値は張るけれど、思い切って買ってしまおうか。

それが車にせよスマートフォンにせよ、はたまた身の回りの生活用品にせよ、自分の使えるお金の範囲から背伸びして、「ちょっと良いモノ」を買った経験はないだろうか。

自動車のレクサスと、鋳物ホーロー鍋のバーミキュラ。作っているモノは異なるが、いずれも先述の「ちょっと良いモノ」、高価格・高付加価値の製品を提供している日本発のブランドだ。

そんな両ブランドのコラボレーションイベントが、レクサスのブランド体験型施設「LEXUS MEETS...」で開催された。今回は、バーミキュラを製造する愛知ドビーの土方邦裕代表取締役社長と土方智晴代表取締役副社長、そしてレクサスのブランディングを統括するLexus Internationalゼネラルマネージャーの沖野和雄氏にインタビューを実施。

前編につづき、ユーザーに高い付加価値のある体験を提供するブランドとしての矜恃やお互いの共通点について聞いた。

――通常、キッチンツールのレシピというのはオマケ程度の分量ですが、バーミキュラの鍋やライスポットには、充実した内容の、辞書のような厚さのレシピ本が付属しています。レシピ本もやはり体験提供の一環なのでしょうか?

土方副社長:
レシピ本も製品だと考えていますし、レシピの開発にはすごく力を入れていますし、掲載する料理のビジュアルも、ブランディングを考えながら作っていきます。

「バーミキュラ ライスポット」に同梱されているオリジナルレシピブック。同社が制作しており、レシピから撮影までディレクションしている

土方社長:
今、アメリカ進出を進めていますが、現地のシェフと組んで最高のレシピ本を作ろうとしています。

僕たちがものづくりをするときに、まずレシピから考えるんです。このレシピを作りたいから、この製品にこの機能がついている、という風に作っていく。そのくらい、製品とレシピ本は両輪ですね。

――先ほど触れられた米国支社の設立で、ライスポットの海外販売にも着手されています。現段階で何か手応えを感じられる出来事はありましたか?

土方副社長:
今、いろんな方に向けて体験会を行っていて、非常に高い評価をいただいています。

発売が本当に楽しみなのですが、懸念点として、アメリカには高級調理器の市場があまりないんですよ。5万円以上の調理器具がほとんど存在しないんです。そこに新しい市場を開発しなくてはいけないので、そこは心配と期待が両方あります。もちろん、絶対に喜んでいただける製品だと思っているので、時間はかかるかもしれませんが、成功するまでやりたいなと思います。

沖野氏:
ブルーオーシャンですね(笑)

――確かに、そこで勝てれば米国のファーストブランドに。海外メーカーの鋳物ホーロー鍋がシェアを取っているわけではないんですか?

土方社長:
実際、アメリカでも鋳物ホーロー鍋は流行っています。ただ、鍋「だけ」なので、相場は3万円前後なんです。弊社のライスポットのようにオールインワンで作られているものはあまりなくて、同価格帯なのはバイタミックスさんくらいですね。

「バーミキュラ ライスポット」は、同社の鍋と専用のヒーターがセットになった製品

――続いてレクサスについて、海外でのブランディング施策についてお伺いできますか?

沖野氏:
最近では、都内では青山にある「INTERSECT BY LEXUS」を、ニューヨークにも作りました。それ以前にもドバイに開設しています。これらは「今、レクサスのお客様でない方」向けです。「今のお客様」向けには、台湾やオーストラリアなどで、特別な空港ラウンジなどを展開しています。

やはり、体験なんです。世界観をお伝えするような施設を、海外でも展開しています。

――「体験」というところで、レクサスはイタリア・ミラノデザインウィークに大々的に出展しており、味覚を含めた感覚に訴えかけるインスタレーションを展開しています。レクサスというブランドの提供する体験において、味覚は重要だということでしょうか?

沖野氏:
まず、レクサスは五感を刺激したいというコンセプトでやっています。クルマは本当に五感で感じるものです。また、味覚はある種、誰でも興味がある部分ですし、料理というのは工夫、クリエイティビティのかたまりじゃないですか。だから、我々の活動のなかでやりたいんです。

クルマ自体も、お客様がどう使うかというところをよく考えて、そのために手の込んだ設計や製造技術を盛り込んでいる。そういうことを上手く伝えようとするのに、料理はピタッと来ました。素材選びや調理法の選定などと同じことを、実はクルマもやっているんですよ、と。共通項があるんですね。

それに、みんな食いしん坊ですから(笑) シンプルに美味しい食べ物は喜んでいただけます。また、ミラノでも「LEXUS MEETS...」でもそうですが、お料理の味だけでなく空間全体の雰囲気も作りこんでいるので、そこも含めてレクサスの持つ空気感などもお伝えできていると思っています。

「LEXUS MEETS...」内のカフェ「THE SPINDLE」は、その名の通り、スピンドルのモチーフが内装にもあしらわれている(画像提供:Lexus International)

土方社長:
確かに、料理の世界でもバックボーンが大切にされています。どういうところで、こういう思いで作られた料理だから、このようにまとめた、とか。そういう意味で、製造と料理は似ているのかもしれないですね。

沖野氏:
似ていると思いますよ、知れば知るほど、似ているなと感じます。

自動車という商品は、その魅力が一目でわかりにくいところがあります。また、自動車はその「便利さ」に着目されがちです。便利とは違うところ、味、感覚というところをもっとお伝えしていきたいですね。

――愛知ドビーはドビー機という織物の機械、レクサスひいてはトヨタ自動車は、自動織機をルーツとしているなど共通点があります。2社の共通点について、他にお感じになったことはありますか?

土方副社長:
よく、「良い物を作るだけではダメ」というようなお話を聞くことがあるのですが、僕ってその考え方がすごく嫌いで。「モノの価値は3割しかない」と言われる方もいらっしゃいますが、そういう姿勢のところに限って、ファブレス(※工場を持たない製造を行うこと)だったりする。

ですから、弊社とレクサス、ひいてはトヨタ自動車さんに共通しているのは、モノを作っているところですね。トヨタ自動車さんのすごいところって、一番難しいところを自分たちでやるところなんです。僕は(トヨタ在籍当時)原価をやっていたので詳しいんですが(笑)、ひとつのラインで何十車種も作ったりします。それはクルマづくりにおいて一番難しいことなんです。ものづくりの核となる技術がすさまじいんですね。

いいクルマをいかに作り込むかというところが根底にあった上で、お客様の体験をいかにプロデュースしようかという考え方が、弊社と似ているのではないかなと、両方の会社で働いた身として思います。

土方社長:
やっぱりものづくりなんですよ。ですが、ものづくりは簡単に立ち上げられない。まず職人が一人前になるのに何年もかかるなど、1~2年で利益を出せないので、なかなか流行らないんでしょう。

――ブランドという無形のものを顧客に伝えるのは、困難を伴うことと推察します。最後に、両ブランドの軸となるものを一言で表すと、どんな言葉になるか、お伺いできますか?

沖野氏:
「唯一無二」でしょうか。瞬間ごとの体験がその方にとって一番素敵なものになるように、尽力しているつもりです。

土方社長:
僕たちは、最終的には「共有」だと思います。

先ほど沖野さんが仰った「五感」は僕たちも大切にしているのですが、第六感としてあるのは「ヒトとヒトとの価値観の共有」だろうと定義づけています。お客様と我々、あるいはお客様同士で時間を共有すること。そこが人生の醍醐味になってくるはずなんです。人と人との関係を変えられるような製品を生み出せたら最高だと思っているので、そこを目指していきたいです。

――ありがとうございました。

(杉浦志保)