接客に使える実用的な翻訳機「ili PRO」登場

筆者は2017年12月、旅行での使用に特化した翻訳デバイス「ili」の体験レポートを小誌で報告した(「インターネット不要のウェアラブル翻訳デバイス「ili」を韓国で使ってみた」)。現地で使ってみた感想は「かなり実用的なデバイスだ」というものだった。しかし、この記事を読んでiliを『旅行』ではなく『接客』に利用できないかと考えた人も少なからずいたようだ。

海外からの旅行者を受け入れることが多い小売業やサービス業では、旅行者が利用している言語(主に英語、中国語、韓国語など)への対応が急務になりつつある。簡単な単語のやりとりで解決すればよいが、話が込み入ってくると途端に対応が難しくなるというのが多くの現場の実情だ。

英語や中国語、韓国語など、訪日外国人が利用することが多い言語がわかる従業員を雇用するとなると、人件費が跳ね上がることになる。かといって、外国語の習得を個人の努力に依存するのも無理がある。こうした問題に直面している経営者にとって、iliの登場は問題を解決する一助として魅力的に映ったようだ。

iliを開発および販売しているログバーは27月31日、接客向けに開発されたオフライン翻訳デバイス「ili PRO」を発表するとともに、ili PROにカスタマイズサービスと電話通訳サービスを同梱した多言語支援サービス「iliインバウンド」を発表した。iliを接客で利用したいという要望が多かったことが、こうしたデバイスおよびサービスの開発につながったとしている。

  • ili PRO - 資料: 提供
  • ili PRO - 資料: 提供

    ili PRO

iliとili PROのデバイスはほとんど差がない。筐体の表面加工が多少変わった程度で、構成するデバイスやチップは共通だ。iliとili PROの違いは中に搭載されているソフトウェアおよび翻訳エンジンにある。iliとili PROの用途は似ているが、使われる方向性が異なっている。iliは旅行者が店舗に対して使うことを想定したデバイスである一方、ili PROは店舗が外国の旅行者に対して使うことを想定したデバイスだ。

第2世代オフライン翻訳エンジン「STREAM 2」

iliの特徴を簡単にまとめると次のようになる。

  • インターネット不要の「オフライン」で利用できる
  • ボタンは1つで利用が簡単
  • 一方向での翻訳で利用

iliの特徴は以前の記事を参考にしていただければと思うが、最大の特徴はインターネットが不要という点にある。翻訳に必要になるエンジンがすべてデバイスに入っており、素早く利用できる。実際に利用してみるとインターネット接続を必要とする翻訳ソフトウェアとの違いは明確だ。

ili PROもこの点は踏襲している。オフラインで利用できることにこだわっている。これを実現するのが、新たに開発された第2世代のオフライン翻訳エンジン「STREAM 2」となる。

  • 第二世代オフライン翻訳エンジン「STREAM 2」 - 資料: 提供

    第2世代オフライン翻訳エンジン「STREAM 2」

iliに搭載されている第1世代のオフライン翻訳エンジンSTREAMは「旅行」での利用に特化した学習が実施されている。STREAM 2では一般会話全体を網羅した上で接客に関するデータを学習させている点が異なる。接客ではより広い一般的な会話が必要になるとされているためだ。

この新たな翻訳エンジンは情報通信研究機構(NICT; National Institute of Information and Communications Technology)と共同開発されたものであり、ニューラル機械翻訳(NMT)をオフラインで実現しているという点が最大の特徴だ。

単語やフレーズ登録が可能

「iliインバウンド」においてili PROを利用する場合、単語やフレーズの登録、地域に特化した辞書の追加などを実施する「iliクラウド」というWebサービスを利用できる。このサービスがili PRO最大の特徴といってもよい。単語登録やよく利用するフレーズの登録、地域に特化した辞書の追加などはユーザーから見れば当然欲しい機能だが、ニューラル機械翻訳システムでこの機能を実装するのはかなり難しいところがある。

  • iliクラウド - 資料: 提供

    iliクラウド

iliクラウドでは、Webインタフェースを通じて単語やフレーズの登録を依頼すると、クラウド側でエンジンの学習が行われる。すなわち、学習を最初からやり直して学習データをまるごと作り直すわけだ。この作業には2時間ほどかかる。データも1GBといったサイズになるため、ダウンロードしてデバイスに書き込むのには10分ほど必要になる。

こうした機能を提供しているのは、ili PROをあくまでも「オフラインで利用する」という目的を果たすためだ。

  • ログバー代表取締役CEO 吉田卓郎氏 - 資料: 提供

    ログバー代表取締役CEO 吉田卓郎氏

1つの単語を追加するのに2時間もかかるのかと思うかもしれないが、学習においては単語を1つ追加するのも100個追加するのもほとんど変わらない。結局再度すべて学習し直すことになるのでかかる時間はほとんど同じだ。むしろ2時間程度で学習が終わるようにしてあるところがポイントと言える。

iliもili PROも実用性を重視して一方向での翻訳となるが、2台利用すると相互に翻訳した結果を相手に伝えることもできる。接客であれば店舗側で1台、話をしたい旅行者に1台渡せばその場で相互に翻訳したメッセージのやり取りが可能になる。

今のところili PROは事業者向けのサービス「iliインバウンド」の枠組みで提供されている。iliインバウンドはライトプラン、ベーシックプラン、プレミアムプランというコースが用意されており、ライトプランは月額2980円、ベーシックプランは月額5980円で提供されている。