2017年から、東京国際フォーラムで年1回開催されている音と映像のイベント「OTOTEN」。そのルーツは1952年に初開催の「全日本オーディオフェア」という、日本の音響/映像機器メーカーが集う一大イベントです。6月17日と18日の2日間に実施された今年のOTOTEN、そこで見つけた気になる音関連の新製品・新技術をレポートします。

  • 音と映像のイベント「OTOTEN」レポート

    東京国際フォーラムで開催された、音と映像のイベント「OTOTEN」

富士フイルム「φ」

音楽鑑賞用スピーカーといえば、ボイスコイルに流れる電流と磁石の間に生まれる力(電磁力)を利用した「ダイナミック型」を連想しがちですが、フィルム状の薄い振動板と電極の間に高電圧をかけて振動させる「コンデンサー型」など、異なる方式のスピーカーも存在します。

今回のOTOTENで初お目見えとなった「φ(ファイ)」は、磁石やコイルを使わずフィルムを電気信号で振動させる「B.E.A.T.」を振動板に採用した、新しいタイプのスピーカーです。なぜ写真の会社が? と思う人もいることでしょうが、B.E.A.T.が圧電セラミックスの微粒子と粘弾性ポリマーを複合化したフィルム状の振動板であり、同社が写真フィルムで培った塗布技術や材料設計技術が生かされていると聞けば納得です。

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    富士フイルムの写真フィルムで培った技術を生かしたスピーカー「φ」

事前情報をもとに想像したB.E.A.T.の音は、「優れたトランジェント(音の立ち上がり/立ち下り)特性」と「クリアネス」です。B.E.A.T.を4面に配した柱状スピーカーということで、360度に音を放射する構造のため、自然な音の広がりも期待していました。

実際に富士フイルムブースで聴いた音は……確かに、音の輪郭と余韻の消え際が自然な印象で、付帯音が気になりません。簡潔にいえば、スピーディーで鈍さのない音、となるでしょうか。音場の自然さは予想以上で、立体感も感じられます。

低域はアクティブサブウーファー(ECLIPSE TD725SWMK2)で補完しているため、量感不足はそれほど感じませんでしたが、逆にいうと低域の再生能力向上が今後の課題といえるでしょう。今回は技術発表ということで、今後どのような形で製品化されるかに注目したいと思います。

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    ネットの奥に見える薄いフィルム「B.E.A.T.」を振動させて音を出します

ヤマハ「SURROUND:AI」

ヤマハブースでは、新サラウンド技術「SURROUND:AI(サラウンド・エーアイ)」を搭載した、次世代AVアンプの最上位機「RX-A3080」のデモを実施していました。ヤマハのAVアンプといえば、DSPを利用した独自の音場創生技術「CINEMA-DSP」や、ここ数年ではDOLBY ATMOSなどオブジェクトオーディオとの重ね掛けが人気を集めていました。さらに、映画のサウンドをリアルタイム解析し、最適な音場を創り出す機能が追加されるというわけです。

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    AI技術で適切な音場を創り出す「SURROUND:AI」搭載AVアンプが登場しました(写真はRX-A3080)

SURROUND:AIのポイントは、機能をオンにしておくだけで適切な音場を創り出してくれることです。サラウンド再生では、「映画」や「ライブハウス」などといったサウンドモードを、再生開始前にユーザーが選ぶことが一般的ですが、SURROUND:AIをオンにするとAVアンプが自動で判断してくれます。モード選択が適切かどうか、スムーズかどうかが、デモ視聴のチェックポイントといえるでしょう。

デモでは、『ブレードランナー 2049』や『スター・ウォーズ Episode 8』を視聴しましたが、シーンが切り替わるたびに音場が変化することを実感できます。

ブレードランナーでは、ゴミ捨て場と化したサンディエゴにスピナーで不時着するシーンで、車内と外の空間表現の切り替えがスムーズに感じられました。閉鎖的な空間と開放的な空間では、音場が一変しますからね。スター・ウォーズでも、惑星表面と宇宙船内の切り替えが自然でした。ヤマハのSURROUND:AI、ホームシアターファンには要注目の新技術といえそうです。

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    付属のリモコンにも「AI」ボタンが追加されています