ボーナスの一部を住宅ローンの繰り上げ返済に回そう、そう考えている家庭も少なくないでしょう。マイナス金利政策以降、住宅ローン金利は史上最低金利レベル。それ以前に借りたケースでも、低金利の恩恵を受け、利息の支払いは、かなり抑えられています。そうした状況のなかでも、繰り上げ返済をすべきなのでしょうか。

◆早期の繰り上げ返済は効果があるが、タイミングは今じゃない?
2016年に日銀がマイナス金利政策を導入して以降、住宅ローン金利は、史上最低レベルの金利で推移しています。それ以降に住宅ローンを借りた人は、マイナス金利の恩恵を受けています。また、借り換えを実行して、金利負担を減らした人も少なくないでしょう。それでも、多くの借金を抱えて30年、35年と返済が続くわけですから、ボーナスなどまとまった収入があったときには、繰り上げ返済をして、少しでも、早く完済したい、と考えることでしょう。

しかし、低金利の住宅ローンであれば、利息負担は、かなり抑えられ、元利均等返済であれば毎月の返済額のうち、利息に回される分が減り、元金の返済分が増えているわけです。こうした状況を考えると、何がなんでも、繰り上げ返済を優先する、というのは拙速です。順番に説明していきましょう。

繰り上げ返済は、下のイメージ図にあるように、繰り上げた資金は、元金部分に充当されます。そのため、ローン残高を一気に減らすことができ、利息相当分を節約でき、返済回数も短縮することができます。期間短縮型の繰り上げ返済のほか、返済額軽減型(繰り上げ返済資金を元金に充当するのは同じだが、返済期間は短縮させず、毎月の返済額を減額させる方法)がありますが、利息軽減効果は、期間短縮型のほうが高く、また、早期に返済を終えられるので、多くの場合、期間短縮型の繰り上げ返済を選択しているでしょう。

繰り上げ返済の仕組み(期間短縮型)

元利均等返済の場合、毎月の返済額は返済終了まで毎回同額ですが、毎回、元金と利息の額が変わり、返済当初ほど利息分が多く、残高が減るにしたがって、利息が減っていく形になっています。つまり、繰り上げ返済をするなら、返済早期のほうが、利息の軽減効果が高く、より早く完済できる、というわけです。

住宅ローン金利の低下で、どれだけ恩恵を受けているか、試算してみましょう。

●2000万円を35年返済、元利均等、毎月返済のみで借り入れた場合
1.2017年4月借り入れ
―金利:1.12%
―毎月返済額:5万7582円
―うち、元金分:3万8916円
―うち、利息分:1万8666円

2.2015年4月借り入れ
―金利:1.54%
―毎月返済額:6万1629円
―うち、元金分:3万5963円
―うち、利息分:2万5666円

3年前は0.4%程度、金利が高かったのです(フラット35、返済期間21年以上35年以下、融資額9割以下の場合)。同じ2000万円でも毎月返済額は約4000円高く、元金に回される分は現在より少なく、利息分が約7000円多かったことになります。低金利によって利息負担がそもそも減っている、というのが今の状況なのです。

◆1年後、5年後の繰り上げ返済でも、それほど効果は変わらない
それでは、繰り上げ返済はしなくていいのか、となると話は違ってきます。住宅ローンの完済が定年退職後も続くことがわかっていれば、できるだけ早く完済したい、というのは間違いではありません。しかし、今、すぐにでも、繰り上げ返済をすべきか、となると、そんなに慌てなくてもいいかもしれません。2000万円を借り入れ、いつ繰り上げ返済するかで、どのぐらい効果があるのか、試算してみましょう。

繰り上げ返済時期による効果の違い

返済開始から約1年たち、もしも、今ボーナスを活用して、7月に100万円を繰り上げ返済すると、利息軽減は約44万円で、返済期間は2年1カ月短縮できます。今、一般的な定期預金に100万円を1年預けても、利息はわずか100円(税引き前)。それであれば、100万円を有効に使ったほうが得策、とも言えます。

しかし、1年後に繰り上げ返済をすることにしたら、どうでしょうか。利息軽減効果は約43万円でわずかながら減りますが、返済短縮期間は24回、2年の短縮で、今すぐ繰り上げ返済したときの効果とそれほどの違いはありません。さらに5年後ではどうでしょうか。利息軽減は約36万円、返済短縮期間は23回です。

確かに、早い時期に繰り上げ返済をしたほうが、利息軽減効果は高くなりますが、それほど気にする金額ではありません。返済短縮期間も、ほぼ違いはありません。そこが、何がなんでも、繰り上げ返済をするのがいいわけではない、というポイントなのです。

◆昔のセオリーは通じない。ライフプランと併せてチェックする
少し前までなら、繰り上げ返済をして、定年退職前の完済を目指す、というのがセオリーで、子どもの教育資金の山を乗り越え、住宅ローンを早期に完済させ、残り、定年退職までが貯蓄のラストチャンス、という考え方が主流でした。そういうライフプランが一般的だったのです。

しかし、現在は、定年退職後も、子どもの教育費がかかり、住宅ローンの返済も続く、というケースが少なからずあります。人生の大きな出費が重なる世帯もあるのです。そうしたときに、住宅ローンは早期に繰り上げ返済するのが、トク。というセオリーに縛られていると、いざというときに自由に使えるお金がない、という事態になる可能性もあるのです。

今、繰り上げ返済すべきかどうかは、子どもの教育費など、必ず出ていくお金の用意ができているか、ほかに大きな出費の予定はないのか、その手当てはできているのかなど、家計と貯蓄プランを確認してから判断するのが、いまどきのボーナスの賢い使い方と言えるでしょう。

試算では、100万円を繰り上げ返済に回すとしていますが、今は金融機関によっては少額から繰り上げ返済ができるところもあります。10万円、20万円とボーナスの一部を利用して、こまめに返済していくという考え方もあります。それでも、今優先すべきは、近いうちにやってくる子どもの教育費など、大きな出費に備えることです。その準備ができていれば、積極的に繰り上げ返済をしていけばいいでしょう。

文=伊藤 加奈子