映画「愛しのアイリーン」で主人公・宍戸岩男役を演じる安田顕さん

 俳優の安田顕さんの主演映画「愛しのアイリーン」(吉田恵輔監督)が14日に公開される。嫁不足の農村で暮らす独身男性とフィリピン女性の国際結婚を描いた異色のラブストーリーで、安田さんは不器用で女性とうまくコミュニケーションがとれない非モテの42歳独身の宍戸岩男役を熱演している。安田さんに強烈なキャラクターの岩男役を演じた心境や作品への思いを聞くとともに、多数の作品に出演している多忙な現状や大地震に襲われた地元・北海道への思いも聞いた。

 ◇“岩男役”選ばれた決め手は「ちょっと気持ち悪い」から?

 「愛しのアイリーン」は、1995~96年に新井英樹さんがマンガ誌「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載したマンガが原作。一世一代の恋に玉砕し、家を飛び出した岩男(安田さん)は、300万円を払ってフィリピンの嫁探しツアーに参加。やけになって決めた結婚相手は、貧しい漁村に生まれたアイリーンだった。岩男がアイリーンと共に帰省すると、実家は急死した父の源造(品川徹さん)の葬儀の最中。見ず知らずのフィリピン人女性を嫁にもらったことに母・ツル(木野花さん)は激高し、波乱に満ちた岩男とアイリーンの新婚生活が始まる……というストーリー。アイリーンはフィリピンでのオーディションで吉田監督が見いだしたナッツ・シトイさんが演じている。

 主人公の岩男は、不器用で対人関係に問題があり、女性に慣れていない……というキャラクター。原作では熊のような大男として描かれている。安田さんはクランクイン前に、「なぜ自分が岩男役に選ばれたのか」を吉田監督に聞いたといい、「率直に聞いたところ、褒め言葉ですけど、『外見ではなく、中身の方はちょっと気持ち悪いじゃないですか、安田さんって』と言われて(笑い)。僕も、なるほどと思いました」とオファーの背景を明かす。

 人間の欲望が凝縮されたような作品世界の中でも、ひときわ強烈なキャラクターを演じる。どのような役作りをしたのか。「不器用、対人関係に問題アリ、女性とうまくコミュニケーションがとれない……僕がそうだから、役を作る必要がないんです」と安田さん。「スイッチをオフにすれば、対人関係も器用な方じゃないし、不器用だし」と明かす。

 女性に対しても、構えてしまうあまり「顔を合わせて礼をしない」ことを以前に指摘されたことがあるといい、「女性に対して気を使うあまり、目を合わしていない自分がいるんです。だから役作りというより、その三つのキーワードは、もともと自分の中にあるんです。吉田監督が『外見じゃなくて中身がいい意味で気持ち悪い』とおっしゃったのも、そこなのかなと思います」と語る。

 劇中で安田さんは、陰鬱な雰囲気を漂わせ、ぼそぼそとしゃべるが、時に過激な言葉を絶叫し、不器用ゆえ極端な行動に走ってしまう岩男を熱演している。撮影を振り返って、岩男を演じることは、「自分をさらけだすこと」だったという。「『うまい、へた』をこの作品に持ち込んじゃいけないなと思いました。もともと(芝居が)うまくないし、そこで勝負できる人間じゃないので。歌が歌えるわけでも、パントマイムができるわけでもない。『じゃあ、自分にできることってなんだろう』と考えたら、自分をさらけだすしかないな、と。原作に心を打たれて、覚悟を持って臨むからには、さらけだすしかない、と思いました」と打ち明ける。

 完成作を見たあとは、「しばらく席を立てないような感覚に襲われた」という。「『これってなんなんだ?』と思ったんです。分析ができなかった。そういう思いにさせてくれる作品って、僕の中ではなかなかなくて。簡潔な言葉で感想を伝えなければいけないと思っても、できなかった。渦巻く感情がありました」と話す。

 公開が目前に迫った今、「参加できたことが何よりうれしい」と笑顔を見せ、「もし僕がこの作品に参加できなかったとしても、吉田監督が描く『愛しのアイリーン』は絶対に違う形で生み出されていると思いますが、でも、そこに参加できていなかったら、見たときに僕は嫉妬していると思います。(撮り終えて)やり切ったかどうかというより、そう思えたことがうれしい」と赤裸々に語る。

 ◇大活躍も「いつも崖っぷち」 

 オファーを受け、「脚本を読み、内容に感銘を受けた」と語る安田さんだが、もともと作品の内容や役どころで出演を判断するということはないという。安田さんは「『(役は)これです』と言われて脚本を読んで、読む前より感謝する、ということはありますが、内容によって(出演を)決めることはないですね。オファーが来ただけでありがたいです」と語る。ドラマに映画にと多くの作品で活躍している状況だが、安田さんは「すごい不安症」と吐露し、「いつも崖っぷちだと思っています」と意外な心情も口にする。

 「愛しのアイリーン」は自身にとってどのような作品になったのか。安田さんは「自分が歩んでいく道の中で、なにかしらのくさびを打ってくれていると思います」と力を込める。できれば作品に没入できる映画館で観賞してほしい、という。「パワーをいただく、というより、パワーを吸い取られる映画だと思う。そういう感覚になれる映画ってなかなかない。絶対に自分の中に残るので、その感覚を体験してほしいです」と自信をのぞかせる。    ◇地元・北海道の地震 今の心境は…

 6日未明に北海道で最大震度7の地震(北海道胆振=いぶり=東部地震)が起こった。北海道出身の俳優として、安田さんもツイッターや公式サイトのダイアリーなどで「どうか踏ん張って」とメッセージを送っている。改めて今の心境を聞くと、安田さんは「現時点で、行動らしい行動ができていないので、何か言葉を発することがおこがましい、と思ってしまう自分がいます……。生まれ育った故郷で、仕事をしている場所ですし、思いが大きいので慎重に言葉を選びたい」とした上で、「復興していくことって、すごく大変だと思います。(地震が)落ち着いて、メディアにあまり取り上げられなくなったとしても僕は忘れることはないし、このあと共に進んでいける(ための)何かを、より強く思えたらな、と思っています」と静かな口調で、思いを明かした。