歯にとって、歯みがきが大切なことは誰だってよく分かっている。でも、生えたばかりの小さな小さな乳歯をみがく必要があるの? と思ってしまうママやパパも多いはず。「歯みがきはいつから?」「どうして虫歯になるの?」「よく聞くフッ素って何?」といった疑問を解消するべく、小児歯科医によるママ向け勉強会に潜入した。

  • 歯の将来は乳歯ケアにかかっている!? 小児歯科医に聞く乳歯のフッ素ケア

    乳幼児を育てるママたち向けに「早期からのフッ素ケア」の勉強会が行われた

8月末、ピジョンの泡タイプのフッ素塗布剤「ピジョン おやすみ前のフッ素コート」の発売に合わせて、同社本社で「早期からのフッ素ケア」をテーマとしたママ向けの勉強会が開催された。

今回の勉強会では、実際に乳幼児を子育て中のママたちの前で、日本歯科大学付属病院の副院長であり小児歯科教授の内川喜盛先生が、乳歯の成長過程や虫歯の仕組み、フッ素の効果について解説。磨き方のデモンストレーションも行われた。

歯みがきはいつからする?

まずは乳歯の成長過程と歯みがきの開始時期について。

「歯が生え始めるのは、早い子で生後6カ月頃、平均で7~8カ月頃で、下の前歯から生えてきます。この歯が生え始めた頃が、歯みがきの開始時期の目安です。ただ、まだ虫歯になりやすい時期ではないので、この頃はお母さんも赤ちゃんも練習のつもりで少しずつ慣らしていきましょう」と内川先生は話す。

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    日本歯科大学付属病院副院長の小児歯科教授・内川喜盛先生

1歳頃になると歯も生えそろい始め、本格的な歯みがきが必要な時期になる。この頃に初めての歯科検診に行ってみるのもいいのだそう。1歳半を過ぎると、虫歯になりやすい奥歯が生えてくる。また離乳食が終わり、いろいろな物を食べられるようになる時期のため、虫歯菌がつきやすくなる時期だという。

「この頃に余裕を持ってきちんと歯みがきができるよう、早いうちから練習しておくことが大切なんです」(内川先生)

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    3歳には奥歯も生えそろっていることが分かる。奥歯はとくに虫歯になりやすいのだそう

大人と同じ物が食べられるようになる3歳頃には歯並びが完成し、奥歯に食べ物がつまりやすくなる。

「歯ブラシで頑張ってみがいても、歯の間の汚れはなかなか取れません。これが4~5歳くらいになると虫歯になってしまうんですね。この頃から、1日1回でいいので糸式ようじをしましょう」(内川先生)

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    2歳8カ月の女の子の歯。ところどころ黒くなっていて虫歯が広がってしまっている

上の写真は、内川先生のところへやってきた2歳8カ月の女の子の口内。虫歯に侵されていることが分かる。「この子のお母さんもケアはしていたようです。しかし気がつかないうちに、あっという間に虫歯が広がってしまったんですね」と内川先生は話す。

歯の役割は、食べ物を咀嚼する以外にも、発音を助けたりアゴの発達を促したりと多岐にわたる。内川先生によると、3歳くらいまでに虫歯のなりやすさが決まると言われているのだそう。子どもたちに健康な歯をプレゼントするためにも、早め早めのケアが大切になる。

なぜ虫歯になるの?

次は虫歯になるまでのメカニズムについて。

歯の表面を覆うエナメル質は、人間の身体の中で一番硬い成分。プラーク(歯垢)が歯の表面に付着し、このエナメル質を溶かすのが虫歯のはじまりなのだそう。

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    まずは歯の仕組み。表面を覆うエナメル質は身体の中で一番硬い部分だそう

細菌は歯に付着すると、徐々に集まってバイオフィルムという酸性の構造物を形成する。「イメージとしては、下水管の表面のぬめぬめのようなものです」と内川先生。

このバイオフィルムは、バリアを張りながらどんどん増殖して口内に虫歯菌を広げていく。こう聞くと恐ろしく感じるが、実はこのバイオフィルムは物理的な攻撃に弱い。つまり、歯ブラシでこすると簡単に破壊できるのだ。毎日の歯みがきがいかに大切かがよく分かる。

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    歯を溶かす恐ろしいバイオフィルムは実は物理攻撃に弱い

一方、破壊されずに残ったバイオフィルムは3日ほどで成熟し、食事中の炭水化物などを栄養にしながら酸化し、歯の表面を溶かしていく。これを脱灰(だっかい)と言う。

「この脱灰は口の中でしょっちゅう起こっています。でも私たちの歯が溶けてなくならないのは、唾液が溶けた成分をもとに戻してくれているからです。これを再石灰化と言います。唾液というのは自然治癒力を持つ、まさに黄金の液体なんですね」(内川先生)

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    脱灰で溶けだした成分をもとに戻すのが再石灰化。ここで重要なのが唾液

歯はつねにこの脱灰と再石灰化が繰り返しているが、再石灰化よりも脱灰が上回ってしまうと、虫歯を発症してしまうことになる。

フッ素の役割って?

では、歯みがき粉のCMなどでよく聞く「フッ素」は、歯のケアにどういった役割を果たすのだろうか。

「フッ素は緑茶やめざし、海水中など身近にも存在しており、決して恐いものではありません。量を適切に守れば、歯の健康にとても役立つものなんです」と内川先生。

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    「フッ素は歯の健康にとても役立つものです」と内川先生は話す

フッ素には、ほかの物質とくっつきやすい性質がある。そのため、フッ素(フッ化物)は口の中で歯の成分とくっついてさまざまな作用をもたらすという。

フッ素の口の中でのはたらきとしては、歯を早く成熟させて強くする、溶けにくい歯をつくる、歯の成分が溶け出す(脱灰)のを防ぐ、溶けた歯を治す(再石灰化の促進)、虫歯菌の活動(酸の生成)を抑制するなど、多岐にわたる。

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    右端の「F」がフッ素。歯がより早く再石灰化できるよう助けてくれる

この中でもとくに注目したいのが、脱灰の抑制と再石灰化の促進だ。フッ素はバイオフィルムによって歯から溶け出した成分とくっついて、より早く歯の中に戻してくれる。分かりやすく言うと、フッ素は歯が溶けて虫歯になるのを防ぎ、歯を強くするのを助けるということになる。

「フッ素は歯の周りにほんの少しだけあればいいんです。そして歯の表面にいつもフッ素をおいておくことが大切です」と内川先生は話す。

フッ素の摂取量としては、市販のフッ素配合の子ども用歯みがき粉を1日2~3回、そして3カ月~1年に1回、歯科医院で高濃度のフッ素を塗布するといいのだそう。

「乳歯が生え始めた早期から、低濃度のフッ素を毎日のケアに取り入れることで健康な歯を保つことができます」(内川先生)