日本版の衛星利用測位システム(GPS)を担う衛星「みちびき」4基体制の本格運用が1日からスタートした。まだ米国のGPS衛星も活用しているが、「みちびき」の参加により、山間部や高層ビルの谷間などで生じていた位置表示の乱れや大きな誤差の問題が大きく改善される。今後は幅広い分野で正確な位置情報の活用が可能になるという。

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    「みちびき」のサービスや技術、仕様などを分かりやすく説明している一般の方向けパンフレットの表紙の一部(パンフレットは2018年3月改訂、A4判8ページ:http://qzss.go.jp/overview/download/isos7j0000000bl4-att/qzss_pamphlet_201803a.pdf)

「みちびき」は、2010年9月に1号機が、17年の6月、8月、10月にそれぞれ2、3、4号機が相次いで打ち上げられた。1,2,4号機は日本からオーストラリアにかけた上空で8の字を描く「準天頂軌道」を周回する。3号機は静止軌道を飛行している。4号機の打ち上げ成功で、日本版GPSの本格運用に必要な4基体制になり、その後さまざまな試験が行われてきた。

内閣府の宇宙開発戦略推進事務局によると、「みちびき」4基の本格運用が始まったことにより、常時少なくとも1つの衛星は、日本のほぼ真上の軌道を飛行する。このため、これまでは米国GPS衛星からの信号受信が遮られる高層ビル街や山間部でも安定して高い精度の位置情報が得られる。米国GPS衛星に不具合が生じると社会、経済活動への影響も懸念されたが、今後はそうした心配は不要になる。

このほか、「みちびき」が発信する「補強信号」と呼ばれる特殊な信号を受信できる専用の装置を取り付ければ位置表示の誤差を6センチ程度にまで縮めることが可能になるという。これにより、自動車の自動運転の実用化や、田畑で無人で移動する新たな農作業機械の誕生、さらに正確な位置情報が不可欠な小型無人機ドローンによる宅配といった幅広い分野での活用に期待が寄せられている。

ただし、この専用装置は現状ではまだサイズが大きく、高価なものが多いため、スマートフォンなどには搭載できない。今後、「誤差数センチ」の位置表示を広く利用、普及するためには、専用装置の小型化とコストダウンが課題となる。

政府は、2016年4月に閣議決定した「宇宙基本計画」で23年度をめどに米国GPS衛星に頼る必要がなくなる「みちびき」7基体制にする方針を定めた。計画では23年度までにさらに3基を打ち上げる予定だ。政府は「みちびき」を今後の宇宙の商業利用の柱としているほか、災害時の避難情報の発信や「みちびき」経由の被災者情報伝達といった防災分野での活用も想定している。

安倍晋三首相は1日夕、東京都港区内で開かれた「みちびき」本格運用開始の記念式典に出席し、「米国のGPS衛星が打ち上げられて40年。今や我々の生活はGPSなしには成り立たない。本日『みちびき』によって歴史の新たなページが開かれようとしている。世界初のセンチメートル球の衛星測位サービスが近未来の社会を現実のものとしようとしている」などと述べた。

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    「みちびき」が日本上空を飛行している想像図((提供・内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

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    「みちびき」3号機の想像図(提供・内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

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    「みちびき」7基体制のスケジュール(提供・内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

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    東京都内で開かれた「みちびき」本格運用記念式典であいさつする安倍晋三首相(提供・首相官邸)

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