順天堂大学は、同大の研究グループが、骨髄増殖性腫瘍患者において見出されたCALR遺伝子変異によって血液細胞ががん化して増殖する分子メカニズムを明らかにし、そのメカニズムを標的とした創薬の可能性を示したことを発表した。これにより、これまで根本的な治療法がなかった骨髄増殖性腫瘍に対し、効果的な治療薬の開発が見込まれる。

この研究成果は、順天堂大学大学院医学研究科・血液内科学の小松則夫教授、 輸血・幹細胞制御学の荒木真理人准教授らによるもので、英国科学雑誌ネイチャー系列誌の「Leukemia」誌のオンライン版(6月26日付)で公開された。

  • この研究で明らかになった変異型CALR蛋白質の多量体化とその意義

    この研究で明らかになった変異型CALR蛋白質の多量体化とその意義(出所:順天堂大ニュースリリース)

国内で年間約1400人が新たに発症するフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍(以下、骨髄増殖性腫瘍)は、多分化能を有する血球前駆細胞の体細胞変異によって引き起こされる「血液のがん」である。ほとんどの症例において、サイトカインシグナル伝達に関わるJAK2やMPL遺伝子、あるいは分子シャペロンであるCALR遺伝子のいずれかに遺伝子変異が見いだされる。

小松教授らの研究グループは、変異したCALR遺伝子から作られる変異型CALR蛋白質が、サイトカイン受容体であるMPLに結合し、 受容体を恒常的に活性化させることで、血液細胞に増殖性のシグナルを伝えていることをこれまでの研究で明らかにしてきた。その際、変異型CALR蛋白質では野生型CALR蛋白質に存在しない立体構造ができることで、MPLと強く結合している可能性を明らかにしたが、その構造を生じさせるメカニズムについてはまったく分かっていなかった。そこで研究グループは、野生型と変異型のCALR蛋白質の構造の変化について検討を行い、その変化を生み出す分子メカニズムを調べた。

研究グループは、多くのサイトカイン受容体が活性化する際、ふたつの受容体分子が集まるという点に着目し、変異型CALR蛋白質においても複数の分子が集合して機能する可能性について調べた。その結果、(1)野生型CALR蛋白質と異なり、変異型CALR蛋白質が大きな分子として存在すること、(2)変異型CALR蛋白質がお互いに結合して多量体になることで大きな分子を形成していること、(3)変異型CALR蛋白質同士の結合が、変異型CALR蛋白質にだけ存在する配列によって担われていること——を明らかにした。

これにより、以前に明らかとなったMPLとの結合に必要な変異型CALR蛋白質の構造変化が、複数の変異型CALR蛋白質同士の結合により引き起こされていることが判明した。 次に研究グループは、変異型CALR蛋白質の多量体化を防ぐことにより、がん化シグナルを抑えることができるのではないかと考え、変異型CALR蛋白質同士の結合部位に競合して結合する蛋白質を大量に発現させることにより、変異型CALR蛋白質同士の結合を阻害して多量体化を防いだところ、 がん化に必要なMPLの活性化の減弱が確認できた。以上の結果は、変異型CALR蛋白質同士の結合を効率的に阻害する物質が、CALR遺伝子変異により発症した骨髄増殖性腫瘍の治療に有効であることを示している。

  • この研究で提示した変異型CALR蛋白質の多量体化を標的とした治療戦略の可能性

    この研究で提示した変異型CALR蛋白質の多量体化を標的とした治療戦略の可能性(出所:順天堂大ニュースリリース)

骨髄増殖性腫瘍の予後は一般には良好であるが、 生涯、加療を続ける必要があるうえ、高頻度で急性白血病を発症する骨髄線維症と呼ばれる予後不良の疾患へ移行する症例や、初診時から骨髄線維症を発症することがあり課題になっている。 さらに、骨髄増殖性腫瘍の治療は、大きなリスクを伴う造血幹細胞移植以外に、現在使用されているJAK2阻害剤を含む薬物での完治は期待できない。今回、変異型CALR蛋白質の多量体化を阻害することでがん化シグナルを減弱させることに成功したため、研究グループは今後、変異型CALR蛋白質の多量体化を阻止する新規薬物を開発し、治療薬としての可能性を追求していく予定だとしている。