桐光学園と昌平、試合を終えた勝者と敗者のコントラスト [写真]=川端暁彦

 世にも奇妙な物語なのか、本当にあった怖い話なのか、11時に始まった試合は、17時20分になってようやく閉幕を迎えた。原因は雷である。

 インターハイ準決勝、桐光学園と昌平の一戦が最初に中断したのは後半の13分だった。雷鳴と稲光を確認した主審の笛で、ゲームは一時中断となった。観客も体育館などへの避難を指示されて、選手はロッカールームへ引き上げる。もっとも、この時点では「すぐに再開になると思っていた」(桐光学園・鈴木勝大監督)というのが当事者の認識である。

 過去、サッカーの大会開催中の落雷に伴う不幸な事故と、それに対して大会運営サイドの責任を認めた判決があったこともあり、現在のスポーツ界では雷についてより厳しいガイドラインを定めて対応するようになっている。今回もそれに沿った形で、雷が過ぎるのを待つこととなった。当初、両チームから自然と出てきた指示は「ゆるめるな!」だったのも当然だった。

 ところが、この雷雲、なかなか過ぎてくれない。「僕も段々お腹が空いてきちゃって……」と鈴木監督が苦笑いとともに振り返ったように、11時キックオフという時間設定から昼飯前である選手たちにとっては難しい時間に。急に再開となる可能性もあったので、のんびり食事や昼寝というわけにもいかず、かといって何もしないというわけにもいかない。両チームの指導者はある種のジレンマの中に立たされることとなった。ゼリー飲料なら飲ませていいか? 体はどのくらい動かしておく? リラックスさせるにしても、どこまで……?

 これが仮に「16時再開です」と決まっていれば、そこに合わせて調整していけばいいのだが、完全に未定。ナイター開催や、四日市など近隣の市の会場へ移動しての開催すら検討される中でのカオス状態であり、両チームの首脳陣は「もうこれもいい経験だな!と」(鈴木監督)割り切るしかなかった。

 ロッカールームでは撮影したばかりの試合の映像を観たり、あるいはW杯のゴール集を流してみたり、リフティング遊びに興じてみたりと、それぞれの方法で時間を過ごした。普段はハーフタイムや試合前などに音楽を聴いて一人の世界に入り込むことを禁じている鈴木監督も、「今回はいいだろう」とこれを許可した。そのくらい何とも言いがたい状況だったわけだ。

 再開も突然だった。当初は16時15分に開催の判断を下すというアナウンスだったが、思いのほか早く雷雲が移動していたため、できるだけ早くキックオフできるように16時過ぎには両ベンチに再開の可能性を打診。ともにこれを受け入れたため、16時10分からウォーミングアップを開始し、16時半に再開するという急転直下の判断で、試合再開となった。

 十分な戦術的な準備と追う者の強みがあった昌平に対し、どうしても受け身にならざるを得ず、3-0というリードで単に攻めろというのも守れというのも難しい桐光。鈴木監督は「1失点は仕方ないと思っていた」とある程度割り切ってこの再開に臨み、昌平・藤島崇之監督はアクセルを踏み込んで選手たちを送り出した。

 昌平が早めに1点を返したことで試合のボルテージは自ずと高まっていったが、後半33分(ちなみに35分ハーフ)になったところでまたしても稲光が確認され、試合は中断に。「もう少しだけなんだからやっても……」という声も出たが、あくまで選手・観客の安全第一を考えたガイドラインに沿っての決断。ただ今回は短期間の中断で済み、試合は再開に。この再開にすべてを懸けた昌平の攻勢と、それをしのぐ桐光守備陣による気迫あふれる攻防は見応えがあったが、昌平の反撃は終了ホイッスルと同時に決まった一発のみ。結局、3-2のスコアで桐光が決勝進出を果たすこととなった。

 桐光の鈴木監督が「こういう天候に左右されるゲームを経験できたことは、選手にとって決してマイナスじゃないと思う。これもストーリーになる」と得難い経験を共有したことをポジティブに捉えていたことは印象的。個人的には、桐光のベンチ外選手たちによる応援団が、ロッカールームまで届けとばかりに中断期間に何度もチャントを歌い、再開前のウォーミングアップでも熱く励まし続けていたのが印象的で、こうした経験を共有したことも、チームにとって一つの財産となっていくかもしれない。

 雷に振り回された世にも奇妙な6時間は、こうして閉幕。桐光にとってはある種のドラマを過ごしたことになるが、体力的にダメージを負ったのも間違いない。13日に迎える山梨学院との決勝戦は、それを乗り越えるためにもう一つのドラマを作り上げる必要がある。

取材・文=川端暁彦