9月16日、オーストリアのウィーナーノイシュタットで開催されたレッドブル・エアレース第6戦本戦。室屋義秀選手は決勝のファイナル4へ進出し、マルティン・ソンカ選手(チェコ)とわずか0.03秒差の接戦で2位に入賞、千葉戦以来の不調を脱し復活を遂げた。ただ、ランキング首位に立ったソンカ選手との点差は詰められず、室屋選手の2年連続チャンピオンの可能性は消滅した。

  • レッドブル・エアレース第6戦 表彰台

    (C) RedbullContentPool

不運の連鎖を断ち切るか、「サムライ・ヨシ」の挑戦

昨年に続く2年連続のチャンピオンを目標に掲げた室屋選手は、初戦と第2戦は決勝のファイナル4に進出したものの、その後3大会連続で途中失格となり、上位3選手と大きな差をつけられての5位になっていた。進化を続けるレッドブル・エアレースで上位に入り続けるにはパイロットの操縦だけでなく機体の改良も必須だが、ここ3大会はこの機体改良と操縦の絶妙なバランス取りに苦労していたように見える。ただ速度は確実に上がっており、前大会でもトップクラスのタイムを記録しているので、あとはトラブルなく確実にレースを飛び切ることが課題だ。

  • 笑顔の室屋選手

    前回の回転数オーバー対策でわずかにパワーを落としたセッティングだが、それでも予選をトップで通過し室屋選手も笑顔 (C) RedbullContentPool

本戦の組み合わせを決定する15日の予選で、室屋選手は全選手中唯一の58秒台前半となる58.483秒で1位の記録を出した。実況中継では「日本のヨシ・ムロヤが彼のベストへ戻ってきた」と賞され、室屋選手自身も満面の笑顔を浮かべた。

  • エアレース第6戦会場
  • エアレース第6戦会場
  • 会場はグライダー競技などで使われる、広大な芝生の飛行場。滑走路から離陸し加速しきらないうちにコースに入る「スタンディングスタート」のため、機体の加速力が勝敗を左右する (C) RedbullContentPool

強まる風、確実なフライトで決勝進出

本戦の16日は風が強くなっていたのか、初戦のラウンド・オブ14はペナルティを受ける選手も多く、どの選手も前日より軒並み1秒程度遅くなっていた。室屋選手は1分0.592秒と2秒も遅い記録だったが、フライト直後のインタビューで「保守的なコースで飛んだ。前日とは風が全く違っていたよ」と冷静に語った。先に飛んだ対戦相手のペトル・コプシュタイン選手(チェコ)がペナルティ込みで1分4秒台だったのを見て、冷静に確実なゴールを目指したようだ。

続くラウンド・オブ8で室屋選手はカービー・チャンブリス選手(アメリカ)と対戦。実は前回カザン大会でも同じ組み合わせで、室屋選手はタイムで勝利したもののエンジン回転数オーバーで失格となっている対決のリベンジ戦だ。先にフライトした室屋選手はラウンド・オブ14より1秒も速い59.578秒でゴール。ところがチャンブリス選手はエンジンの調子が悪く離陸せずに棄権というハプニングが発生し、やや消化不良気味ながら室屋選手は勝ち上がることができた。

  • 飛行中の室屋選手

    迷いのないスムーズなターンでコースを駆け抜ける室屋選手。3大会連続で失格してしまった宙返りも完璧に成功した (C) RedbullContentPool

「3機が1馬身差」の接戦、制したのはソンカ選手

決勝のファイナル4に進出したのはランキング同点2位のソンカ選手とマット・ホール選手(オーストラリア)、4位のミカ・ブラジョー選手(フランス)と室屋選手。首位のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)がラウンド・オブ14で敗退したため、2位の2選手は逆転のチャンスを掴んだが、同時に室屋選手が上位3選手全員との差を詰めることは不可能になった。

  • 室屋選手は5か月ぶり決勝に進出

    5か月ぶりに決勝進出した室屋選手はフライトごとにタイムを短縮したが、わずか0.036秒差でソンカ選手に逆転された (C) RedbullContentPool

そしてフライト順1番は室屋選手。ラウンド・オブ8よりさらにタイムを縮め、59.324秒を記録した。この日の全選手中で見ても最速に近く、後続の選手にプレッシャーを掛けるには充分だ。

  • ホール選手
  • ホール選手
  • ホール選手はこの日が誕生日。トップと0.083秒差の3位で表彰台へ登った (C) RedbullContentPool

しかし、直近2大会で連続優勝しているソンカ選手は強かった。プレッシャーをはねのけ、なんと0.036秒差の59.288秒で室屋選手に見事勝利。3番目のブラジョー選手は1分0.088秒と伸びなかったが、最後のホール選手は59.371秒とこちらも室屋選手に0.047秒差で迫る記録。1位から3位までがわずか0.083秒差、距離に換算すると機体の長さをやや上回る「1馬身差」というハイレベルな接戦で、ソンカ選手、室屋選手、ホール選手は表彰台へと登った。

  • ソンカ選手
  • ソンカ選手
  • 優勝は絶好調のソンカ選手。機体トラブルを除けば毎回決勝進出していることも考えると、今期の成績は圧倒的だ (C) RedbullContentPool

3連勝のソンカ選手首位へ、室屋選手はチャンピオン消滅

優勝したソンカ選手は今年、第1戦、第2戦と連続で機体トラブルに見舞われたものの第3戦で3位、第4戦からは3大会連続優勝しており、機体トラブル以外の理由で負けたことがない。昨年は最終戦で室屋選手に逆転されチャンピオンを逃したが、今年は圧倒的な実力を見せつけて再びトップに返り咲いた。

一方、室屋選手はブラジョー選手と並んでランキング4位に浮上したものの、合計ポイントは34点。ソンカ選手は64点なので、残る2大会で室屋選手が連続優勝し30点を得て、ソンカ選手が0点でもようやく同点。そしてソンカ選手はすでに3大会で優勝しているので、室屋選手が2回優勝して同点でもソンカ選手がチャンピオンになる。室屋選手のチャンピオンの可能性は完全に消滅した。

  • 表彰台でシャンパンを掛け合う3選手

    表彰台でシャンパンを掛け合う3選手。室屋選手の表彰台は5か月前のカンヌ戦以来 (C) RedbullContentPool

笑顔の表彰台、新しいスタートを切った室屋選手

しかし競技後の室屋選手は終始、憑き物が落ちたような笑顔でインタビューに応じた。

  • 記者会見に笑顔の室屋選手が戻ってきた

    重く長い5か月のトンネルを抜け、記者会見に笑顔の室屋選手が戻ってきた (C) RedbullContentPool

前年チャンピオンとして同点を目指すかと聞かれると「それは相手次第だからね、なあ、お2人さん?」と、隣のソンカ選手とホール選手を見やった。そう、今から点差を気にしても意味はない。第2戦から5か月間の苦しいトンネルを抜けた室屋選手は、前年チャンピオンではなく1人のレッドブル・エアレースパイロットとして、新しいスタートラインに立った。

  • ケニー・チャン選手

    右端はチャレンジャークラスで優勝し、初めて年間トップに立ったケニー・チャン選手(香港)。室屋選手に続くアジア勢マスタークラスパイロット誕生なるか (C) RedbullContentPool

次の大会は、昨年の最終戦でソンカ選手を下しチャンピオンになったインディアナポリスで10月6日、7日だ。

  • 室屋選手

    今季チャンピオンの夢は潰えても、エアレースの夢は続く。昨年の決戦地インディアナポリスへ向け、室屋選手は新たなスタートを切った (C) RedbullContentPool