ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの代表取締役社長を務める前澤友作氏は10月9日、都内で会見を開き、9月18日付けで明らかにした民間人初の、それも世界的なアーティストたちとともに月を周回するアート・プロジェクト「#dearMoon」に関する説明などを同プロジェクトのホスト・キュレーターとして行なった。

#dearMoon自体の概要は、既報のとおり。2023年に、スペースXの超大型ロケット「BFR」を使って、前澤氏ならびに6~8名の世界的アーティストが月の周回軌道(自由帰還軌道)に沿って、地球に帰還するというもの。アーティストたちは、月を近くで見て、かつ月の地平線から昇る地球の姿などをみて、そこから得たインスピレーションを作品として生み出すことを目的としている。

  • ZOZOの前澤友作社長

    ZOZOの前澤友作社長。手にしているのは、宇宙服のヘルメットと、BFRのモック (C)前澤友作「#dearMoon」記者会見@FCCJ

仕事との両立を実現する制度とは

前澤氏は、宇宙に行くために必要とされるトレーニングなどについては、まだ一切決まっていないとしつつも、スペースXのイーロン・マスク氏からは、「そんなに苛酷じゃないと聞いている」として楽観的な見方を示す一方、ホスト・キュレーターとして、世界的なアーティストたちを連れて行くため、安全面には十分、スペースXと詰めていく必要性を強調。「今まで写真では何度もみたことがある、地球を実際に丸く見ることができることが楽しみ。自分の眼でみると、どれくらい感動するのか。それを楽しみにしています」と、宇宙から見る地球の姿への期待を示した。

また、「自分としては必ず英語が必要になると思っている」ともし、スマホアプリで単語の勉強をしているほか、「恥を忍んで積極的に話をしています。恥ずかしくないし、どうどうとやりたいと思います。それが英語の学習の一番の近道だと思います」と、ホスト・キュレーターとしてアーティストたちとコミュニケーションを取るために英語が必要であるため、その習得に向けた勉強を進めているとした。

そうした勉強やトレーニングの時間をどうやって生み出すのか。「ZOZOは短時間労働を社員に推奨しています。具体的には一般的な8時間労働ではなく、6時間。自分の仕事が終わったら、帰って良いというもので、これを導入してから、社員の働き方が変わった。無駄なことは辞めて、結果として集中力が増し、パフォーマンスが上がった。その関係で、自分も会社には週3~4日の出社で、6時間労働」と、自社の労働環境を説明。あまった時間で、勉強のほか、趣味のアートやクルマ、買い物などに活用しているとし、そうした会社以外の時間を大切にすることで、そうした体験(インプット)の量と、仕事でのアウトプットの量は比例するとの考えを社員にも伝えていることに言及。「月に行ったら、必ず良い仕事につながる。インプットを増やすというのは日ごろから大切にしている」と月に行くことも、そうしたインプットを増やす1つの取り組みであるとした。

なぜスペースXを選んだのか

ではなぜ、スペースXの打ち上げサービスを、しかも2018年時点では、まだ打ち上げ実績もなにもない新型ロケット「BFR」で月を周回しようと思ったのか。

  • 宇宙服のヘルメットとBFRのモック

    会見場に置かれた宇宙服のヘルメットと、BFRのモック

前澤氏は、会見で、「イーロン・マスク氏を信頼できると思ったのは、同社を訪ねていった際、社員の態度や我々に対する接し方が素晴らしかった。みんなイーロン・マスク氏を信じているし、情熱をぶつけている。自分もそうありたいし、そういう人が月をテーマにつながって、そういう話ができることに価値があった」と、スペースXの技術力などはもちろん、イーロン・マスク氏という人そのものの人柄含めて、選択するだけの価値があったと説明。「友達としても、経営者としても尊敬している」と賛辞を呈した。

そもそも前澤氏は月に行くことを決めたのはいつか。同氏は「4~5年ほど前」と、その時期を振り返る。「月にいけると聞いたとき、行くことよりも、自分のメッセージを世界に発信する大きなチャンスだと思った」と月に行くことの根底にある考えを披露。「(人類史上初めて月面に降り立った際に)ニール・アームストロング船長が発した言葉はみんな知っている」と例を挙げ、自身としてのメッセージについて「世界平和が良いじゃん、とライトに言っちゃうと思うけど、ただ、それを伝えたいだけ」と説明した。

アーティストの選別はどうするのか?

また、前澤氏はアートというものに対して、「言葉を持っていないので、言語を超えて向き合える存在」と表現。同じように隣でアートを見る人がいても、その人と話す言語が異なっていても、同じ感性を持ち、それが良いものだと言えるものであるとし、同乗するアーティストに対しても、世界を何らかの形でよくしたいという想いの強い人を探して交渉したいとするほか、「自分がその人の作品がすき、というのも対象」といったことが選考の前提となるとするも、まだ誰にも声をかけていないと説明。交際中の女優・剛力彩芽氏についても「私もいきたいとは言っているが、大きなミッションであり、今回はただ、楽しんでいく旅行とは違う。それぞれのアーティストが、それぞれの役割を担って、キュレーターである僕自身にもホストとしての役割がある。彼女にもし、役割やミッションがあって、それをほかの船員(アーティスト)も受け入れてくれるなら、選ばれる可能性もあるかもしれない」と公私混同はしないことを明言。交際自体については「順調です」と笑顔を見せた。

日本の宇宙ビジネスの盛り上げ役に

このほか、前澤氏は「宇宙業界全体を盛り上げたい」と言及。日本の宇宙ベンチャーとも会う機会が増えてきたとし、「僕をうまく使って、ビジネスを持ち上げてもらって構わない、と言っていて、みんなで盛り上げていければ」と、日本の民間宇宙関連企業にエールを送った。

  • ZOZOの前澤友作社長

    ZOZOの前澤友作社長

また、「イーロン・マスク氏にはZOZOスーツを渡して、クレイジー、と言われた。これで、僕の身体を図って、宇宙服を作ってよ、とはいったけど、まだわからない。もし、貢献できることがあればうれしい」と、ZOZOならではの宇宙との係わり合いができれば幸いであるとしたほか、日本として得意なところにクラフトマンシップが存在すると指摘。自身も子供のころは、大工になりたくて、朝から晩まで建築現場を見ていた時期もあるとするなど、「職人が好きで、モノが作られていくのがとにかく好き。職人を育てていくことで、日本経済を盛り上げていきたいと思っている」と、自社ブランドを展開するようになったことで、自分たちのクラフトマンシップを出せるようになったことを強調。日本の職人を世界に紹介していくことで、宇宙ビジネスだけでなく、経済全体の支援にもつながるとし、今回の月周回の話題を活用していくことで、「いままでは(2017年に約123億円で落札した)ジャン=ミシェル・バスキアの前澤だったのが、月の前澤に代わってくると思うし、世界にZOZOを知ってもらうという点では良い広告になると思う。ZOZOスーツは海外からも面白いと言われており、良いスタートを切れたと思う」と、自分や自社のアピールが、そうした職人の活性化などにもつながっていくとしていた。