北海道では福岡以上に外資オペレータの参画を

北海道7空港については、やや異様な様相を呈している。前述のように筆者として忌避すべきとしている地元権力による権益承継を目指して、北海道空港(HKK)が株主から地方自治体を除外した持株会社を作り運営権取得を目指しているのは周知の通りだ。

  • 北海道内7空港は、国管理空港(新千歳、稚内、釧路、函館)、特定地方管理空港(旭川、帯広)、地方管理空港(女満別)が対象。2020年1月15日から、7空港一体のビル施設等事業開始を予定している

    北海道内7空港は、国管理空港(新千歳、稚内、釧路、函館)、特定地方管理空港(旭川、帯広)、地方管理空港(女満別)が対象。2020年1月15日から、7空港一体のビル施設等事業開始を予定している

現実の布陣を見ると、HKKを含む地元企業群が6社(北海道電力、北海道銀行、北洋銀行、岩田地崎建設、北海道新聞)で、その他11社は首都圏の大企業群(三菱地所、東急電鉄、政投銀、ANA、JAL、三菱商事、三井不動産、サンケイビル、大成建設、電通、損保ジャパン:筆者調査による)となっている。このほかに協力企業としてみずほ総研、JAC(日本空港コンサルタンツ)等、錚々たる顔ぶれとなっている。

逆に言うと、これらは対抗馬として出馬させないためにHKKが囲い込んだという見方もできる。HKKがコンソーシアムの中に多くの"潜在的な競争相手"を取り込んでしまったことは、大きな問題と言えるだろう。7空港をまとめて経営する難しさはあるものの、逆に道内各地方を活性化させる上で力量を発揮できる素地が大きい北海道民営化案件には、6チームが応募した福岡以上に、外資オペレータを含めた多くの企業の参画を期待したい。

また、わずか1%とはいえ、地元メディアである北海道新聞がここに参画していることには注意を要する。社会的影響の大きいメディアが運営権の帰趨について意見することはあるだろうが、一旦特定コンソーシアムに加入したからには地元誘導を示唆するような論評記事は載せるべきではなく、事実の伝達に留めるという厳格な自制が必要である。

熊本では"一から作る"革新的な経営に期待

熊本に関しても、九州産交・九州電力を軸とする地元連合が応募し、有力視されている。「航空業界ニュースをななめ読み 第11回」で筆者は、九州産交は現在旅行会社H.I.S.の傘下にあり、"社会の公器"そのものである空港の経営をその一ユーザーである旅行会社に委ねるべきか慎重に問われるべきと書いたが、その懸念は今も変わっていない。「空港経営とテーマパーク経営は決定的に違う」と思っているからだ。

  • 2020年4月より熊本空港の運営を民間に委託することで、熊本空港の震災からの復興の加速化や、民間のノウハウを活かした利用促進・サービス向上を目指す

    2020年4月より熊本空港の運営を民間に委託することで、熊本空港の震災からの復興の加速化や、民間のノウハウを活かした利用促進・サービス向上を目指す

また昔の話として、熊本地元経済界には"九州産交再建シナリオの恩讐"という、地元企業の再春館が再建を担うことが望ましいとする地元シナリオをH.I.S.が横からひっくり返したという認識がある。それが今回の空港案件で、「再春館とH.I.S.(九州産交)が手を携えて運営に当たるのであれば、こんなにいいことはない」という、地元の空気が醸成されているとも言われている。

他方、この地元連合は筆頭企業に三井不動産、サブメンバーに双日・日本空港ビルを加えて"H.I.S.隠し"的な色彩を帯びている。筆者としては、再春館もH.I.S.もある意味では難しい出自や企業色を抱えており、これを薄めるためのコンソーシアム組成であった点は否定できないと感じている。しかし、これが地元外企業によってどのように変化していくのかを注視したいし、他の商社や建設会社がリードするコンソーシアムとの"一から作る空港"という稀有な環境下での競争によって、これまでの事例とは異なる斬新かつ革新的な空港経営の議論や運営権争奪戦が展開されることを大いに期待したい。

北海道と熊本の後には、現時点では広島がラインアップに名を連ねているくらいだが、長崎、鹿児島など九州の空港も当該自治体が民営化への意欲を示しているようだ。九州をベースとするリージョナル航空のあり方については、国が年内を目処に今後の方針を取りまとめているという複雑な環境もある。空港民営化はある意味で目新しさが薄れてきているとの認識も出始めているが、単なる"民間の陣取り合戦"に終わらず、真の地方活性化をもたらす事業となるよう、関係者によるさらなる実効的で公正な競争が推進されることを切望したい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。