ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは6月26日、「ANSYS 19.1」にて追加された、積層造形(AM:Additive Manufacturing)向けのシミュレーションツールについての説明会をプレス向けに実施した。

一般技術者向けと解析専任者向けの2システム

説明されたのは、一般技術者向けの「ANSYS Additive Print」と解析専任者向けの「ANSYS Additive Suite」の2つ。

これらのシミュレーションツールは、金属3Dプリント方式の1つである「パウダーベッド方式(Powder bed fusion)」と呼ばれる、粉末状の金属材料に熱源を照射して、溶融・凝固、焼結して造形するプリント方式を解析対象とするもの。

  • 積層造形用シミュレーションツール「ANSYS Additive Print」「ANSYS Additive Suite」

    今回説明がなされた、積層造形用シミュレーションツールの「ANSYS Additive Print」および「ANSYS Additive Suite」の概要

Additive Printは一般技術者向けのシステムで、同社が2017年11月15日に買収を発表した3DSIMのシステムをベースとするもの。同システムはクラウドサービスとして提供されていたが、今回、新たにデスクトップ仕様のものもあわせて提供されることとなった。

同システムの特徴は、製品の研究や開発工程においてコンピュータ上の試作品を用いてシミュレーションし分析する技術(CAE:computer aided engineering)に明るいエンジニアでなくとも、3Dプリンタの機械に対する知識さえあれば使用できる点であるという。

例えばある部品を、Additive Printを用いて設計する場合を考える。3Dプリンタを用いて部品を製造する場合、熱応力によって材料が膨張し、設計データとは異なる形で部品が出力されてしまうことがある。その場合にユーザーはAdditive Printを用いてシミュレーションすることで、目的に応じた形状を保つための設計形状のサジェストを得ることができ、実際に失敗作を出力する前に、熱応力を考慮した設計データをつくることができる。

  • Additive Printを用いた設計データの作成例。画像左(Original Geometry)の左列が元の設計データ。このデータをもとにAdditive Print上でシミュレーションすることで得られた結果をもとに設計データを編集したものが、画像右(Compensated Geometry)の左列のデータだ。熱応力による材料の膨張を考慮し、少々形状が変化していることが見てとれる。修正した設計データをもとに3Dプリンタで出力した部品が右端の写真。もともとの設計データ(画像左端)と同様の形で出力されていることがわかる

一方のANSYS Aditive Suiteは解析専任者向けのシステムとなる。Additive Printと比較すると、トポロジー最適化(位相最適化)が可能なことに加え、応力ひずみや残留応力の計算など、多彩な解析機能を有することが特徴だ。同システムは「ANSYS Mechanical」ライセンスのアドオンとして提供されることとなる。

  • Additive Suiteの適用例。Additive Printと比べて、トポロジー最適化が出来ることや、応力ひずみや部品の残留応力なども調査できることが特徴

そのため、Additive Printを新規導入するユーザーはAdditive Printライセンスを購入するだけでよいのに対して、Additive Suiteを導入するユーザーは、ANSYS MechanicalライセンスとあわせてAdditive Suiteライセンスを購入する必要がある(ANSYS Mechanicalライセンスを有しているユーザーはアドオンのみ追加で購入可能)。

また、Additive SuiteにはAddidtive Printも内包されているため、用途に応じて2つのシステムを使い分けることが出来る。

狙いは、拡大する3Dプリンタ市場

ANSYSが今回これらのシステムを追加するに至った理由として、金属3Dプリンタ市場の拡大が挙げられる。

調査会社によれば、金属3Dプリンタの世界市場は今後成長を続けていくことが予測されており、その市場規模は2017年の622億円(見込み)に対し、2022年には1565億円にまで成長するといわれている。

実際に、従来の金型プレスや切削加工などではつくれなかったような複雑な形状をした部品であっても、3Dプリンタでつくれる可能性が増えてきている。そのため、従来より唱えられてはいたが、あまり日の目を浴びてこなかったトポロジー最適化にも対応することができるようになり、これまで机上の空論だった構造を実現できるようになった。

  • 3Dプリンタによる金属成形によって、複雑形状の部品製造が可能になったほかにも、従来よりも部品数を削減できる、設計時の制約を比較的受けない、金型が必要ない、などの利点がある

この分野はまだまだ成長市場であるために、まだまだ3Dプリンタそのものも高価で導入コストがかかってしまうほか、従来法(金型プレス、切削加工など)と比較して部品の信頼性が低い、大量生産に不向き……などといった課題が残されているものの、今後の技術の発展によって問題が少しずつ解消されていけば、利用企業は増えていくことだろう。

また、これらのツールは次回以降のアップデートでさらに機能が追加実装されていくとのこと。次回のアップデートでどのような機能が追加されるのかを期待して待ちたい。

なお同社は、これらのシミュレーションツールのリリースを記念し、サイバネットシステムと合同で、7月4日(東京)および7月5日(名古屋)に「Additive Manufacturingのためのシミュレーション活用セミナー」と題したイベントを開催する予定だとしている。