かつて、PCメーカー各社が、コスト競争力を持つ海外生産へと舵を切るなかでも、富士通は、島根富士通において国内生産を維持しつづけた。それを維持できたのは、コスト競争力に十分に対抗できる品質力やデリバリー力、そして、様々な要求仕様にも柔軟に対応できるカスタマイズ力を持っていたことだった。

  • 島根富士通の生産ライン

生命保険会社向けタブレットでは、国内で74%という圧倒的なシェアを誇り、文教分野では小中学生向けタブレットで66%というシェアを持つが、これらは、それぞれの企業や現場の要求に応じた製品を開発し、それを高い品質で生産し、短期間にデリバリーできる島根富士通の存在があったからだ。実際、島根富士通で生産するノートPCやタブレットのうち、現在でも約4割がカスタマイズに対応した製品だという。

これは、レノボ傘下でも変わらないと神門社長は断言する。そして、「むしろ、レノボ傘下に入ったことが、新たなものに挑戦できるチャンスだと捉え、このモノづくりの強さを、PC以外のところにも広げていきたい」とする。

だが、「新たなことに挑戦できる」という前向きな言葉は、裏を返せば、新たなことに挑戦しなければ生き残れないという意味とも受け取れる。

島根富士通は、これまでにも新たなことに挑戦してきた経緯がある。

富士通のコミュニケーションロボット「ロボピン」は、島根富士通で生産されているほか、医療分野での利用を想定したハンズフリー型LEDライトの生産も行っている。このほかにも、公表はされていないが、島根富士通の自主ビジネスとして、様々なデバイスの生産も行っている。

そして、試験導入が開始されている教育分野向けの「MIB」や、製品化を急いでいるエッジコンピュータの「Infini-Brain」も、島根富士通で生産されることになりそうだ。

こうしたPCやタブレット以外にも生産できるモノづくりの蓄積が、島根富士通の強みにつながる。山根淳執行役員も、「我々にはまだまだやれることがある」とし、PCやタブレット以外のモノづくりにも積極的に乗り出す姿勢を強調する。

AIを活用した「スマートものづくりセンター」開設

島根富士通では、2020年度までに、自主ビジネスを中心とした新たなモノづくりで、売上高の10%以上を占める目標を掲げている。その一方で、モノづくりの現場でも新たな挑戦を開始した。

2018年4月からスタートしたスマートものづくりセンターは、それを象徴する取り組みのひとつだ。

スマートものづくりセンターは、生産技術部、ITシステム技術部、技術営業部などの精鋭6人でスタート。設備をネットワークでつないだデータ活用による新たなモノづくりを進めるほか、IoTやAI、ロボティクスなどの新たな技術の活用も視野に入れる。

これまでにもデータを活用した見える化には取り組んできたが、それをさらに一歩進めることで、データを活用したデジタルものづくりと、人と機械の協調生産の実現を図る。

「年率10%以上の効率化は可能。だが、これを20%以上の効率化改善につなげるための仕掛けが必要。それをリードするのがスマートものづくりセンターになる」と、神門社長は語る。

すでに、AIを活用した外観検査装置や、デジタルデータを活用した部品のピッキング導線の可視化、画像認識による部品情報の自動トラッキング、画像を活用した現場作業の品質向上および生産性向上への取り組みなどを開始している。いずれもデータを活用した新たな生産の仕組みだ。

Windows 7延長サポート終了、特需を見込んだ体制に

また、足元では、2020年1月のWindows 7の延長サポートの終了に向けた特需が始まろうとしており、現在、21本目となる生産ラインを構築中だ。年度内には、さらに生産ラインをもう一本増設し、22本体制とすることで、Windows XPの延長サポート終了時に近い体制に拡大する。さらに、「フレキシブルライン」と呼ぶモジュール型の生産ラインを、2018年4月から導入。機種にあわせて、自動化した工程を柔軟に組み込むことができるようにした。

  • 拡大が進む島根富士通の生産ライン

Windows XPの延長サポート終了時と比べて人材の確保が難しくなっているという。それでも増産に対応できる体制づくりが求められている。そこに、島根富士通の知恵やノウハウ、そして、新たな取り組みが生かされることになる。

2020年以降にPC需要が低迷する予想されており、いまのままでは、同じレノボ傘下にあるNECパーソナルコンピュータの米沢事業場や、レノボ・ジャパンのPC生産を委託しているEMSとの過剰生産体制も課題になってくるだろう。そのときに、どれだけ特徴を生かしたモノづくりができるかが問われることになる。

2020年に設立30周年を迎える島根富士通は、そこから先を見据えた挑戦をすでに開始しているともいえる。

「これから10年を経過したら、島根富士通は、PCの工場ではなく、違うものが主力となっているかもしれない」と神門社長は語る。

だが、新たなデバイスでも特徴を発揮し、これからも日本で生産を続ける必要性を証明しつづけることができれば、レノボ傘下の新生FCCLのなかにおいても、島根富士通は生き残り続けることになるだろう。