ソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援する「Seed Acceleration Program(SAP)」から生まれたハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」が登場して、2年半が経過しようとしている。そしてこの秋、新製品を投入しプロジェクトも新しい段階に入る。

wenaはどう市場に受け入れられ、これからどのような道を歩もうとしているのだろうか? プロジェクト責任者である、ソニー Startup Acceleration部 wena事業室統括課長の對馬哲平氏に話を聞いた。

ソニー Startup Acceleration部 wena事業室統括課長の對馬哲平氏

人に近づくと「バリエーションは増える」

wenaはいわゆるスマートウォッチに類する製品だが、他のスマートウォッチ、例えばApple Watchなどとは大きく異なる点がある。それは、「時計」でなく「バンド」がインテリジェントになっている、ということだ。wena wristではモーションセンサやスマートフォンとの通信部分がバンド側にあり、バンドと時計のヘッドを組み合わせることができれば、どんな腕時計であってもスマートウォッチになる。

2016年の発売以降、wenaには多数の製品が用意された。對馬氏は、「ソニーといえど、これほどたくさんのバリエーションを販売する製品はなかったのでは」という。だが、そのことは、wenaのプロジェクトチームにとっては「当然」のことだった。

「身につけるものは、冷蔵庫や洗濯機とは違い、非常に強い趣向性が求められます。弊社の吉田(憲一郎社長)も『人に近づく』という経営の方向性を示していますが、人に近づくほど、より趣向性が求められると思っているんです」(對馬氏)

確かに、腕時計は商慣習的に、非常に種類が多い。對馬氏によれば、市場全体で、1年に1社だけで50から60もの製品が出るというのだ。「wenaもその戦略にそって、モデル数は増やさざるを得ない。ですから、ヘッド(時計)部分は多数のラインアップを用意しています」。

しかしながら、ヘッドは複数種類あるものの、バンド部は3つしか存在しない。このことは、wenaという製品の特徴がわかりやすく現れた部分かと思う。腕時計はファッション性が重要で、好みも広い。機能も重要だが、それだけで選ばれるわけではない。だからこそ、wenaはバンド部とヘッド部を分け、腕時計としてのアイデンティティがより強く出る部分を自分で「選べる」ようにしている。

wenaオリジナルのヘッドあるが、それ以外にも時計メーカーやブランドとのコラボレーションを進め、「選べる」ことを強みとしている。wena wristを自分の好きな時計につけて使っている人も多いという。

セイコーとのコラボで「機械式」「登山用」も登場

そんな中で登場するのが、wenaの新モデルである。これまでwenaは、自らのブランドの時計部には、メーカーとコラボし、彼らに設計・製造を委託したものが使われてきた。ただし、ブランドとしてはあくまで「wena」である。

しかし今回、セイコーとのコラボレーションが決定した。セイコーの機械式のデザインをベースとしたモデルと、登山用のデジタルウォッチを使ったモデルである。どちらも、セイコーとwenaのダブルブランド。いままでと違うのは、時計としてはあくまで「セイコーの製品」である、ということだ。

wenaの「SEIKO Digital」シリーズ

wenaの「SEIKO Mechanical」シリーズ

「これまでもいろんなブランド様とコラボモデルを出してきましたが、今度は相手先のブランド名が入ります。ブランド名が入るということは、その社の『社名がかかる』ということですから、大変です。一番はじめから、時計メーカーと組みたいと思っていましたが、伝統のあるセイコー様と組めたのは嬉しい限りです」(對馬氏)

どちらも、デザインなどはwenaのコラボモデル専用のものだが、特にユニークなのは、登山用のモデルの方だ。実はこちら、ヘッド側にも「スマートウォッチ」としての機能がある。バンドとヘッド、両方がスマートフォンと連動するようになっているのだ。

「wenaと登山用ヘッド、両方のアプリをスマホに入れて用途に合わせて使い分けます。スマートウォッチ系ではありますが、ヘッド部は登山用です。標高や登山スピードなど、登山に必要な機能を持っているのが特徴です。それに対してwenaは、活動量計や通知機能、電子マネーといったタウンユースに特化しています。双方が補完関係にあるので選びました」(對馬氏)

スマートウォッチというと「機能」というイメージが優先しがちだ。実際、wenaもスタートした時は、「バンドだけでスマートウォッチ化できる」という機能が注目された部分が大きい。だが現在、wenaのアピールポイントは少々変わって来ている。

「2016年に『第1世代』を出した時は、やはり、斬新さ・新しさを強調しました。現在、スマートウォッチの市場は全世界で9000億円程度で、時計市場の7分の1・8分の1くらいと言われています。ですからそろそろ、『腕時計とスマートウォッチとwena、という第3の選択肢』『いまはこういう選択肢もある』という形を打ち出すことにしました」(對馬氏)

すなわち、スマートウォッチの中でもデザインバリエーションやヘッドの付け替えの自由さをアピールした。これには事情もあった。このプロジェクトでは、開発にかけられる人数も限られていたことから、ソフトウェアで他社に対して明確な優位性を出すのは難しかったという。そのため、そこは割り切り、他社連携でアピールすることにしたのだ。

「1社独占」はない。コラボでバリエーション拡大へ

スマートウォッチは大きく期待されたジャンルである。「ポストスマートフォン」のようないい方もされたが、実際にはスマートフォンの周辺機器であり、市場としては落ち着いてきた印象だ。そこに、エクササイズという用途に軸を切り直したApple Watchが広がり、結果的に、気付いてみれば「期待したほどではないが、底堅い市場を構築した」状態である、といっていい。

そんな市場を、wenaはどうやって切り開こうとしているのだろうか?

2016年頃を振り返ってみると、主だったスマートウォッチは、ディスプレイ付きか、wenaのようなバンド式のものしかなかった。そこから、ちょっとした通知だけを時計側に入れたもの、「時計合わせだけ」をスマホ連携でやるものなど、いろいろなものが増えてきた。特に最近は、腕時計側からのアプローチが増えている印象がある。

「腕時計とスマートウォッチの境界線は次第になだらかになってきていると思います。そういう市場ですから、1社独占はあまりない。そもそも趣向性が大事なので、みなが同じものをすることはないんです」(對馬氏)

スマートウォッチ市場ではアップルが50% のシェアをもっているが、腕時計市場全体ではワンオブゼムに過ぎない。

「wenaも利便性は追求したいので、もっと機能拡張をしたり、時計側になにかを組み込む可能性もあるでしょう。しかし我々は、アナログ時計の良さと利便性を両立させる立場だとも思っています。それは、身につける喜びと利便性の両立でもあります。しかし、今のソニー・wenaからではアプローチできないお客様がたくさんいます。そうした層に知っていただくためにも、バリエーションを増やし、コラボレーションを充実させていきたいです」(對馬氏)

(西田宗千佳)