例年、9月はAppleが新しいiPhoneを発表する季節となっている。2018年のカレンダーとAppleの2018年第4四半期末から考えると、新型iPhoneの発売日は遅くとも9月21日金曜日となるだろう。そこから逆算すると、1週間前の9月14日金曜日に予約が開始され、9月10日から12日の間にスペシャルイベントが開催されることになる。

iPhoneの新モデルは、売上高全体の6〜7割を占めるAppleにとって重要であるのはもちろんのこと、Samsung、Huawei、Xiaomiといった競合となるAndroidスマートフォンメーカー、そしてiPhone向けのアクセサリを製造するメーカーにとっても、ここ1年、もしくは数年のビジネスを考える材料となる。

昨今のAppleの現状とモバイル業界について考えてみたい。

「絶好調」以外に言葉がない

AppleのiPhoneビジネスの現状は、控えめに言っても「絶好調」という状況だ。ウォール街の評価も高まり、米国企業として初めて、時価総額1兆ドルを上回り、なお株価は上昇し続けている。もしスマートフォンメーカーに投資するなら、Apple以外に考えられない、そんな評価を著名投資家からも集めているのが現状だ。

まずはここ数年のAppleとiPhoneについてふりかえっていこう。

AppleはiPhone 7を発売した2016年から2017年にかけて、成長に陰りを見せた。販売台数は横ばいだったが、売上高はマイナス成長を記録し、とくに急成長を経験した中国市場での下落が目立つ結果となった。

その原因となったのは、2014年のiPhone 6投入による中国市場のロケットスタートだ。それまで4インチ止まりだった画面サイズを4.7インチ、5.5インチへと大画面化し、一挙に攻勢をかけた結果だった。その反動で3年もの間、低成長の期間を経験することになった。

2017年に風向きは変わった。3年ぶりとなるデザイン刷新と、全画面デザインを採用したiPhone Xの登場で、iPhoneに新たな時代の到来をアピールした。iPhone Xは10周年、特別な仕様、というコンセプトで999ドルからという、これまでのスマートフォンにとっては最も高い部類の価格を設定した。

iPhone X

しかし、Appleは半年以上の期間、iPhone Xが週次の販売台数でトップを記録し続けたことを決算発表で明かすなど、最も高いiPhoneを最も多くの台数販売することに成功させたのだ。

直近の2018年第3四半期決算では、販売台数は1%増と横ばいだったが、売上高は20%増加した。つまり1台あたりの販売価格が2割上昇した結果であり、iPhone Xだけでなく、2017年モデルのiPhone 8がモデル末期になってもよく売れていることを表している。

例年、Appleの決算期における第3四半期以降は、併売している過去のモデル(現在であればiPhone 6sやiPhone 7)の販売が台頭し、平均価格は500ドル台まで下がってくる傾向にあった。しかし2018年第3四半期は平均販売価格が700ドルを超えており、現行モデルの人気が継続している、これまでと異なる動きを見せているのだ。

矛盾する利益と台数

決算の上では「絶好調」と言うべきAppleのiPhoneビジネスだが、一方で矛盾を見出すこともできる。AppleはiPhoneの年間販売台数は、2億1000万台で頭打ちとなっている。そのため、1台あたりの価格の上昇は非常に有効な戦略だった。

一方Appleは現在、サービス部門を拡大させてる戦略に出ている。サービス部門は、App Storeの売上手数料やiCloud追加ストレージ、Apple Music、Apple Pay、Apple Care+など、製品の販売以外のビジネスだ。

Appleはサービス部門を2016年から2020年までに2倍に成長させる目標を持っており、現在順調にその目標を達成してきている。直近の2018年第3四半期決算では、前年同期比34%増の95億4,800万ドルを売り上げた。

現在Appleでなんらかのサービスを継続的に利用しているユーザーは3億人に達しているが、この数字が5億人に伸びるか、現在のユーザーが1.5倍の支出をApple ID経由で行わなければ、目標に届かない計算だ。

このサービス部門は、iPhoneを中心としたApple製品のユーザーが増えることによって成長していく仕組みとなっている。つまり、販売台数が伸び、新規ユーザーが増えることが、サービス部門成長の原動力となるのだ。

その話から考えれば、iPhoneの販売台数が頭打ちとなっている現状は、サービス部門の成長にとって良くない兆候といえる。

新興国をどうしたいのか

先進国市場でのスマートフォン飽和の状況を考えれば、アジア太平洋地域、アフリカなどの新興国でのiPhoneの普及を重視しなければならない。そうした市場では端末の価格の安さが普及の鍵となっており、Appleの現在のiPhoneラインアップは、その市場に全く噛み合っていないのだ。

例えば昨今Appleの取り組みの失敗が伝えられたのはインド市場だ。Appleは現在、349ドルの4インチスマートフォンiPhone SEを有しているが、インド市場の平均的なスマートフォンの価格は150ドル程度で、最も安いiPhoneでも2倍以上の価格になっている。しかも、2年前に発売されたiPhoneに、すでに競争力がないことも明らかだ。

急成長する市場におけるAppleの停滞を尻目に、中国ブランドの台頭が見られる。新興国市場での好調さを背景に、2018年第2四半期の世界のスマートフォン販売台数では、Samsungの7150万台に次いで、2位にHuaweiの5420万台がランクインした。Appleは3位に追いやられ4130万台だが、4位のXiaomiも3190万台で追い上げている。

HuaweiもXiaomiも前年同期比40%増以上の成長を見せている一方、Appleは現状維持、Samsungは10%減となっていることを見れば、ハイエンドモデルに頼っている既存メーカーの苦戦と、低価格攻勢を仕掛ける中国メーカーの成長が顕著となっている。

AppleのiPhone戦略は、先進国市場については、現在の成功している高付加価値路線に変更の必要性は感じない。しかし新興国市場については、現状のままというわけにはいかないだろう。

低価格の戦略端末を用意するのか、数年間新興国の経済成長を待って、iPhone SEと同程度の価格のモデルを用意するのか。現在米国の利上げによって、資金が米国に戻ってきており、新興国の経済成長の停滞が予測される中、少し長期戦を覚悟した方が良いのかもしれない。

(松村太郎)