MacBook Airはシリコンバレーにおいても、コードを書く学生やエンジニアにきわめて人気の高い製品だ。オフィスでは、MacBook Airに外部ディスプレイを接続して広い画面で作業をしたり、キーボードやマウスを接続してシステムアップする様子が見受けられる。アプリのビルドが伴わないエンジニアにとっても、仕事の道具として最適というわけだ。

そのMacBook Airは新モデルになって、MacBook Proと同じ第3世代のバタフライキーボードを備えた。きわめて浅いストロークと、シリコン幕によって埃の侵入を防ぐ新しいメカニズムが特徴で、打鍵音もより静かになった。

  • MacBook Proと同じ第3世代のバタフライキーボードを採用する。最上段はTouch Barではなく、通常のファンクションキーとなる

この薄いタッチのキーボードは賛否両論ある。打鍵感に欠けるという意見も根強く、以前のMacBook Airを使い続ける動機を与えているポイントともいえるだろう。ただ、シリコンバレーで話を聞くと、さほど否定的な意見ばかりではないことも肌で感じ取れた。

長時間タイピングする仕事をしている人たちにとっては、むしろ軽くて薄いタッチのキーボードのほうが疲れにくく、腱鞘炎などの手首への負担を軽減でき、またタイピングのスピードも上がるというのだ。確かに、少ない力と動きでタイピングがこなせる意味では、筋が通る話だ。

インターフェイスへの慣れが使いやすさを決定するため、これまでの深めのタッチに人気が残ることも理解できる。しかし、より合理的なインターフェイスとして、Appleのバタフライキーボードも着実に受け入れられているのだ。

第3世代のバタフライキーボードだが、MacBook Airでは独自の仕様となっている。Thunderbolt 3ポートを2つ搭載したMacBook Proのように、ESCキーとファンクションキーを実際の物理キーとして備える一方で、キーボードの一番右上にはTouch Bar搭載モデルと同じくTouch IDが用意されたのだ。

  • Touch Barは搭載しないがTouch IDを搭載する、MacBook Proにはない組み合わせとなる

  • Touch IDによるロック解除をサポート

すでに、iPhoneやiPad Proの最新ラインアップはTouch IDからFace IDへ移行済みで、Macも最新モデルでは今後その方向性になることも考えられる。しかし、企業ユースではカメラにシールを貼るなどして無効化し、セキュリティを保つ措置が採られていることも多く、Face IDが受け入れにくい場面も出てくるだろう。

Touch IDは、Macにおいては引き続き需要があるセキュリティ認証の方法になり得る。オフィスユースでも人気のあるMacBook Airは、価格上昇を抑える面も合わせて、Touch IDの搭載が続くことになるのではないだろうか。

T2チップ搭載の恩恵は多岐にわたる

Touch IDが搭載されたということは、AppleのセキュリティチップがMacBook Airにも採用されたことを意味する。iMac Pro、MacBook Proに入っているT2チップが内蔵され、指紋のデータをセキュリティ領域に保存し、瞬時に認証を行う役割を果たす。

ほかのT2チップ内蔵Macと同様に、セキュアブートやディスク書き込み時の暗号化の役割も果たしており、持ち運ぶことが多いMacBook Airのセキュリティをきわめて高いものにしている。指紋認証と合わせて、企業が採用するメリットもより大きくなったといえる。

しかし、T2チップの役割はそれだけではない。システム全体のマネジメントに加え、ディスク管理、FaceTime HDカメラの画像処理プロセッサとしての役割、Hey Siri対応、オーディオ処理など、Macならではの付加価値を実現する役割を担っている。

筆者は、Macでも意外と多くHey Siriを利用する。ちょっとした検索や意味調べ、家族へのメッセージの送信、予定の確認などを声で片付けるには最適だからだ。特に、米国に住んでいると、距離、温度、重さなどで日本と異なる単位を使うことが多く、単位換算をしょっちゅう声で行っている。

T2チップの内蔵により、ユーザーの声を常に待ち受けている状態が作り出されているのだ。

もう一つ、音に関する進化がMacBook Airにはある。MacBook AirでYouTubeビデオやiTunesムービーを見ると、その音の迫力に驚かされるのだ。スピーカー自体を再設計したというが、それだけではなく、ソフトウェア、シリコンの各チームと連携しながら、サラウンド効果をより高めるエンジニアリングが施されている。

これは、iPhone XRやiPhone XS、iPad Proでも同様だが、2018年モデルのApple製品のスピーカー体験は、それまでとは比べものにならないほど充実している。これも、ハードウェアとソフトウェアの両方をコントロールできるAppleらしい進化であり、T2チップはIntelを採用するMacにおいても、そうしたアドバンテージを実現している。

オールインワンで13万4800円

MacBook Airは、ディスプレイの品質、1日持つバッテリー持続時間、質感の高い薄型の金属ボディ、高いセキュリティ機能、優れたオーディオ再生能力を備えている。オールインワンのポータブルMacとして、期待されるべき進化を遂げた製品、と評価できる。

しかも、MacBookやMacBook Proよりも安い999ドル、日本円で税別134,800円という価格設定も、大きな魅力として受け入れられることになるはずだ。プログラミング教育が必修となる学生にとっては、iPhoneアプリの制作も視野に入れるなら、MacBook Air以外の選択肢がなくなるだろう。

  • 従来モデルと同様、学生に最適なポータブルMacという存在になりそうだ

ただし、10万円以下の選択肢として旧モデルのMacBook Airが残されるほか、おそらく処理性能は3倍以上となるiPad Proもラインアップされた。Macというプラットホームにこだわらなければ、iPad Proの性能とコストの効率性は飛躍的に高い。

そうした広い選択の幅を視野に入れつつ、MacBook Airが持つシンプルさ、Macであること、そして製品としての高い完成度に触れてみるとよいだろう。