手術シーンで実践した知られざる技

――撮影を振り返って、ご自身のお気に入りのシーンはなんですか?

どの話も愛着があるので、本当に全部好きなんですけど、あえて挙げるのならば、「スーパードクター編」(第5話)でドクター、ダニエル・ヨーに扮したときですね。劇中でカラコンを入れさせていただいて、人生初のコンタクトを目に入れるという個人的に相当な戦いがあったんですけど、あんまりその苦労が伝わらなかったみたいで、発案者の監督に「あ、入れてたんだ」って言われて(笑)。医療モノで手術のシーンも初体験ですごく勉強になったし、あの手術セットは『コード・ブルー』から拝借したもので、いろんなものが新鮮な場でしたね。

――手術中、五十嵐は血が苦手で倒れてしまいましたよね。

実はあのシーンで、結構難しいことをしていたんですよ。手術中なので衛生上の理由で手を腰から下に降ろせないという医療指導がありまして、その状態のまま後ろに倒れて、その後に演劇的な体の使い方で手を使わないで起き上がってるんです。

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【ここで実践】まず、上体は腹筋で持ち上げ、足はあぐらのように引き寄せ重心を股関節に持ってきて、そのままあぐらの足を上方向にほどくイメージで上体をひねりながら回転の力で立ち上がるという技術なんですけど、放送を見たら全然映ってなかった(笑)。しかもあの時、東出くんが「五十嵐起きろ!しっかりしろ!」って言いながら2発くらい平手打ちするんですけど、それがものすごい破壊力で(笑)。本当に気絶した人を起こすテンションでバチコーンって100%の力でしてくださったんですが、それもほぼ映ってなかった(笑)

――そんな苦労が…(笑)

でも、僕は舞台畑が長い人間なので、わりとカメラが何を撮っているのか分かってないまま芝居を続けちゃうことが多いんです。舞台では、カメラワークの“寄り”ショットなんてなくて、お客様は舞台全体が見える中で見たいものを選んでフォーカスしますから、映ってないので休めるということが一切ない世界。だから、今回の現場でも、とにかく常に何か細かくお芝居を続けるしかなかったんですが、ドラマの場合は見る見ないの取捨選択が監督にあるって最近気づきました(笑)

――五十嵐の登場シーンって、一言発するとボクちゃん(東出)が「いたのか五十嵐!」と気づくパターンじゃないですか。撮影のときは、実際に存在を消してその場にスタンバイしている時もあったんですか?

ありました(笑)。柱の裏で、できるだけ見えないように隠れていたりしてましたね。あと存在を消しつつも、意外とこっそりいろんなもの食ってましたね。

「五十嵐スピンオフ構想」をぶち上げる

――副音声「五十嵐のスウィートルーム」は、まるでラジオ番組のように楽しくやられていますよね。

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本編にほとんど触れないで大丈夫かなぁって、いまだに自問自答が続いてるんですけど、そのわりには収録が始まってしまうと止められない暴走機関車みたいなところがありまして…。我ながらひどいなと思いますよ(笑)

――でも、主音声で本編を見て、その後に副音声と、2回見ている視聴者も多いと思います。

そのことを知ってしまったゆえに、このスタイルでいいかな…みたいな(笑)。でも、ドラマの裏話をさせていただく機会はなかなかないので、それが自分でできるのもやっぱりうれしいし、楽しいですよね

――副音声のゲストに来た脚本の古沢良太さんに「小手さんのおかげで、五十嵐がより面白くなった」と言われていましたが、そんなコメントも副音声があってからこそ聞けたことですよね。

そうですね。古沢さんにしても、主題歌のOfficial髭男dismさんにしても、劇中曲のfox capture planさんにしても、なかなか現場でお会いしないような方たちを交えて裏話を聞けるのは、すごく貴重な体験だし、撮影時の熱量みたいなものを思い返せるのはすごく楽しいですし、そういう意味ではまだ撮影中のテンションみたいな気持ちで副音声のスタジオに通ってます。

――第8話の副音声では、五十嵐のスピンオフ構想も飛び出しましたね。

そういうことを言葉で発していくことによって、現実化を呼び込むみたいな(笑)。僕は奥手なほうで、人の目を見て話すのも苦手な小心者なんですけど、五十嵐というフィルターを通すことによって、常にごっつぁんゴールを狙ってる悪いフォワードになれたりするんですよ。我ながらまぁ押しが強い強い。

――しかし、五十嵐のフィルターを使ってるのに、本編に触れないという(笑)

もぉフィルターがポンコツなのか、副音声によって何か新たな自分が開発されてしまったのかもしれないですね(笑)