――最初のあいさつだけでなく、イベント中で変身ポーズを決める直前とか、ここぞ!という場面で戦兎ではなく佐藤太郎のハイテンションぶりが出てくると、やっぱりたくさんの人が笑ってくれますよね。それではここで『ビルド』の撮影に明け暮れた1年間で、もっとも印象に残った出来事があれば教えてください。

撮影の日々ではあまりにもいろいろな出来事がありすぎて、具体的にどれとは挙げられないですね。ただ、撮影現場のことを思い返すと、すごくプロフェッショナルで真摯に仕事をされているスタッフさんとか、粘る監督とか、一生懸命芝居のことを考えるキャストの方たちとかの顔がパッと浮かんでくるんです。それが今までの僕にとっての日常であり、終わった今となってはかけがえのない思い出になっています。

――特に、1年間にわたって戦兎の相棒として共に戦ってきた万丈龍我役・赤楚衛二さんにねぎらいの言葉をかけるとしたら、どんなことを話しますか?

わりと僕は敵を作りやすいタイプといいますか、勘違いをされやすいタイプだと思うんです。最初に会った人から不機嫌そうとか、不愛想だなという風に見られたりすることが多くて……。自分ではそんなつもりがないんですけれど、そう見えることが多いらしく、なかなか共演者同士で仲良くなることって少ないんですよ。そんな中、1年間ずっと仲良くしてくれた赤楚には、すごく感謝しています。「ありがとう」という言葉をかけたいです。

――赤楚さんをはじめ『ビルド』のキャストさんたちは最初のころからチームワークがよく、みなさんで食事に行ったりすることもひんぱんにあったりしたそうですね。犬飼さんもみなさんに心を開いていたからこそ、そういう空気で1年もの撮影を乗り越えられたということだと思います。

そうですね。『ビルド』の現場はとても居心地がよかったなと、強く思います。こういう雰囲気は、他の現場では二度と感じられないんじゃないかって……。

――チームワークがよく、仲良しであるから余計に『ビルド』テレビシリーズの終了は寂しいのではないですか。

それはそうですけれど、終わったからといってみんなと会えなくなるわけじゃないですからね。これからも何か月に1回とか、会うこともあるかもしれませんし、完全にお別れではないと思っています。だから寂しさというよりは、今は「楽しかったね」というひとつの思い出ができたことの喜びをかみしめているところです。

――先ほどの戦兎の人格の変遷に見られるように、『ビルド』のストーリー展開はとてもスピーディーにキャラクターの動きが変化していくところが大きな特徴となりました。犬飼さんは毎回あの濃密な内容の台本を読まれて、どういった思いで演じられてきましたか。

中盤以降、台本を読んで戦兎の心情を追っていると「最近、よくヘコむなコイツ」と思うことがあったんですよ。1年を通して戦兎としてずっとやってきて、僕自身の心が強くなったのかどうかはわからないですけれど、台本で戦兎がヘコんでいるくだりを読むと、僕が「そんなことでヘコむのかな?」と思うようになりました。脚本の武藤(将吾)さん、演じている僕、テレビをご覧になっている人たち、それぞれの戦兎への認識が「違う」んだなと思うんです。立場の違いによってキャラクターへの見つめ方が異なる、というのは非常に面白い現象だな、と不思議に感じたことがありました。

――犬飼さんご自身よりも、台本に書かれている戦兎のほうがややナイーブな性格ということになるのでしょうか。自分で演じられているキャラクターについて、そこまで客観的に見つめることができるというのは、犬飼さんならではだと思います。

自分がこれまでの演技で作ってきた戦兎と、武藤さんが描いてきた戦兎というのは、一緒の方向を向きつつも、ちょっとコースが違っているんだなって、制作側と表現側との考え方の違いというのを少し感じました。

――劇場版でも、戦兎が守るべき人々や親しい仲間から敵視され、深い絶望に陥った後、自らの覚悟と希望を見出して立ち上がる……といった細やかなキャラクター描写があったからこそ、クライマックスでの戦闘シーンが盛り上がりました。テレビが佳境を迎えたタイミングで劇場版の撮影に臨んだときの心境を教えてください。

とにかくテレビのストーリーが最終回に向けて盛り上がってきているタイミングで、別のストーリーとして映画をやるということで、台本をわくわくしながら読みました。しかし、当然ながら撮影スケジュールが非常にタイトになるわけで、テレビをやっているとき、映画のときと、スイッチの切り替えが必要になりましたね。今撮影しているのが映画なのか、テレビなのか、ゴチャゴチャにならないよう気持ちを保つのが難しかったですね。