日本証券業協会は10月4日、東京大学・安田講堂にて、お金や証券投資の未来について考える公開講座「100年大学 お金のこと学部 開学記念特別講座」を開催した。この日は特別講師として、小説家の羽田圭介さんらが登壇。羽田さんは集まった学生たちを前に、自身の投資歴を含むさまざまな経験談を交えながら、お金との付き合い方や投資に対する考え方を述べた。

  • 当日は、(左から)小説家・羽田圭介さん、日本証券業協会 会長・鈴木茂晴さん、タレント・生駒里奈さん、東京大学 教養学部 特任教授 ブランドデザインスタジオ主宰・宮澤正憲さん、ウェルスナビ 代表取締役CEO・柴山和久さんが登壇した

    当日は、(左から)小説家・羽田圭介さん、日本証券業協会 会長・鈴木茂晴さん、タレント・生駒里奈さん、東京大学 教養学部 特任教授 ブランドデザインスタジオ主宰・宮澤正憲さん、ウェルスナビ 代表取締役CEO・柴山和久さんが登壇した

投資を始めたきっかけは?

芥川賞作家として名を馳せ、鋭い視点や切り口でコメンテーターとしても活躍するなど、マルチな才能で人気を博している羽田さん。今回の講義に合わせて仕立ててきたというカスタム学ランで登場した同氏が、自身の体験をもとに語ったお金との向き合い方とは?

  • 羽田圭介 小説家。1985年東京都生まれ。高校在学中の2003年、『黒冷水』で第40回文藝賞受賞。2015年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞受賞

    羽田圭介 小説家。1985年東京都生まれ。高校在学中の2003年、『黒冷水』で第40回文藝賞受賞。2015年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞受賞

高校時代に小説家デビューを果たした羽田さんは、大学時代を経て会社員を1年半経験したのちに、専業作家の道へ。しばらくは書き溜めていたネタを消化しながら活動していたというが、専業作家になりしばらく経つと、徐々にお金の不安が出てきたという。

「小説家の収入って、文芸誌に書く原稿料と本を出したときの印税でやりくりしているんですけど、当時はあまり出版のことをわかっていなくて、書き下ろしを2作連続でやっちゃったんですよ。この場合、印税は入るんですけど原稿料が入らないんですよね。だから、1年ちょっとかけて書いた本の印税が150万円ぐらいしかもらえないとなったりすると、これはけっこうキツいわけですよ。他の本の印税とかがあっても、年間でいうと300~450万円の間を行ったり来たりしているような状況で。そのへんでちょっと厳しいなと思ったんですね」

羽田さんは、そんな折に個人の積立制度の存在を知る。いわゆるiDeCo(イデコ)、確定拠出年金だ。

「個人の確定拠出年金で積み立てた掛金は、税金が軽減されるんですよ。その掛金はただ単に貯金してもいいし、拠出金は株式に分散して投資することもできる。かなり税制的にはお得なんです。それで株にも興味を持ち始めるんですけど、自営業者の場合は掛金の上限が月額6万8,000円で、ちょっと枠として小さいなと。そこから、投資信託を買うようになりました」

投資信託とは、簡単に言うと「投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品」である。投資信託の運用成績は市場環境などによって変動し、その運用によって生じた損益は、それぞれの投資額に応じてすべて投資家に帰属する。しかし、投資信託は注文してすぐに購入できるものではなく、申込・約定・受渡という3つのステップを経て取引が成立するものである。

「投資信託って、自分が売り買いをしてから実際にそれが約定されるまでにタイムラグがあるんですよ。それが、買ったときよりちょっと値上がりした状態で約定しちゃったりすると、なんか損したなと思うわけですね。だから僕はそのときから、上場型の投資信託であるETFに移行しました。ETFであれば指値注文ができるんで、自分が買いたいと思った額・売りたいと思った額で、同じように分散して投資する投資信託を商品として買えるんです。でも、ETFはいろいろな株に分散する投資なので、あまり損はしないんですけど大きく儲けるということもない。だったら、もう少し大きく儲けるには個別の銘柄を買ったほうがいいと思い始めたんです」

確定拠出年金から投資信託、ETF、そして個別株へと、着実に投資の経験を重ねていった羽田さんは、徐々に自分なりの運用方法を構築していく。

「その後は、米国株を買うようになりました。米国株は安定して配当金が出る株も多かったので、配当が多く出る銘柄をたくさん買って、最初はそれでうまくいってたんですね。でも、市場ってそんなに馬鹿ではないので。配当が高いってことは、要するに配当金に対する元の株価が低いというわけです。なぜその株価が低いかっていうのは、やっぱり理由があるわけですね。これ以上配当が伸びないかもしれないし、あるいは減配するかもしれないとか」

  • 会場には、キャンペーンに当選した250名および、東京大学の学生らが集まった

    会場には、キャンペーンに当選した250名および、東京大学の学生らが集まった

芥川賞を受賞して大金を得た羽田さんは……

羽田さんが株式投資を始めたのは、今から4,5年前。芥川賞を受賞したのは、それから少し経ったときのことだったという。

「けっこう貧乏な時代から株式投資を始めたんですが、今から3年ほど前に芥川賞を受賞したんですね。そうしたら、一気にお金が入ってきたわけですよ。銀行に何かの手続きで行ったら、突然個別の窓口に移動させられて、とある金融商品を勧められたりもして。もしここで何も知らなかったら、なんか資産運用をしなきゃいけないのかしらなんて思って、マイナスになるような金融商品も買っていたかもしれない。でもそこで自分の中に知識があると、誰かに騙されたりすることも防げるし、急にお金を手にしたからって無理に変な買い物をしたりとかもせずに済むんです」

株式投資をやりながら自分なりに知識を蓄え、資産運用に対する考え方を自分の中にしっかりと形成する。この過程の重要性に加え、「株には過度な期待をするべきではない」と羽田さんは続けた。

「投資って、あんまり若いうちからめちゃくちゃ力を入れて時間を割いてもしょうがないんですよ。というのも、収入が低いけれども資産が多い人以外は、本業の仕事とかを頑張ったほうが稼げるんですね。収入が低い人がいくら資産運用を頑張っても、例えば10万円を倍に増やしましたって言っても、それは20万円にしかならないですよね。その割に、倍にするのってけっこう時間がかかるんですよ。特に株の調査に費やす時間が。そんな時間があったら、時給900円でバイトでもしたほうがよっぽど儲けられるわけですね」

「それで、収入が高い人も、どの銘柄の株を買うべきか調べる時間があったら、本業なり副業なり、自分の得意な事業をやるほうが、株よりはるかに儲けられるんですよ。だから、株には過度な期待をしないほうがいいです。ただ、ある程度資産が貯まってきたら、年5%とかで運用してもけっこうな額になってくるんですね。なので、そういった神経回路をつくっておくためにも、お金がないうちから手間暇のかからない資産運用の方法っていうものを自分の中で構築しておくのはいいことだと思います」

講義は、「自分のライフスタイルに合った資産運用」について、そして「デイトレード」に関する話へと移っていく。

「僕は去年か一昨年ぐらいまで、米国株と日本株を半分ずつ買っていたんです。でも最近は日本株もなかなか割安の銘柄を見つけるのが難しくなってきたので、今は米国株しか買ってないです。これは、日本株のフローを見極めるのが難しいっていうのもあるんですけど、もうひとつ大きな理由があるんですね。東京証券取引所が開いてる午前9時から午後3時までって、小説家である自分が集中して執筆できる時間でもあるんですよ。だから、その時間に何か日本株を買っていると、たまに銘柄チェックとかしちゃうんですね。それで、儲けてても損してても、あんまり本業に集中できなくなるわけですよ。米国株の取引時間は、日本だと夜から朝にかけてなので、基本その時間は寝ていますし、自分のライフスタイルにも合っているなと」

「それと、変にデイトレードとかをしようとは考えないほうがいいと思います。ごく少数の成功した人の話もよく聞きますけど、実際は失敗して消えていった投資家がほとんどなので。市場から消えないで細く長く続けるには、自分のライフスタイルに合った形で、スイングトレードや長期投資をしたほうがいいですよ。個人によって運用方法はちょっとずつ違うと思うんですけども、そういった手堅い投資方法を見つけていくのがいいと思います」