日本ではどうしても「遊び」「おふざけ」のイメージが抜けないかもしれないが、絵文字は、世界中で少なくとも20億人以上が目にする可能性がある、しかも言語や文化に依らず交わされる「文字」となった。これはある種、国際補助語としての性質を持っているということを意味している。

Appleのアクティブデバイスは10億台、Androidのアクティブデバイスは20億台、Facebookの月間アクティブユーザー数は20億人であることから、少なく見積もっても20億人は、絵文字を読み書きできる環境にあるのだ。おそらく世界中で最も使用人口の多い文字、ということになるだろう。

故に、Appleが取り組んできたのは多様性だった。人や顔や手など肌の色が表現される絵文字については、バリエーションを増やした。また日本食に偏りすぎていた食べ物に関する絵文字も、次々に追加されていった。

文化に依らずと書いたばかりだが、実のところ、文化的な背景から生じた問題がある。ハンバーガーやビールの絵文字で論争が起こったのを覚えているだろうか。日本人からすると細かすぎて分からないかもしれないが、Android 8.0の絵文字では、下のバンズのすぐ上にチーズが置かれており、これは間違いである、という指摘から論争が始まった。

  • 米国人のソウルフード、チーズハンバーガーを作り直したGoogle(Image:Emojipedia)

また、同じAndroid 8.0のビールの絵文字は、ジョッキの中味が7割ほどで上に空間(英語ではroomと言う)があるにもかかわらず、ジョッキから泡があふれていて、これもおかしいという話になった。それ以前に、そもそもの話、日本の生ビールの注ぎ方で液体と泡の黄金比といわれているものは、米国では通用せず、店がビールをケチって泡でごまかしている、と思われてしまう。泡の概念がないから、Android 8.0の絵文字は泡の部分を空間にしてしまったんじゃないか、とすら思ってしまう。結局GoogleはAndroid 8.1で、ハンバーガーについては下からバンズ、パティ、チーズの順番に修正した。またビールについても、ジョッキの液体と泡の間にあった空間を、ちゃんとビールで満たした。

その他にも、パエリアの具材を巡って、Appleは修正を余儀なくされた。これは筆者も勘違いしていたが、伝統的なパエリア(paella)にはムール貝やエビなどは使わず、チキンで作るのだそうだ。食べ物のこととなると、ちょっとしたズレが問題を引き起こすということか。

アメリカでは世界中のたいていのものが食べられるが、お隣のメキシコ料理からブリトーが生み出されたり、和食として人気の高い寿司でもカリフォルニアロールが編み出されて逆輸入されたりするなど、誤解された状態で別なものが生み出されたりもする。こういった現象を良しとするか悪しとするかは於くとして。

という状況では、米国発の絵文字が、正しく文化を伝えていない状況で発信される可能性があるのは否定できない。そういう意味では、絵文字は、文化的に間違った認識を修正する場になっているとも言えるのだ。