国立天文台(NAOJ)は8月30日、124億光年の彼方にあるモンスター銀河「COSMOS-AzTEC-1」をアルマ望遠鏡で観測。形成初期の銀河における高解像度な分子ガス地図を作成することに成功したことを発表した。

同成果は、国立天文台の但木謙一氏(日本学術振興会特別研究員)と伊王野大介 准教授(総合研究大学院大学)のほか、Min S. Yun氏(University of Massachusetts)、Itziar Aretxaga氏(Instituto Nacional de Astrofísica, Óptica y Electrónica)、廿日出文洋氏(東京大学)、David H. Hughes氏(Instituto Nacional de Astrofísica, Óptica y Electrónica)、五十嵐創氏(University of Groningen)、泉拓磨氏(国立天文台)、川邊良平氏(東京大学)、河野孝太郎氏(東京大学)、李民主氏(名古屋大学)、松田有一氏(国立天文台/総合研究大学院大学)、中西康一郎氏(国立天文台/総合研究大学院大学)、斉藤俊貴氏(Max Planck Institute for Astronomy)、 田村陽一氏(名古屋大学)、植田準子氏(国立天文台/総合研究大学院大学)、梅畑豪紀氏(理化学研究所)、Grant W. Wilson氏(University of Massachusetts)、道山知成氏(総合研究大学院大学)、安藤未彩希氏(総合研究大学院大学)、Patrick Kamieneski氏(University of Massachusetts)らによるもの。詳細は英国の科学雑誌「Nature」に掲載された

  • 但木謙一氏(日本学術振興会特別研究員)

    今回の研究成果の説明を行なう但木謙一氏(日本学術振興会特別研究員)

モンスター銀河とは?

銀河は星の集合体であり、地球が含まれる太陽系は天の川銀河に所属している。中でもモンスター銀河は、新たに星が作られていくペースが年間で太陽1000個相当の質量という勢いのある銀河を指す。天の川銀河は、年間で太陽1個相当の質量の星が生まれるかどうか、ということを考えると、その勢いが相当なものであることがうかがえる。

また、これまでに発見されているモンスター銀河の多くは地球から100~125億光年離れた場所で発見されており、それらに含まれる星や、星の材料となる分子ガスの量は、いずれも天の川銀河の2倍以上であることも知られている。そのため、成長が進めば、非常に重い銀河になることが予想され、天の川銀河のおよそ1000倍もの星を持つ巨大な楕円銀河に進化するものと考えられている。

星の形成活動につながる分子ガスの地図を高解像度で作成

今回、研究グループは、アルマ望遠鏡を用いてモンスター銀河の中でも星形成活動がより活発であろうと思われる「COSMOS-AzTEC-1」の観測を実施。

  • アルマ望遠鏡を活用することで高精度地図を作成

    アルマ望遠鏡を活用することで、124億光年彼方のモンスター銀河のガス分布を高解像度で描き出すことに成功した (出典:国立天文台)

具体的にはCO分子ガスの分布を観測。その結果、分子ガスの分布、ガスの質量ならびに分子ガスの運動の様子(圧力の分布)を高解像度で取得することに成功したという。

  • アルマ望遠鏡による観測成果

    1つ目の発見。ガスの運動の様子を捉えることに成功した。色分けしたガス運動から分かるのは、銀河が回転運動をしているということ。ここから、銀河の回転速度を導くことができるほか、星から噴き出すガスの圧力も測定できたという (出典:国立天文台)

  • アルマ望遠鏡による観測成果

    2つ目の発見。中心から離れた場所2か所にガスの塊があることが判明。円盤中のガスには2種類の力、重力によりつぶれようとする内向きの力と噴き出そうとする外向きの力があり、多くの銀河では、その2つの力は釣り合うように星形成活動が行なわれているが、ガスの圧力から見積もられた運動からは、内向きの力が大きいことが判明した (出典:国立天文台)

これらの情報から分子ガス地図を作成したところ、その地図からは、COSMOS-AzTEC-1は分子ガスの大部分が中心1万光年の範囲に集中していることが判明したほか、中心から数千光年離れた位置2か所にも大きなガスや塵の塊が存在していることが確認された。

  • アルマ望遠鏡で観測されたCOSMOS-AzTEC-1の様子

    アルマ望遠鏡で観測されたCOSMOS-AzTEC-1の様子。2つの矢印は、ガスと塵の大きな塊を指し示しており、そこでも活発に星が生まれていることが予測される (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tadaki et al.

  • モンスター銀河「COSMOS-AzTEC-1」の想像図

    アルマ望遠鏡の観測結果をもとにしたモンスター銀河「COSMOS-AzTEC-1」の想像図。中心部分以外の2か所にも、分子ガスが自らの重力でつぶれ、塊となっている様子が描かれている (C)国立天文台

この離れたガスの塊2つについて検討を行なった結果、モンスター銀河は、全体にわたって分子ガスの質量、つまり重力が大きいわりに圧力が弱く、銀河全体にわたって制御不能なほどに活発に星の形成活動を起こしやすい状態になっていることが判明。そのため、研究チームでは、次から次へと星が暴走的に生まれている状態であると考えられると説明。その星形成ペースは、星の材料となる分子ガスを、より後の時代(宇宙誕生後20~60億年)の典型的な星形成銀河と比べて10倍ほど早い1億年ほどの時間で使い果たしてしまうほどであるとする。

  • 今回の観測から判明した結果

    今回の観測から判明した成果 (出典:国立天文台)

なぜモンスター銀河は誕生するのか?

今回の研究成果について説明を行った但木氏は、「まだ星の起源を解明したと言い切るのは難しい。宇宙の研究は終わりがなく、次の疑問として、なぜモンスター銀河にはこんなにガスが集まっているのか、といったことが出てくる」とし、1つの可能性として、ガスを多量に含む銀河同士が近い過去に衝突を経験し、狭い範囲にガスが押し込められたことが挙げられるとするが、今回の観測からは衝突の形跡は見つけられなかったとする。

また、もう1つの可能性として、酸素や窒素といった重元素で構成される原始ガスが銀河の外部から流入することで、分子ガスが濃くなっている可能性を指摘。2018年~2019年シーズンのアルマ望遠鏡を用いた観測で、酸素や窒素に関する観測が予定されており、もし重元素を含まない原子ガスの流入の証拠を得ることができれば、世界初の成果となるとしている。

なお、但木氏は、「モンスター銀河における高解像度な分子ガス地図ができたことにより、これから沢山の研究成果が出てくることが期待されるので、宇宙に興味を持つ人々は、期待していてもらいたい」とコメントしており、引き続き、モンスター銀河誕生の謎の解明に挑んで行きたいとしている。

  • 今後の研究予定

    今後の研究予定 (出典:国立天文台)