トヨタ自動車が日本国内の販売改革に踏み切る。同社は4系列(チャネル)からなる販売網を持つが、今後はクルマがモデルチェンジする機会を捉えて、各系列の専売車種を全ての系列で取り扱う形に切り替えていく。つまり、全ての店舗で全てのクルマを購入できるようにするわけだ。2025年頃をめどに改革を進め、車種も現状の60車種から30
トヨタ国内販売網が事実上の一本化?
トヨタの国内販売網は、トヨタブランド車を取り扱う「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」の4チャネルと「レクサス店」からなる。トヨタ車を扱う4系列には、全国各地の有力な地場資本が参加し、強固な販売体制を作り上げてきたという経緯がある。
各地のディーラーを取り巻く環境の変化は激しい。かつては伸び続けていた国内自動車販売も、今では保有の循環型需要、つまりはクルマを持っていない人の新規購入から、クルマを所有している人による買い換えへと購買行動が変化してしまっているし、クルマを取り巻く新技術「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応も急務だ。自動車ディーラーにも、次世代サービス業への転換を求める機運が高まってきている。
このような状況を受け、トヨタは国内トップの販売シェアと年販150万台ラインをキープすべく、従来のような全国一律の複数販売チャネル体制を改め、地域を軸とし、サービス面を強化していく方針を打ち出した。2018年1月には、トヨタ国内営業部門をタテ割りだった従来のチャネル対応から地域別のヨコ割り体制へと切り替えている。
また、トヨタ全系列で全車種を取り扱うための布石として、2019年4月には東京地区の4系列を統合することも決定済みだ。
トヨタ自販が主導した複数チャネル体制
かつてはトヨタ以外も国内で複数のチャネルを展開していたが、今では販売網を一本化している。トヨタは“最後の砦”だったわけだが、同社の改革に対し、地場有力資本が入り込むディーラーサイドがどう呼応するかなど、まだまだ先の見えない難題も多い。
それというのも、全国280社、約5,000拠点の全国トヨタ販売店は、「トヨタ店」か「トヨペット店」から暖簾分けされた形で販売網を形成しており、拠点統合や人員整理となると、地域経済に大きな影響を与えるからだ。
トヨタの国内販売網は、第二次世界大戦から間もない1946年(昭和21年)に、当時の神谷正太郎氏率いるトヨタ自動車販売(トヨタ自販)が主導して「トヨタ店」を立ち上げたところから始まる。「トヨタ店」開設に呼応したのが各地の有力地場企業で、戦前までは日産車を販売していた店舗も多かった。
「トヨタ店」に続き、1953年には「トヨペット店」がオープン。今でも各地域では、「トヨタ店」と「トヨペット店」がライバルで競うケースがある。つまり、トヨタの国内販売は、この2つの系列がリードしてきたのだ。
その後、1961年に「カローラ店」、1968年に「オート店」(1999年に「ネッツ店」に変更)、1980年に「ビスタ店」がセットアップされる。この時点で国内5チャネル販売網となったわけだが、いわゆる日本のモータリゼーション進展、高度成長にともなう自動車市場の急成長に対応し、量産・量販を実現するための複数チャネル政策だったのである。
つまり、トヨタ店とトヨペット店を親とする暖簾分けにより、各地域でカローラ店、ネッツ店、ビスタ店が増えていき、大衆向けや若者向けなど、チャネルごとに個性を打ち出した車種展開で、トヨタの強固な販売体制を築いていったのだ。
しかし、バブル経済崩壊後、国内自動車販売は低迷が長期化する。そんな中でトヨタも、5番目のチャネルであった「ビスタ店」を「ネッツ店」に統合し、“大ネッツ店”として再スタートさせる。そもそも「ビスタ店」で扱っていた車種には「マークⅡ」「チェイサー」「クレスタ」の三つ子車があり、店名にもなった「ビスタ」も「カムリ」の双子車であった。チャネルの統合は、双子車や三つ子車でも販売が伸びた時代の終焉を象徴する動きだった。
日本メーカーがたどった販売チャネル一本化の道
その頃には、日産自動車やホンダ、マツダ、三菱自動車工業も、複数あった販売チャネルの一本化を進めていった。日産は1990年代初頭まで、トヨタのライバルとして「日産店」「日産モーター店」「サニー店」「プリンス店」「チェリー店」の5チャネル販売網で対抗した時期もあったが、1999年に「ブルーステージ」と「レッドステージ」に統合し、2011年からは全車種扱いのワンチャネルとしている。
マツダは1989年のバブル絶頂期に「マツダ店」「アンフィニ店」「ユーノス店」「オートザム店」「オートラマ店」と5チャネルに増やしたが、1990年代末には一本化した。ホンダは「クリオ店」「ベルノ店」「プリモ店」を2006年に「ホンダカーズ」の1社にまとめ、三菱自も「ギャラン店」「カープラザ店」を2003年に統合した。国内ではトヨタを残し、乗用車各社の複数チャネル体制が消滅した経緯があるのだ。
地場資本ディーラーは変われるか
トヨタ国内販売の強さは、何といっても全国各地で地場有力資本のディーラーが地域を守っているところにある。戦後間もなく、トヨタ自販に呼応してトヨタの販売店になった地場店が、連綿と販売力をつけてきたのがトヨタ国内販売の歴史だ。今や日本には、トヨタ車の4チャネル販売網にトヨタレンタリース店があり、2005年からは「レクサス店」も加わったトヨタ流通体制が形成されている。
「一にユーザー、二にディーラー、三にメーカーの利益を考えよ」とは、トヨタ自販の初代社長である神谷正太郎氏の言葉として有名だが、最優先のユーザーと接点を持つディーラーとして、トヨタ自販はメーカーに対してものをいう力を持ってきた。だが、時代は移り、各地域のディーラーを率いる地場資本オーナーは、すでに3代目か4代目へと事業の継承が進んでいる。
若手経営者に代替わりをする中で、各地では「○○トヨタグループ」や「○○トヨペットグループ」といったホールディングカンパニー制を取り入れ、レクサス店やレンタリース店などを含むトヨタ全系列販社をまとめて、地域を守る体制づくりが進んでいる。だが、トヨタ4チャネルにレンタリース店およびレクサス店が加わる枠組みをいかに効率的に改革していくか、課題は山積している。
日本国内の自動車需要は、保有台数の循環型市場になり、今後の超高齢化社会や若い世代の価値観多様化、シェアリングビジネスの台頭などで縮小均衡の方向に向かっている。
かつて、自動車市場が成長期にあった頃にメーカーの論理で築いた販売チャネル政策を転換することは、トヨタとしても国内販売事業の大きなテーマとなっている。国内の150万台販売と300万台生産を維持することは、トヨタグローバル戦略の基盤でもある。
全車種を扱う系列販社を維持しつつ、各地の販売体制と雇用を守るという難題に直面する全国のトヨタ販社は、クルマを売るだけでなく、売った後にもユーザーをフォローできる「MaaS」(Mobility as a Service)ビジネスへの転換に向け、地域ディーラーの論理で変わっていかねばならない時代を迎えているのだ。
(佃義夫)