スズキが20年ぶりにフルモデルチェンジした新型「ジムニー」および「ジムニーシエラ」が爆発的な人気となっている。本格的なコンパクト・クロスカントリー4WDとして発売前から注目を集めていた4代目モデルは、好調な受注に生産が追いつかず「納車1年待ち」の声も聞かれるほど。スズキは生産拠点の湖西工場(静岡県)で増産対応を進めているという。

新型「ジムニー」。サイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,725mm

唯一無二の存在「ジムニー」はどう進化したか

1970年に軽自動車で唯一の本格4WDとして登場して以来、ジムニーは約半世紀を経て4代目へと進化した。伝統を継承しつつ、スタイリングでも“原点回帰”を図っているが、電子デバイスなどの先進技術も取り入れているのが今回の新型だ。

新型「ジムニーシエラ」。サイズは全長3,550mm、全幅1,645mm、全高1,730mm。ジムニーとジムニーシエラは、ジムニーが軽自動車クロカン4WD、ジムニーシエラが小型クロカン4WDであり、日本市場では軽自動車と登録車に区別される

ジムニーが属するのは「クロカン」や「オフローダー」などと呼ばれるジャンル。代表的なのは「ジープ」だが、日本にも三菱自動車工業「パジェロ」やトヨタ自動車「ランドクルーザー」といったクルマがある。コンパクト・クロカンとしては三菱「パジェロ・ミニ」のほか、複数の自動車メーカーが商品展開を図ったが、いずれも撤退し、残っているのはジムニーだけという状況だ。

スズキは当初、軽のジムニーを国内向けに発売したが、1977年に小型車「ジムニー8」を投入してからは輸出も始め、これまでに194の国と地域で販売してきた。販売台数は世界累計で285万台に達している。

今回の4代目モデルを見ると、ジムニーは国内の軽自動車規格に合わせた専用モデルだが、ジムニーシエラは従来の1.3Lエンジンを新開発の1.5L直列4気筒エンジンへと改め、動力性能と信頼性を向上させている。世界戦略車として格が上がった印象だ。開発を担当した米澤宏之チーフエンジニアによると、国内での初期受注も「ジムニーとシエラで10:1程度の予測だったが、シエラの比率が予測よりもかなり高くなっている」という。

価格は「ジムニー」が税込み145万8,000円から、「ジムニーシエラ」が同176万400円から

試乗で探る人気の理由

スズキが1970年に初代ジムニーを投入した頃、筆者は駆け出しの記者として発表会を取材した記憶がある。ジムニー発表時のプレスリリースは以下のように述べている。

「現在、四輪駆動車の生産は全社で年間5,000台程度である。これらは、2,000~3,000ccの排気量で価格も90万~100万円とかなり高価であり、需要も産業用、法人用に限られている。しかし、モータリゼーションが進展し、自動車の多様化が要求されるようになった今日、廉価で手軽に使用できる四輪駆動の存在価値が高まっている。スズキではこの点に注目し、かねてより軽自動車の四輪駆動開発を進めていたが、このほど発表の運びとなったものである。これにより、従来からの四輪駆動車の主な用途であった産業用だけでなく、山岳、積雪地帯の商店、製造業、狩猟、つりなどから遊びのクルマとしてのレジャーカーに至るまで、個人需要も含めて幅広い用途を開拓できるものと期待される」

初代「ジムニー」(画像提供:スズキ)

まさしく、当時は日本のモータリゼーションが花開いた時代であり、360ccの規格でスタートした軽自動車に本格4WDが登場したことは話題を呼んだ。筆者はこの初代ジムニーに試乗し、江ノ島方面をドライブしたことも覚えている。あれからおよそ半世紀、今回は4代目の新型ジムニーとジムニーシエラに試乗する機会を得た。

なぜ、そんなに爆発的な人気となっているのだろうか。それを探ろうと新型モデルを見てみる。まず感じるのは、やはりデザインの魅力だ。直線基調の復活は「合理的でムダのない機能美を追求した」(米澤宏之チーフエンジニア)ため。いわば原点回帰であり、角張った初代ジムニーを彷彿とさせる。そこには洗練された雰囲気すら感じられるし、女性は「可愛い」と思うかもしれない。

試乗したジムニーはマニュアルトランスミッション(MT)車で、一般道路を走ったため軽ターボエンジンの音が少し気になったが、ラダーフレーム構造の安定感、見切りの良さは十分だ。

一方のジムニーシエラは、全幅が先代から45mm広がったことで、外観も本格コンパクト・クロカン4WDらしくなった。こちらは試乗車がオートマチックトランスミッション(AT)車であったこともあり、新開発の1.5Lエンジンが軽ターボエンジンに対する余裕を感じさせて走りやすかった。

電子デバイスとしては「デュアルセンサーブレーキサポート」(衝突被害軽減ブレーキ)など、スズキの予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」を搭載し、安全性能を高めてある。

今回の試乗は残念ながらオンロードだけで、オフロード性能を確かめることはできなかったが、四輪駆動本来の走行性能だけでなく、高速道路でもスムーズかつ快適に走行できるクルマであることが、その原点回帰のスタイリングとともに、20年もモデルチェンジを待っていたジムニーファンに受け入れられているのだろう。

20年ぶりのフルモデルチェンジを心待ちにしていたファンも多そうだ(画像提供:スズキ)

世界戦略車として風格を増した「スズキの顔」

かつては日本車も多くのコンパクト・クロカン4WDを展開していたが、今や櫛の歯が抜けるように消えていき、ジムニーが唯一無二の存在となっていることは前にも述べた通り。新型車試乗の後、米澤チーフエンジニアに話を聞くと、「スズキにとってジムニーは特別なクルマ。20年ぶりにフルモデルチェンジする4代目の開発は名誉なことだが、プレッシャーもあった」という。

もちろん、軽自動車市場で唯一のジャンルなので、ジムニーは継続させていくこと自体にも重要性がある。ユーザー層は林業に携わる「プロ」から趣味と実益を追う「一般ユーザー」まで幅広い。

米澤チーフエンジニア

一方で、海外市場ではすでに、194の国と地域への輸出でコンパクトカーとしてのジムニーシエラが浸透している。「コンパクトカーとしてのライバルは、日本だけでなく海外でも見当たらない」(米澤氏)だけに、4代目の開発は特に、グローバル戦略車としてのジムニーシエラを意識したそうだ。

「ジムニー」の好調維持には危機管理も重要?

このところのスズキは、国内向けに軽自動車をしっかりと用意するとともに、小型車ラインアップの強化を進めている。小型車を含めた商品力を積極的に拡充する中で、それぞれの商品評価も高まってきた。加えて、インドでの高い販売シェアと高収益を主体に業績も順調な動きを示している。

だが、これに水を差すように、新車出荷前の燃費・排ガス検査で不適切な対応があったことで、鈴木俊宏社長が謝罪会見を行う不祥事が発生した。お盆休み前の8月10日には、スズキのほか、マツダとヤマハ発動機も同様の内容で謝罪会見を行う事態となった。

今回の問題がリコールにつながることはないが、品質管理の在り方を問われたことは確かだ。ただ、スズキとしては、他社が役員クラスによる対応だったのに対し、トップ自らが出席する会見を開いたことで、危機管理・コンプライアンスへの初動対応に真摯な姿勢を見せたといえる。新型ジムニーの快調な出足に悪影響を及ぼすことがないよう、今回の問題にはしっかりと対応し、その姿勢を内外に示していく必要があるだろう。

(佃義夫)