複写機たち.PNG

 フォークリフトで搬入口に向かいながら、一台の複写機は今回の旅のことを考えていた。

 

 ある小学校の職員室が彼の5年間の仕事場であり、生徒の答案用紙やその日の連絡事項を毎日大量に作成した。休み時間になると多くの先生が彼の順番待ちをする。
 一年生向けは文字が大きく簡単なのに対し、六年生ともなると文字が小さく多くなりそれなりに大変だ。まして職員会議用の資料となるとトナーの減りも目に見えて早くなる。
 それでも、自分のおかげで子どもたちの知識が増えていくと思うと、彼はなんだか誇らしい気持ちになる。

 

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 気が付くと辺りには静けさが広がり、遠くで何か作業しているような音だけが微かに響いている。
 はじめての状況に加えてこの静けさが彼を不安にさせる。
 あたりを見渡すと彼と同じように全国を旅してきたのであろう、数百台の複写機たちが彼と同じように簡易包装された状態で規則正しく並んでいる。
 左隣の複写機は北海道まで旅をしてきたらしい。旧型で見た目もやや年季が入っているが、やはりどこか誇らしげだ。

 

「なぁ、知ってたか?」

 北海道の複写機が話しかけてくる。

「なんだい?」
「天井にたくさんのカメラが付いているのが見えるだろう?」
「あぁ、本当だ。気が付かなかったよ」
「あれで俺らがいる場所とその健康状態を把握しているんだ」

 彼は、健康状態などカメラなんかでわかるものなのだろうかと思った。それを察したのか、北海道の複写機が続ける。

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「俺の頭の上に試し刷りのような複数の色で出力された紙が貼られているだろう?ほら、お前の上にもあるやつだ」
「本当だ。いつの間に」
「この色パターンは、カラーコードといって俺らの内部の部品の状態を表している。このカラーコードを手掛かりに頭上のカメラでいつでも俺らの位置情報がわかり、部品ごとの再生可否情報などと併せて管理されているんだ」
「再生できるかどうかなんて、いつの間にチェックされたんだろう?」
「印刷枚数やトナーの使用状況、ファームウェアの更新や消耗部品のメンテナンス状況は逐一記録されてネットワークで管理されている。つまり、回収センターに持ち込まれた時点である程度の健康状態がわかっているんだ。いわゆるIoT(モノのインターネット)ってやつだな」

 次から次へとわく疑問に瞬時に答えてくれる隣人を、彼はすぐに好きになった。

「なるほど、すごいんだね。それで、僕たちはこれからどうなるんだい?」
「心配することはない。じきにわかるさ」

 

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 そこへ、ゆっくりとした足取りで自動運搬ロボットが近づいてきた。

「お待たせいたしました、作業エリアへお運びします」

 自動運搬ロボットが無機質に言う。

「わかった。僕がR2-D2のように自分で動けるようになるまではもうしばらく助けてもらうことになると思うよ。それで、何をするんだい?」
「状態が良ければ、診断、分解、清掃、組立、検査、仕上げ、梱包されたのち、新しいユーザーのもとへ出荷されます。診断の時に故障や摩耗が進んでいる部品については、新品もしくは他の先輩から引き継ぐことになります」
「いろいろ大変そうだけれど、きれいになって新天地で働けるなら楽しみだよ」
「はい。出荷される際は新品同様の品質となるのでご安心ください」

 

 遠くに聞こえていた作業音が次第に大きくなり、作業エリアに到着したことがわかった。
 周りには、作業に必要なのだろう。可動式の棚にたくさんの部品や工具が収められている。

 しばらくすると、作業員がやってきて彼の外側カバーを丁寧に外した。
 そして、電装基板やフレームなどの部品がひとつずつ分解されて仕分けされていく。

 さらに、内部から彼の記憶中枢であるハードウェアが取り出され、他の複写機のハードウェアと共にパソコンに接続された。

「さっきの倉庫で隣にいた複写機を覚えているだろう?」

 繋がれた先のコンピューターが話しかけてくる。

「彼の電装基板の1つがアップグレードされて君の一部になることが決まったそうだ」
「彼はどうなるんだい?」
「彼は君よりも老朽化が進んでいるから、部品の多くはリユースやリサイクルという形で古い複写機の再生や他の製品の材料として使われたりするんだ。鉄は建物の材料、プラスチックはうちわの柄になったりするらしいよ」

 彼は少し複雑な気持ちになり、もっと何か聞こうとするのだが、どう聞いたらよいかわからない。
 ファンを激しく回し始めたコンピューターはさらにこう言った。

「君はこれから記憶データを消去され、新しい製品になる」

「え、それって記憶が消えちゃうってことかい?それじゃあ、小学校で先生たちと一緒に働いた思い出も、時々訪ねてくれた子どもたちの笑顔も忘れてしまうのかい?」
「そうだよ」
「それじゃあ、どこかで新品の複写機と出会っても過去の思い出話を自慢することもできなくなる」
「まぁ、そうかもしれない。それでも子どもたちの成長に貢献したという事実は変わらないだろう?」
「......」
「それにだ。僕たちの身体を作っている資源は地球上には有限にしか存在しない。その有限な資源を繰り返し使うことで、君たちは何度でも生まれ変わっていくことができるんだ。だから再生機になることに誇りを持っていい」
「そんなものかな」

 

 この後、彼は丁寧に分解されて寿命が来た部品が新たな部品に交換される。そして、きれいに清掃されて検査を受けたのち、出荷されることになる。

 次の職場ではどんな出会いがあるのだろう。
 彼はまた次に目を覚ましたとき他の複写機からも部品を受け継いだ再生機であることを誇りに思うと心に刻み、そっと目を閉じた。

 


こんにちは、科学コミュニケーターの高知尾です。

今回は複写機の目線で株式会社リコーの工場内の様子をお伝えしました。

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物語の舞台は、富士山の麓、御殿場市に位置するリコー環境事業開発センター。2013年から閉鎖していた工場が2016年4月に環境関連事業の拠点として生まれ変わりました。
これまで12カ所にあったOA機器のリユース・リサイクルセンターを3つの拠点に集約する形でリユース・リサイクルの効率化を図り、同センターはその中心拠点として技術開発を主導しています。
ここでは回収した複写機を再生させるだけでなく、産学連携で新しい環境技術を創る「実証実験の場」と、活動を世の中に広く伝えるための「情報発信基地」の役目も担っています。

株式会社リコーは未来館のオフィシャルパートナーとして、科学コミュニケーションの活性化を推進、支援頂いています。今回はそのつながりから同センターの見学をさせていただきました。

複写機の多くはリースと言う形でユーザーと賃貸契約されます。そのため、ほとんどの複写機は使用後に回収センターに戻ってくることになります。
複写機には多くの部品が使われています。その数なんと、6000点以上だそうです。
これらの全ての部品にはそれぞれ個別の耐用年数があります。そのため一部が摩耗や故障で使えなくなっても、全てが一度にダメになるわけでは決してありません。そこで寿命を迎えた部品のみを使用可能なものに取り替えて、きれいに洗浄することで新品同様の再生機として生まれ変わることができるわけです。

このような製造モデルを「リマニュファクチュアリング」といいます。

そしてこれを支えるのが、リコーが1994年に提唱した下図の「コメットサークル」というコンセプトです。
回収された複写機のうちリユースできる製品は簡易清掃を行い丸ごとリユースし、部品単位でリユースできるものはできる限りリユースして再生品としてユーザーに届けます。リユースできない部品は「マテリアルリサイクル」と言って材料の状態に戻して新しい部品を作成します。それでも活用が困難なものは「サーマルリサイクル」で燃料としてエネルギーを取り出す形で有効利用します。
このモデルでは、なるべくユーザーに近いサイクルを回した方が環境負荷が低く、経済性も高くなることになります。

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持続可能な社会実現のためのコンセプト「コメットサークルTM」(リコーHPより)

ちなみに、コメットサークルとはコメット(彗星)が周期的に太陽の近くを通る楕円軌道を描くように、循環する製品のライフサイクルを表現しているそうです。

より効率よく、このサイクルを回すためには製品や部品の情報を常に管理できる状態が理想です。そこで、IoTなどの新技術を投じることで、リユースやリサイクルを効率的に行うことができ、利益もきちんと出すことができるようになるのです。

リコーでは複写機とプリンターを合わせて年間13万台を回収し、そのうち2万台を再生しているそうです。回収した複写機の99.7%以上が何らかの形で再資源化されており、最終処分に至るのはわずか0.3%です。

仕事や学習でお世話になることが多いコピー機やプリンター。こういった必需品に対して、資源の消費や廃棄物の発生を抑えられる選択肢が増えることは私たち消費者にとって重要なことです。

過去に誰かの生活を支えた製品やその一部が、今の自分の日々の生活で無くてはならない存在となり、そしてまた誰かのもとへと渡っていく。そんな長いストーリーの一部に自らも入っていく。その結果が地球環境を守ることにつながっていく。そう考えると、中古品やリユース品を使うという選択肢はより価値のあるものになるかもしれません。

今回の主人公は複写機でしたが、今みなさんの身の回りにある様々な製品で、うまく循環している例にはどんなものがあるでしょうか。

今、私がブログを書いているこのパソコンは?会議資料を印刷したA4用紙は?部屋を明るく照らす蛍光灯は?

製品人生はくるくるまわる。次は誰の人生を覗いてみたいですか? 

 


取材先:リコー環境事業開発センター



Author
執筆: 高知尾 理(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
宇宙では既知の元素や素粒子だけでは説明できない現象が観測されています。これを説明する「暗黒物質」の探索実験XMASSに携わっていました。以前から、「伝える」ということに関心があったことに加え、東日本大震災以降、科学コミュニケーションに強く関心をもったため、博士号取得を機に、2016年10月より未来館へ。