「平成仮面ライダーシリーズ」の20作目となる最新作『仮面ライダージオウ』(2018年)では、2000年に放送開始された『仮面ライダークウガ』から、2017年の『仮面ライダービルド』までの"時代"をめぐる仮面ライダージオウ/常磐ソウゴの物語が描かれている。

50年後の未来において、「最低最悪の魔王」オーマジオウになると運命づけられているソウゴ。彼を過去の世界(つまり現在)で倒すため、未来から仮面ライダーゲイツ/明光院ゲイツが現れたが、現在のソウゴは魔王になる気配すらない純粋な男だった。人々を幸せにしたいという思いから「最高最善の王」になると豪語しているソウゴを倒すべきなのかどうか、ゲイツは慎重に彼の動向をうかがいながら、行動を共にしていく……。

『仮面ライダージオウ』では当初から立場の異なる2人の仮面ライダーが登場し、激しく対立しながらも互いの存在をすべて否定することができないという、奇妙なパートナー関係にあるのが大きな魅力のひとつとなっている。「互いに争う宿命を持ちつつ、奇縁で結ばれる2人の仮面ライダー」という設定で思い出すのは、異空間「ミラーワールド」の中で激しいバトルを繰り広げた、あの仮面ライダーたちではないだろうか。来たる12月22日より公開される映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』に向け、平成仮面ライダーシリーズ19作品を振り返る企画の第3回として、ここからは『仮面ライダー龍騎』(2002年)の作品概要とその魅力を解説していこう。

『仮面ライダー龍騎』は、2002年2月3日から2003年1月19日まで、テレビ朝日系で全51話を放送した連続テレビドラマである。「仮面ライダー」ブランドの"復活"だけでなく、実写特撮変身ヒーロー作品そのものの構造改革を狙った『仮面ライダークウガ』(2000年)、個性の異なる3人の仮面ライダーを中心とした複雑なストーリー展開で視聴者の興味を惹いた『仮面ライダーアギト』(2001年)の好評により、世間的に"現在の仮面ライダーは昔の仮面ライダーとはひと味違う"という認識が広まっていった。多くのファンからの期待が集まる中で発表された第3作『仮面ライダー龍騎』の姿は、大方の想像を上回るかつてない奇抜さを備えていた。「従来の仮面ライダーのイメージを大きく打ち破る」というのが、仮面ライダー龍騎の果たすべき"使命"のひとつだったといえるだろう。

そもそも昭和期の「仮面ライダー」シリーズでは、1作目の『仮面ライダー』(1971年)と2作目の『仮面ライダーV3』(1973年)が地続きの設定だったこともあり、作品タイトルこそ変わりはするが、それぞれのヒーローは同じ世界観のもとで活躍することが慣例と化していた。仮面ライダーの戦う「悪の組織」が世界規模であるため、日本で戦っていたそれぞれの主役ライダーは戦いが終わると世界各国へと旅立ち、日本を揺るがす大事件が起きた時には歴代仮面ライダーが結集、それぞれ力を合わせて強大な悪に立ち向かう。このような仮面ライダー集結の「イベント回」も長いシリーズの中でいくつか作られ、豪華なヒーロー共演に子どもたちが熱狂した。

このような慣例をあえて白紙に戻し、まったく新しい世界観のもとに新ヒーローを創造したのが『クウガ』だが、熱心な特撮ファンはまだこれまでの「仮面ライダー」シリーズの流れをも強く意識していて、クウガを歴代仮面ライダーでいうところの「15号」(※仮面ライダーBLACKは仮面ライダーBLACK RXと同一人物なので、1人にカウントされていた)と位置付けることがしばしばあった。さらには16号、17号、18号にそれぞれ当てはまるのはアギト、G3、ギルスのうち誰なのか、というファン同士の論争まで巻き起こっていた。しかし、『クウガ』と『アギト』はそれぞれ過去のシリーズとは世界観を異にする独立した作品であり、仮面ライダー1号をはじめとする歴代仮面ライダーの"共演"という考えを完全に否定する姿勢を取った。『龍騎』ではこれをさらに押し進め、もはや歴代○号ライダーというカウントをすることが不可能な、独立した世界観を打ち出した。それが「複数の仮面ライダー同士が最後の1人になるまで戦いあう」という基本設定である。

ジャーナリストの卵・城戸真司(演:須賀貴匡)が偶然手にした"カードデッキ"、それは鏡の中の世界「ミラーワールド」に入り込み、「仮面ライダー」と呼ばれる戦士に変身できるアイテムだった。ミラーワールドから現実世界に抜け出て人間の命を奪うモンスターと戦うべく、真司は仮面ライダー龍騎に変身するが、真の力を発揮するためには強力なモンスターと契約し、その力を得る必要があった。モンスター・ドラグレッダーと契約した龍騎は、変身ベルト「Vバックル」にセットされたカードデッキから「アドベントカード」を引き出し、腕に備えた召喚機ドラグバイザーに装填することによってさまざまな武器を召喚して戦うことができる。

ミラーワールドには、すでに仮面ライダーナイト/秋山蓮(演:松田悟志)がモンスターと戦っていたが、ナイトは龍騎にも容赦のない攻撃を仕掛けていく。やがて真司はミラーワールドの仮面ライダーが自分や蓮以外に多数存在し、最後の1人になるまで戦い続けなければいけないというルールを知る……。

番組企画が発表された段階で、カードデッキは13個存在することが明かされている。つまり、劇中には13人の仮面ライダーが出てくる可能性が最初から示唆されていた。初期エピソードでは、偶然カードデッキを手にしたためライダー同士の戦いそのものに否定的な仮面ライダー龍騎/城戸真司と、クールで寡黙、何を考えているかわからないが胸の奥に熱いものを秘めている男・仮面ライダーナイト/秋山蓮、そしてミラーワールドの存在を知り、蓮と行動をともにする神崎優衣(演:杉山彩乃)の3人がドラマの中心となり、人間を襲うモンスターの撃破(モンスターを倒すことは、各仮面ライダーが契約しているモンスターのパワーアップにつながる)、および次々とミラーワールドに現れる仮面ライダーたちとの争いが繰り広げられる。

ここで重要なのは、劇中で呼ばれる「仮面ライダー」という存在が、これまでのシリーズのような「人類のために戦うヒーロー」ではないという部分である。ミラーワールドの仮面ライダーたちは、みなそれぞれどうしても叶えたい"願い"を持っており、それが叶うのはすべてのライダーを倒し、最後の1人になったときだけだという。

それは蓮の「昏睡状態の恋人を甦らせたい」や、黒を白にもできるスーパー弁護士・仮面ライダーゾルダ/北岡秀一(演:小田井涼平)の「不治の病を克服したい」といった個人的かつ悲痛な"願い"であることがほとんど。中には、殺人の罪を犯した悪徳刑事・仮面ライダーシザース/須藤雅史(演:木村剛)や卑劣な性格の大学生・仮面ライダーガイ/芝浦淳(演:一條俊)のように、人間を守ることなどみじんも考えていない"悪人の仮面ライダー"も登場した。『龍騎』に登場する仮面ライダーはみな独自の「正義」のために戦う者たちであり、彼らの「異なる"正義"のぶつかりあい」こそが、本作の大きなテーマとなっている。