着物の着付け、寿司づくり体験、築地市場で食べ歩き、京町家で茶道を学ぶーー。これらは、Airbnbで人気を集めている「体験」サービスの一部だ。

7月31日、その「体験」サービスの一環として、建築家の隈研吾氏がホストとなり、同氏が設計を手掛ける新国立競技場、南青山のサニーヒルズ(微熱山丘)、さらには非公開の事務所内までをも”本人の解説付き”で見学できる、1日限りの特別ツアーが開催された。

隈 研吾氏。1954年、横浜市生まれ。1979年、東京大学工学部建築学科大学院修了。米コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所を主宰。2009年より、東京大学教授。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞受賞。同年「水/ガラス」でアメリカ建築家協会ベネディクタス賞受賞。2010年「根津美術館」で毎日芸術賞受賞。2011年「梼原・木橋ミュージアム」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『負ける建築』『つなぐ建築』、清野由美との共著に『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO』など

そもそもAirbnbの「体験」サービスは2016年11月にスタートしたもので、すでに日本の関東、関西、福岡、沖縄を含む世界800以上の都市で1万4000種類もの体験を提供している。特に、日本における体験イベントのゲスト数は多く、世界的にもトップクラスでの人気を誇るという。

隈氏は5人のゲストを事務所に招き入れ、簡単に自己紹介をしたのちに、新国立競技場についての説明を始めた。

建築家を目指すキッカケとなった、国立代々木競技場

「小学生のころ、丹下健三さんが設計した国立代々木競技場を見て感銘を受け、衝撃を受けた。そこから私は建築家を志すようになり、今回、新国立競技場の設計を手掛けることになったことは大変感慨深い」と隈氏は語る。

隈研吾建築都市設計事務所内で、隈氏自ら、国立代々木競技場から得たインスピレーション、新国立競技場に使われている素材や制作プロセスを説明する

「国立代々木競技場のプールに入ったときに見た景色を今でも覚えている」「学生のころ、よく競技場に入っていたサウナで汗を流していた」とかつての競技場での思い出を語る隈氏。5人のゲストは、普段聞くことのできない話に真剣に耳を傾け、時には質問をし、非常に近い距離で同氏と会話を楽しんでいる様子が印象的であった。

隈氏が新国立競技場への想いやデザインについて語ったのちに、事務所の見学を経て、一同は車で建設途中の新国立競技場へと移動。

建設途中の新国立競技場を前に、ゲストと談話する隈氏
建設途中の新国立競技場。隈氏は、レーザーポインターを使いながら、設計のポイントを説明した

拡大する「体験」サービス。隈氏とのコラボ企画も

Airbnbがこのようなイベントを行うのは、ローカルな体験を通して、その地の文化や魅力を多くの人に提供し、世界に発信するため。今回のイベントは1日限り、ゲストは5人という限られたものであったが、ほかにもさまざまな体験サービスがAirbnbサイト上で予約できる。

またイベント同日(7月31日)より、Airbnbはこれまで日本で、一部の地域(関東、関西、福岡、沖縄)でしか提供していなかった「体験」サービスを全地域に拡大することを発表。同時に、今回の特別ツアーに続く隈氏とのコラボレーション企画として、世界の建築関連の体験キュレーションページも公開した。日本では、同氏が高知県の梼原町で手掛けた建造物を巡る体験も公開された。

「音楽家による梼原町の隈研吾氏の建築物巡り」。隈研吾氏が手掛けた「雲の上のホテル」に集合した後、梼原町の中に点在する同氏の建築物を巡るという体験が出来る(画像は記事執筆時点のもの)。詳細はAirbnbのサイトより

(画像のサイトはこちらから)

新国立競技場の見学を終えると、ツアーの最終地点となる、隈氏が手掛けたサニーヒルズ(微熱山丘)南青山店へ。一同はお茶とケーキを味わいながら自由に会話を楽しんでいた。

サニーヒルズ南青山店は隈研吾氏によって手掛けられており、「地獄組み」と呼ばれる伝統的な組木格子を積み上げて作られている
建物内観。木の隙間から日の光が入り込み、ヒノキ独特の香りがする空間に、心が落ち着く

Airbnbで、その地ならではの「体験」を

体験終了後、Airbnbサイトを見ると「隈さんの普段のお仕事の様子や、新国立競技場にかける想いや、工夫されている点などのお話を聞くことができて、まさに唯一無二の体験でした」「新国立競技場の設計の根底にある隈さんのパーソナルな建築体験(代々木競技場)のお話が大変興味深かったです」などのコメントが記されており、それぞれが有意義な「体験」をした様子を見てとれた。

Airbnb=民泊の会社、というイメージは強いが、同社の事業は総じて「旅をもっと面白くする」ことに繋がっている。今回、「体験」の提供範囲が全国に拡大されたことによって、Airbnbサイト上でさまざまな旅行プランを考えられるようになった。

隈氏が自らの想いを語ったことによって、ゲストが新国立競技場やサニーヒルズを、より深く楽しめたように、一度見たことがあるものでも、ホストと話すことがキッカケとなって新たな視点が付与されることもあるだろう。今回のサービス範囲の拡大を機に、国内での旅行先を決める際には一度Airbnbで「体験」できるイベントを探してみるのもいいかもしれない。

(田中省伍)