不調で、

・落ち込んだり、怒りやすかったり感情の起伏が激しい
・生理痛
・月経不順

などの症状が出ます。

漢方薬は、このような不調を取り除くのに効果的で、「気虚」「気滞」「心」「肝」の状態を改善することで、不安を感じにくくなったり、イライラしなくなりました!という声は非常に多くいただいています。苦しい気持ち、不安や、イライラすることも、実は体の状態が関連しているかもしれません。ご自身の「気持ち」を責めることなく、過ごしていただきたいと思っています。

◆まとめ
誰かの言葉や報告に、傷ついてしまうことは、相手が傷つけようとして発せられたものではなくても、ご自身の感情なので、止めることはできません。無理に考えないようにしようとしても、より苦しくなってしまうかもしれません。

赤ちゃんが欲しいと願っていたら、先に授かった方が羨ましいのは、当たり前のこと。悪意のない言葉や報告が、あなたの胸の奥の誰にも見せたくない弱い部分に、響いてしまった。その時に生まれる感情は自由です。態度に出したり、攻撃的になったりするのはおすすめしませんが、生まれる感情に苦しんだり、自分を責めてしまったりして、不調を招いてしまうのは、残念なことです。

妊活中は、本当に感情が揺れてしまうことが多いです。それは、それだけ、あなたが頑張って、赤ちゃんが欲しいと願っているからです。苦しくなった時は、その尊い気持ちを大切に、ご自身を労わってあげてくださいね。

文=住吉 忍(薬剤師)