東京医科歯科大学は8月6日、稀な疾患である「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」患者のEBウイルスに感染したT細胞とNK細胞において、転写因子STAT3が恒常的に活性化していること、また、チロシンキナーゼJAKの阻害剤でその活性化を抑制するとそれらの細胞の生存とサイトカイン産生が抑制されることを発表した。

同成果は、同大大学院医歯学総合研究科先端血液検査学分野の新井文子 准教授の研究チームと国立成育医療研究センター高度感染症診断部の今留謙一 統括部長の共同研究によるもの。詳細は、国際科学誌「Oncotarget」に掲載された。

  • 研究結果の概要

    研究結果の概要。患者のT細胞やNK細胞内でSTAT3が活性化していること、JAKの阻害剤で活性化を抑制することが有効であることが分かった(出所:東京医科歯科大学Webサイト)

CAEBVは、発熱や肝障害などの炎症が持続し、かつEBウイルスに感染したT細胞、NK細胞が腫瘍化していく進行性の疾患。EBウイルスは、ほぼすべての成人が感染しているウイルスであり、通常はB細胞に潜伏感染するというが、なぜ一部のヒトではT細胞やNK細胞へ持続感染し、CAEBVの発症に至るのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

また、CAEBVは化学療法の効果が乏しく、根治には造血幹細胞移植が必要と考えられており、有効な治療薬の開発は喫緊の課題とされてきた。

研究では、CAEBVの細胞株とCAEBV患者の細胞を用いて、EBウイルスに感染したT細胞およびNK細胞ではSTAT3の恒常的活性化を認めることを確認したという。STAT3は一部の腫瘍細胞において、遺伝子異常によって恒常的活性化を起こすと報告されているが、今回解析したCAEBV患者の細胞ではSTAT3遺伝子に異常は認められなかった。

  • 実験結果の概要。

    実験結果の概要。活性化したSTAT3を持つ細胞を赤に、EBウイルスに感染した細胞を緑に染めた。青は細胞の核。CAEBV患者ではEBウイルスに感染した細胞が見られ、それらの細胞ではSTAT3が強く活性化していることが観察された。

加えて、STAT3はチロシンキナーゼJAKの作用によって活性化することが知られていることから、EBウイルスに感染したT細胞およびNK細胞にJAKの阻害剤を加える実験を行った。その結果、STAT3の活性化が抑制されるとともに、細胞が死にやすく、増えにくくなるという結果を得ただけでなく、炎症の原因物質であるサイトカインの産生が抑制されることを確認したという。

  • T細胞およびNK細胞にJAKの阻害剤を加えた結果。

    T細胞およびNK細胞にJAKの阻害剤を加えた結果。CAEBV患者細胞はJAK阻害剤処理によって細胞数が減り(A)、炎症性サイトカインであるインターフェロンγの産生が抑制されることが観察された(B)

これらの結果より、CAEBVの治療において、STAT3を抑制することで、炎症症状や腫瘍への進展が抑えられる可能性があり、治療薬開発への応用が期待できるとしている。今後研究チームは、この研究結果を用いた新規治療法開発のための臨床試験を計画しているとのことだ。