こんにちは!科学コミュニケーターの毛利です。
ノーベル賞の発表がいよいよ来週に迫ってきましたね。生理学・医学賞の予想、第三弾!早速予想します!

私が紹介するテーマは、私たちの体を守る免疫システムになくてはならないリンパ球を発見し、その役割や成り立ちを明らかにした、こちらのお二人です!!!

近年、がんに対する免疫療法やアレルギーへの治療など、免疫に関係した画期的な治療法の登場や新しい発見が次々と登場しています。これらの源流にあるのが、半世紀前になされた今回私がご紹介する研究です。この研究成果をきっかけに免疫学が大きく花開き、その後の基礎研究や医療の発展によって、私たちは大きな恩恵を受けています!

    

適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見

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(左)
オーストラリアの免疫学者、ジャック・ミラー(Jacques F. A. P. Miller)博士
1931年生まれ。
豪州ウォルター・アンド・イライザ・ホール医学研究所所属。
写真提供:The Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research

(右)
アメリカ合衆国の免疫学者、マックス・クーパー(Max D. Cooper)博士
1933年生まれ。
米国エモリー大学医学部所属。
写真提供:Donna M. Martin

    

■ そもそも「免疫」って何?

みなさんは「免疫」という言葉を聞いたことがありますか。最近、漫画やアニメで取り上げられているので、その面白さに目覚めた!という人もいるかもしれませんね。

免疫とは、自己(自分の体)と非自己(病原体などの外来異物)とを見分けて、非自己を異物として排除するしくみのことです。私たちがこんなに病原体がうじゃうじゃしている世界で健康でいられるのは、免疫が体内に侵入しようとする病原体を排除してくれているからなのです。

私たちが持つ免疫には、「自然免疫」と「適応免疫(獲得免疫)」とがあり、互いに協力し合って、私たちの体を守ってくれています。

自然免疫は、私たちの体に生まれつき備わっている免疫で、広く異物を攻撃し排除します。一方、適応免疫は、その異物に接することで初めて獲得される免疫で、自然免疫の壁を突破してきた異物を見極めて、ピンポイントに効果的な攻撃を仕掛けます。

適応免疫が異物(下の図では病原体)を攻撃する方法は2つあります。

1つは、B細胞(Bリンパ球)が持つ「抗体」という飛び道具を使って、病原体を除去する方法。もう1つは、キラーT細胞(Tリンパ球)が、病原体に感染されてしまった細胞を丸ごと破壊する方法です。どちらの細胞も、異物の情報を受け取ったヘルパーT細胞(Tリンパ球)からの指示を受けて、攻撃を開始します。    

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適応免疫では、Bリンパ球とTリンパ球が協力して異物を排除する

        

あー、この図、教科書で見たことある、Bリンパ球やTリンパ球も聞いたことあるぞと思った皆様!そうです、この話が載っていない生物の教科書はありません。Bリンパ球やTリンパ球は、適応免疫になくてはならない存在なのです。

それでは、これらのリンパ球を発見したお二人の先生の研究は、いったいどんな研究だったのでしょうか。早速ご紹介しましょう!

    ■ミラー博士とクーパー博士が登場するまでの免疫学

免疫学は、19世紀後半に、パスツールによって学問としてスタートし、1950年代頃までは、血液中の抗体(かつては抗毒素とも言われた)の性質を化学的に調べる「血清学」が盛んにおこなわれていました。

一方で、細胞や個体レベルでの解析はなかなか進まず、実際の現象を元にした免疫理論はほぼ完成していたにも関わらず、それを実証するためのリンパ球や体内でのネットワークは発見されていませんでした。

    
■ミラー博士の功績 ~謎の器官「胸腺」の役割を発見!~

心臓の上に被さるようにして存在する器官「胸腺」は、紀元前からその存在は知られていましたが、長い間、その役割は不明のままでした。その胸腺のはたらきを発見したのがミラー博士です。

1950年代後半、ミラー博士は、ウイルス感染によって引き起こされる、ネズミのリンパ性白血病を研究していました。この病気は、胸腺から発生し全身に広がります。

ミラー博士は、胸腺を取り出したネズミにウイルスを感染させてその影響を調べました。予想通り、ネズミは白血病にかからなくなりましたが、驚いたことに、その後しばらくすると、そのネズミはどんどん衰弱し、病気にかかりやすくなる免疫不全になってしまいました。

さらに、ネズミにとっては異物となる羊の赤血球を注射したところ、本来ならば抗体が作られてくるはずなのに、そのネズミの体内では、抗体ができてこないことも分かりました。

次に、このネズミに、異物である他のネズミの皮膚を移植したところ、免疫によって起こるはずの拒絶反応が起こらず、そのまま皮膚として定着することが分かりました。

胸腺を取り除いたことで、異物を排除する免疫反応が大きく損なわれてしまったのです。この結果から、胸腺は、拒絶反応を引き起こす細胞を作ることが予測されました。

  

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ネズミでの胸腺摘出実験

    

そこで、リンパ球に印をつけて体内を移動する様子を追跡したところ、リンパ球は胸腺から全身に移動することが分かりました。そこで博士は、このリンパ球を「胸腺(Thymus)由来リンパ球」(後のTリンパ球)と名付けました。しかしこの時点では、免疫を担う細胞が2系統あることはわかっていませんでした。

    

■クーパー博士の功績 ~ニワトリでBリンパ球とTリンパ球を発見!~

クーパー博士もリンパ球の発見に取り組んだ一人でした。

1950年代中頃に報告された「ニワトリのファブリシウス嚢という袋状の器官を取り除くと、抗体が作られなくなる」という結果に興味を持ったクーパー博士は、臨床経験のある小児科医としての経験から、「抗体が関係するリンパ球とそうでないリンパ球がある」ことを予見したのです。

なぜなら、ある種の遺伝性免疫不全疾患の患者では、抗体を十分持っているのにヘルペスウイルスが異常増殖しているのに対し、また別の遺伝性免疫不全疾患の患者では、抗体を持たないにも関わらず、ウイルス感染には強かったからです。

そこで、ふ化直後のニワトリからファブリシウス嚢と胸腺をそれぞれ除去したところ、ニワトリはファブリシウス嚢を摘出すると抗体をつくれず、胸腺を摘出すると皮膚移植片の拒絶反応が低下することが分かりました。

この実験から、抗体をつくる細胞はファブリシウス嚢由来で、拒絶反応を担当する細胞は胸腺由来であることが予想されました。また、抗体をつくる細胞を、嚢(Bursa)にちなんで「Bリンパ球」と呼ぶようになりました。

   

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ニワトリでのファブリシウス嚢または胸腺摘出実験

   

その後、ミラー博士もリンパ球には2系統あることを示し、1960年代半ばには、獲得免疫は、Bリンパ球とTリンパ球の2系統の細胞によって担われていることが、広く一般にも認められるようになりました。

  

現在では、Bリンパ球とTリンパ球は共に骨髄で生まれ、未熟なTリンパ球はそこから胸腺へ移動し、攻撃を指令する役のヘルパーT細胞や実際に攻撃をする役のキラーT細胞へ成熟することがわかっています。

胸腺では、さまざまなT細胞の教育・訓練・選別がおこなわれます。異物を攻撃することができない細胞は未熟なまま死滅し、一方で、自分の細胞を攻撃する危険のある細胞は「負の選択」によって死滅させられます。

最終的に生き残るのは、適度に異物を攻撃できる「正の選択」をくぐり抜けた細胞で、全体のたった2,3%です。狙った敵を確実に仕留め、自分の細胞を攻撃しないためには、Tリンパ球の厳しい選別が必要なのです。

   

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Bリンパ球とTリンパ球の分化モデル

   ■ 免疫学が未来の医療を変える!

ミラー博士とクーパー博士の研究をきっかけとして、免疫学が大きく発展し、自己免疫疾患、アレルギー、関節リウマチなどの、数多くの免疫疾患の成り立ちが明らかになりました。

抗体や免疫細胞を活用した治療薬なども開発が進み、特に最近は、乳がんの抗体医薬・ハーセプチンやB細胞性白血病の遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法)など、がんの治療に大きな効果を持つ治療法も開発されています。

また、その中の一つである、がん治療薬である免疫チェックポイント阻害剤・オプジーボの開発につながる研究については、科学コミュニケーターの沈(シェン)がノーベル生理学・医学賞にふさわしい研究として、2015年に紹介しています。

   

これまで免疫学分野では、17ものテーマがノーベル生理学・医学賞を受賞していますが、実は、「Bリンパ球やTリンパ球の発見」は、未だ受賞していません!

その理由は、多くの研究者たちが、お互いの情報を共有しながらこのテーマに取り組んできたため、「いつ、誰が、どのように」これらのリンパ球を発見したのか、特定するのがとても難しいからだと言われています。

しかしその中でも、ミラー博士とクーパー博士の研究は、免疫学が「抗体化学」から「T細胞生物学」の時代へと移行していくきっかけとなった素晴らしい研究だと思います!

今年の生理学・医学賞は、2011年以来の免疫学分野からの受賞なるか、下に挙げた未来館の過去予想も含めて、ぜひご注目ください!

   

    
【未来館の過去の予想(免疫学分野)】

・2015年ノーベル生理学・医学賞を予想する① 免疫制御の分子の発見とがん治療への応用
沈 晨晨(シェン チェンチェン)
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201509162015-2.html

・2016年ノーベル生理学・医学賞を予想する①その1 アレルギー反応機構の解明~IgEの発見編
石田 茉利奈(いしだ まりな)
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201609082016-ige.html

・2016年ノーベル医学・生理学賞を予想する①その2 アレルギー反応機構の解明~制御性T細胞編
石田 茉利奈(いしだ まりな)
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201609082016t.html

   
【参考文献】

・ブルーバックス「現代免疫物語 花粉症や移植が教える生命の不思議」
・ブルーバックス「現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病」
・羊土社「免疫ペディア」
・Fifty years of B lymphocytes. Nature. 2015 Jan 8;517:139-141
・The early history of B cells. Cooper MD. Nat Rev Immunol. 2015 Mar;15(3):191-7.
・The golden anniversary of the thymus. Miller JF. Nat Rev Immunol. 2011 May 27;11(7):489-95. Review. Erratum in: Nat Rev Immunol. 2011 Dec;11(12):880.

2018年ノーベル賞を予想する!

生理学・医学賞
その① アミノ酸、足りてますか?あなたの体の栄養分の見張り番
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809102018-4.html
その② 腸内細菌が医療を変える!?
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809132018-9.html
その③ 適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見(この記事)

物理学賞
その① 光を自在に操る人工素材!
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809122018-8.html
その② カーボンナノチューブの発見から実用まで(Coming Soon!)

化学賞
その① 脂質なしには成り立たない細胞内シグナル伝達
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/201809052016-14.html
その② ほしいものは折りたたんで作る!DNAオリガミ
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201809182018dna.html
その③ 発想の転換でDNA解読の新時代を開く(Coming Soon!)

番外編:研究者にとってのノーベル賞
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20180919post-824.html



Author
執筆: 毛利 亮子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
乳飲み子抱えてアメリカ留学。多種多様な価値観に触れ、コミュニケーションの重要性を痛感。震災をきっかけに、自分が社会のためにできることを考え始めました。子供達に明るい未来を残す方法を探るため、2016年4月より未来館へ。