イタリアなどの研究チームは2018年7月25日、火星の南極の地下に、液体の水が存在する証拠を発見したと発表した。論文は同日発行の論文誌「Science」に掲載された。

もし本当に液体の水が存在するなら、そこに生命が存在したり、資源として利用できたりといった可能性があり、その期待は大きい。

  • 火星の南極と氷

    火星の南極と、そこにある氷 (C) NASA/JPL/Malin Space Science Systems

火星の水をめぐる探査

火星に、いまも液体の水はあるのか? ――水は生命の存在の手がかりになるばかりか、人類が移住した場合の資源として使えることもあり、この問いは、火星探査における長年の大きなテーマのひとつである。

その発端は19世紀の後半にまで遡る。1877年、イタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリは、天体望遠鏡で火星の表面に溝のような地形があることを発見した。彼はそれをイタリア語で溝や水路を意味する「canali」と名付けたが、後に英訳された際、誤って人工的な運河を意味する「canal」とされたことで、火星に運河を造れるほどの知的生命体、つまり「火星人」がいるという誤解が生まれることになった。

米国の天文学者パーシヴァル・ローウェルはそれに触発され、世の中に火星人が存在することを喧伝し、さらには自ら天文台を設立して火星の観測に没頭するほどの入れ込みようだった。

その後の地上からの観測で、火星には少なくとも目で見える範囲では、水は存在しないことがわかった。やがて火星に探査機を送り、地表をより詳しく観測できるようになると、それはさらにはっきりとした。

しかし、本当に水は存在しないのか? あるいは過去には存在したのか? もしかしたら、地下にはいまなお存在するのではないか? といった疑問は残り、各国の探査機が探査や研究を熱心に続けている。

たとえば2004年、米国航空宇宙局(NASA)の火星探査車「オポチュニティ」は、ヘマタイトと呼ばれる、水がある場所で生成される鉱物を発見。火星に過去に液体の水が、海や湖といったまとまった形で存在した証拠だとされた。

2006年には、同じくNASAが、火星を周回する衛星が撮影した画像から、洪水が起きたと考えられる痕跡を見つけたと発表。2008年には、火星の北極付近に着陸したNASAの探査機「フェニックス」が、地表をロボット・アームですくったところ、白い物質が露出。さらにそれが数日後に消えたことから、この白い物質は氷で、大気に露出したことで蒸発したのだと考えられている。

2015年には、やはりNASAの探査機が、火星の地表にたびたび現れる黒っぽい筋模様の付近から過塩素酸塩と見られる物質を発見。これは火星に液体の水が存在する証拠であり、また黒っぽい筋模様はその水が流れた痕跡だとされている。

このほかにもいくつか、火星の水についての研究成果が発表されている。ただ、液体ではなく氷の状態の水であったり、水が流れたと考えられる跡だったり、あるいは過去に水があったことを示す痕跡だったりと、液体の水そのものを直接捉えた例はなかった。

  • 2008年にNASAの火星探査機「フェニックス」が撮影した火星の氷

    2008年にNASAの火星探査機「フェニックス」が撮影した、火星の氷(白い部分)。数日後に一部が消えたことから、この白い物質は氷で、大気に露出したことで蒸発したのだと考えられている (C) NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/Texas A&M University

火星の水とマーズ・エクスプレス

火星における水の謎を追求しているのはNASAだけではない。欧州宇宙機関(ESA)は2003年、欧州にとって初となる火星探査機「マーズ・エクスプレス」(Mars Express)を打ち上げ、同年末に火星をまわる軌道に投入した。

マーズ・エクスプレスはこれまでの約15年にわたる探査の中で、火星の南極付近に氷があることを発見し、さらに塵の層の下にも存在していることも発見している。一方でNASAと同様、凍っていない、液体の水は発見できていなかった。

  • マーズ・エクスプレスの想像図

    マーズ・エクスプレスの想像図 (C) ESA/ATG medialab; Mars: ESA/DLR/FU Berlin, CC BY-SA 3.0 IGO

しかし研究者らは、たとえば地下深くであれば、その上にある氷や岩石の圧力によって水の融点が低くなり、液体の状態で存在するかもしれないと考えていた。あるいは、水に塩分が含まれていれば融点がさらに下がり、氷点下の環境でも液体のままである可能性もあった。

そこで、イタリア国立宇宙物理学研究所の天文学者Roberto Orosei氏らからなる研究チームは、マーズ・エクスプレスに搭載されている「MARSIS」(マーシス)というレーダーを使い、火星の南極の地下を探査した。MARSISとはMars Advanced Radar for Subsurface and Ionosphere Soundingの略で、直訳すると「地下と電離圏探査のための火星の高度なレーダー」という意味になる。開発を主導したのはイタリア宇宙局だが、NASAのジェット推進研究所(JPL)も関与している。

MARSISは地表に向けてレーダーの電波を放ち、その電波が反射して返ってくるまでの時間や、力の強弱の変化から、地中の様子を探ることができる。そして、そのデータを分析したところ、火星の南極地域は、氷と塵が幾重にも積み重なってできていることが判明。その大きさは幅200km、深さ1.5kmにもわたるという。

そして、その堆積物の下に、幅20kmにわたってとくに明るいレーダー反射が見られた。研究チームはそのレーダーの信号を分析し、さらに堆積物の組成や、その場所の温度の推定などから、この部分は氷と水(おそらくは塩水)との境界面が映し出されたものであると推定している。

ちなみにMARSISのレーダー性能から考えて、こうした水のある場所を検出するためには、少なくとも水が数十cm以上の厚さをもっている必要があるため、それなりの深さもあるとみられている。

  • マーズ・エクスプレスの観測結果

    マーズ・エクスプレスの観測結果。左から、観測場所を示した図、レーダーで観測した記録、レーダーの観測結果となっている (C) Context map: NASA/Viking; THEMIS background: NASA/JPL-Caltech/Arizona State University; MARSIS data: ESA/NASA/JPL/ASI/Univ. Rome; R. Orosei et al 2018

Orosei氏は、「火星のこの地下にある奇妙な領域は、水や、水に富む堆積物と一致するレーダー特性をもっています。また、研究した場所はまだごくわずかです。まだ発見されていないだけで、今回のような地下水が他にもたくさんあるのではと考えるのは、とても興奮します」と語っている。

また、NASAもこの発表に対して声明を発表。チーフ・サイエンティストのジム・グリーン氏は「MARSISのデータに見られる明るい点は、珍しい特徴であり、とても興味深いものです。さらなる研究が必要です。このデータをどう解釈すべきかを判断するには、さらなる証拠を追求すべきです。将来的には、他の観測装置なども使って研究を行いたいと思います」と語っている。