テンセントと並ぶ中国2大ネット企業のアリババの株価がカリスマ経営者、馬雲(ジャック・マー)氏の会長引退の報道から大きく下げています。直近に発表された業績もやや予想を下回り、株価は下落トレンドに。しかし、長期には依然有望企業と思います

◆株価が25%下がったアリババは買いか?今後の見通しは?
アリババ(米国ニューヨーク市場上場:コードBABA)はテンセントと並ぶ中国2大ネット企業の一角であり、時価総額ベースではテンセントを抜いて中国最大の企業です。そのアリババの株価が9月11日、2018年の最安値となる152.85ドルを付けました。直前に、20年近く前に同社を創業したカリスマ経営者、馬雲(ジャック・マー)氏が会長を引退するとの報道があり、その影響から売りも出た模様です。

アリババ創業の少し前の1997年に上場したアマゾン(AMZN)は、上場来で株価は800倍近くとなり、時価総額が1兆ドル(111兆円)を超えました、アマゾンにヒントを得て、タイムマシン経営を得意とする孫正義氏から多額の出資を受けたことで、アリババも一時時価総額5000億ドルと、テンセントと並ぶアジア最大企業にまで成長しました。孫氏は、日本はアメリカの10~20年遅れ、中国はさらにそのあとに続くとみて、すでに楽天の出てきていた日本ではなく、中国のネット通販に賭けたのでしょう。

事業の方向性としては、アマゾンもアリババも同じ方向を向いているように見え、一部の実店舗とデジタルの融合においては、アリババの方がより未来を向いて先行しているようにすら見えます。両社ともネット通販の領域にとどまらず、サービスやコンテンツを充実させ、消費者の日常に深く関わることで、小売事業以外のビジネスを大きくしようとしていることです。

アマゾンは同社開発の人工知能「Alexa」を、スピーカー、PC、自動車メーカーなど数万の協賛企業の製品に搭載しようとしており、それらデバイスを通じて口頭で会話することで、自社配信の映像、音楽、ネットショッピングなどあらゆる繋がりを消費者と持とうとしています。

アリババはニューリテール事業という、デジタルと融合した未来のショッピング(スマホアプリで買い物するスーパーを実現)や食事(レストラン、フードデリバリー)に力を入れます。また2018年に行われたW杯サッカーでは、買収した動画ストリーミング配信の「YOUKU(優酷)」を通じて全試合配信するなど、コンテンツも充実させています。決済は「アリペイ」を運営する子会社アントフィナンシャルがすでに不動のシェアトップの座に就き、クラウドサービスにおいてもテンセントを超えて最大手です。ネット通販を超えたサービス拡大により、例えばW杯サッカーを視聴した新規ユーザーが、新たにネット通販の顧客になるというシナジーもあります。

一方で、そうした新規事業(ニューリテール、デジタルコンテンツ、クラウド)に対する先行投資が拡大し、今のところ中核の小売事業の利益の一部を食いつぶす状況で、全社的な利益率は低下しています。また、同社は海外向けにオンライン小売および企業向け卸販売も行っており、これが米中貿易戦争の悪影響を受けるのではないかとの心配もあるようです。

では、今後の株価の見通しはどうでしょうか? 以下、決算内容の確認も含め、見ていきたいと思います。

◆1.アリババ2019年3月期第1四半期決算は予想通りの売上と僅かに下回った利益
2018年8月23日に発表された2019年3月期第1四半期の業績は、売上が前年同期比61.2%増の809億2000万元、営業利益が54.2%減の80億2000万元、調整後の純利益が2.2%増の211億3300万元となっています。売上は市場予想平均に対して+0.2%上回ったものの、調整後(株式報酬費用等を除いた実質利益)の最終一株利益は8.04元で、市場予想平均の8.15元を1.4%下回りました。

ただ、株価はこの決算を悲観して下がったのでなく、8月23日の決算発表前からテンセントと同じく、中国株全体の下げに合わせて下がってきました。むしろ決算発表後の1週間は-1.6%安と殆ど変わっていません。そして2018年9月第1週に7%超下げ、今週は中国株全体の下げと会長辞任ニュースで過去1年の最安値をつけました。

◆2.アリババの中核コマース事業に関しては順調に推移
「中核コマース事業」は売上全体の86%を占め、利益の全部を稼ぎます(他の事業は全て赤字)。「中核コマース」事業の中でも、中国小売部門は売上全体の67%を占めます。新規ユーザー数が+24%増え、中心となる「天猫(Tmall)」の総取扱高は+34%増加、それに合わせてコミッション収入も+17%増えました。コミッション収入より大きいカスタマーマネジメント収入(検索連動型広告などで出店者の販売をサポート)は+55%増となり、検索技術改善やユーザーエキスペリエンスの向上が効いてきています。そしてまだ売上全体の9%ほどですが、生鮮野菜の「Hema」、総合スーパーの「RT-Mart(大潤発)」などデジタルを駆使した実店舗への投資が身を結び、「その他の中国小売」部門が4.4倍増と伸びています。

中国小売部門以外の中核コマース事業は、中国卸売、国際小売、国際卸売、Cainiao(菜鳥)物流サービス、カスタマーサービスの各部門が、それぞれ売上全体の2~6%の間であります。特に「天猫国際」や「Ali Express」、買収した東南アジアのマーケットプレイス「Lazada」などの国際間のマーケットプレイスが伸びていますが、一方で通商摩擦に対する懸念もあります(懸念は何ら実現していない段階ですが)。

以上の中核コマース事業に関しては順調に推移しており、概ねこれまで通り、市場予想通りといったところでした。

◆3.中核事業以外の赤字拡大により、営業利益、純利益とも大幅減益
動画共有サイトの優酷や土豆、UC(優視)などを運営する「デジタルメディア&エンターテインメント」事業は、46%の増収となり、売上全体の7%を占めます。前述のようにW杯の高視聴率で優酷の有料会員数は3倍増となりました。しかしコンテンツや販促に関する費用は大きくなり続け、赤字幅は却って増大し、売上額の71%に相当する営業損失を計上しています。

売上の6%を占めるクラウド事業も+93%の大幅増収ですが、費用増加でこちらも赤字拡大です。ただ現時点ではテンセントらとの競合もあり、損益よりシェア拡大を優先しています。

中核事業以外の赤字拡大により、営業利益、純利益とも大幅減益となりました。ただ今期は費用の中の、アリババ従業員に対するアント・フィナンシャル株の株式報酬が115億元と巨額になるなど、ノンキャッシュの費用が大きくなりました。

こうした特別な費用を差し引いた純利益は前年同期比+2.2%増で、市場はこのベースでの利益に注目します。いずれにせよ、現在同社は新規事業に対する投資を強めており、その結果は大幅な売上増という形で表れてきているものの、利益への貢献はまだ先となりそうです。

◆4.株価の大幅下落により、PER水準は2016年並みに
前述のように第1四半期の正式な会計上の純利益は大幅減益でしたが、そこから本業に関係のない収入(資産売却益や投資収益など)や、株式報酬をはじめとするノンキャッシュ費用を調整し、さらに税金、金利、減価償却費用を差し戻した「調整後のEBITDA利益」を載せています。この調整によりキャッシュフロー利益に近いものとなります。

「調整後のEBITDA利益」は、前年同期比+16.9%増の293.6億元でした。売上高に対して32.6%の利益率となります。ただそれでも新規事業にかかる費用は増えており、前年の同ベースの利益率45.3%から大きく低下しました。中核のオンライン通販事業だけに限ればこれまで通り順調です。

株価の大幅下落により、PER水準は2016年並みにまで戻りました。2016年まで同社株は100ドルあたりを天井に伸び悩んでいたのであって、2017年から一気に大幅上昇し、今年前半は200ドルを超えたのでした。

今回注目したいのはチャートです。テクニカルには長期下落トレンド入りを伺わせるものとなっています。まず中期10週線(50日線)が長期40週線(200日線)を急角度で下抜け、デッドクロスしました。そして200日線の傾きは緩やかに下げ方向にあります。

さらに4月、8月とベースの底でつけていた安値ライン(およそ165ドル)を先週から一気に下抜け、出来高も増しています。ベース下限の重要なサポートラインを力強く下抜けたことを確認でき、当面下落基調が続くものと想定します。一方、株価は大幅上昇前水準にまで割安となっていますが、こうした軟調な状態が2016年一杯まで続いたのであって、同様に割安状態が続く可能性もあります。

◆5.短期には明らかに下落転換も、長期には依然として有望
アリババの事業展開に対しては好感を抱いており、現時点では売上高の急拡大を伴い、将来の成長の芽として期待の持てるものです。単なる中国最大のオンラインマーケットプレイスの運営企業として時価総額50兆円で終わるのか、それとも娯楽、金融(決済)、広告の機会と、消費者の日常を鷲掴みにする100兆円企業へ羽ばたけるかはアマゾンと同じ命題であり、現在加速させている事業投資次第というところです。

あと中国の場合、どこまで消費者を取り囲んで独占的に成長できるかは、政府・共産党との兼ね合いもあります。その意味でジャック・マー会長が引退後も経営に携わることはプラスで、すでに新規事業は現CEOが率先してリードしてきたため、問題ないと思います。

一方、短期には将来への事業投資が利益を犠牲にしてきており、そうしたことにしか注目しない投資家の売りを浴びやすいところです。チャートは中国企業に対する売りもあって明らかに下落転換しており、割安と飛びついてもすぐに結果のでない可能性もあります。そうした時期は上場~16年末までも同様に続いたのであって、やがて長期投資が成果を生み、アップル、アマゾンに続く100兆円企業になる可能性は十分あると思います(その前にアルファベット、マイクロソフト、フェイスブックも)。ただ時間はかかると思います。

参考:中国株通信

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文=戸松 信博(マネーガイド)