1920年代に実際に起こった、凶悪な伝説的犯罪を土台とし全世界で上演、日本でも再演を重ねるミュージカル『スリル・ミー』。登場人物は「私」と「彼」の2人きり、ピアノ1台で繰り広げられるのは、明晰な頭脳を持った2人の青年が、完全犯罪が可能であることを証明するために幼い子供を誘拐して殺害したという陰惨な物語だ。

2018年は、”私”成河&”彼”福士誠治、”私”松下洸平&”彼”柿澤勇人という2組がこの物語に挑む。ニーチェに心酔し、自分を「超人」だと思っている”彼”と、そんな"彼"を愛しく思い、犯罪に加担してしまう”私”。今回は、成河&福士ペアにインタビューし、作品の魅力に迫る。

  • 左から成河、福士誠治

    左から成河、福士誠治 撮影:宮田浩史

骨太な印象を持っていた

――今回お二人の組み合わせが発表された時は、すごく意外だったのですが、作品の話を受けた時にはどのような印象でしたか?

福士:逆に、どんなコンビ、という印象でしたか? 「歌えるの?」「土くさいけど、大丈夫?」みたいな?(笑)

――なんというか「すごそう」「演技力の殴り合い」といった印象が……。

福士:いつも素でやってるんだけどなあ(笑)。

成河:ちょっと、恥ずかしい印象で(笑)。まあでも、そう思っていただけるのは、光栄なことですね。

福士:もう今回僕らは、歌わないですからね。トークライブって書いていなかったですか?

成河:トークライブ(笑)。夫婦漫才スリル・ミーです。

福士:冗談はさておき(笑)。挑戦的な作品だと思いました。ピアノ1台の2人芝居で、不安でもあったんですが、ここ最近は、自分の中で想像のつかない作品をやってみたい願望があったんです。30歳を超えて、また改めて恥をかきたいな、という気持ち。以前から、できないものに挑戦してきたので、今「できない」と思っていることをぶち壊さないと、と思って。だから、この未知な作品に「チャレンジします」とお返事しました。

成河:役者にとって、やりがいのある作品だと思います。嘘がつけないというか、自分を試されるというのは、ありがたい機会です。

――お互い、もともとはどのような印象を持たれていたんですか?

成河:僕は舞台『俺節』の時の印象が、忘れられないんです。作品としてもすごく好きだったし、どんな人なのかな? と思いながら観ていました。

福士:昭和の、土くさい話で。

――福士さん、ギターを弾いてらっしゃいましたよね。

成河:だから、今回もギターでオファーが来ているんですけど(笑)。

福士:今までの『スリル・ミー』を全部覆します(笑)。

成河:みんなね、チラシを信じすぎなの! どうなるかわからないから!

福士:たまにはいいかも(笑)。でも、『俺節』はすごく苦労したから、褒めてもらえるのは嬉しいですね。僕は、『100万回生きたねこ』を観させてもらった時が最初だったのかな? 動けるし、セリフの届き方や表現力も別格で、骨太な人だなと思っていました。観劇した後に、そのままみんなで飲みにも行ったんですよね。『髑髏城の七人』でも、同じシーズンではなかったけど、ニアミスだったので、「いつか作品で一緒になれたら」と思っていました。良い意味で怖いと思った男ですし、僕もそうなんですが、演劇畑を渡り歩いてきた感がありますよね。

成河:それ、すごく感じた。

福士:だから「2人でやります」ということが、嬉しかったです。僕、あんまり嫉妬はない。「怖いな」とは思うけど、「マジかよ」「俺が目立たないじゃん」とか、全くない。

成河:超わかる!

福士:舞台上で同じ役をやっているわけじゃないし、互いに全うして、「いい役だね」と言い合えたら最高ですね。