審査の透明性・納得性の確保が必要

それだけに、空港ビル株主の地元有力企業が外資や勝者を巻き込んで経営権継続をもくろんだ福岡空港民営化の帰趨(きすう)は注目されたし、諸般の理由もあって、「最終的には地元が勝つだろう」と言われてきた案件ではあった。しかし、第一次審査の各社プレゼンが行われた当日夜には、「地元は危ない。運営権対価において先行企業と倍近い差(二次の配点だと15点の差)がある」という会話・風評が、業界や競争参加企業周辺で駆け巡っており、筆者も現実に同じタイミングで応募企業を含む複数の人々からこれを聞いた。

  • 高松空港民営化の第二次審査では、三菱地所・大成建設・パシコングループ(代表企業: 三菱地所)、高松空港 ORIGINALSグループ(代表企業: オリックス)、香川・四国・せとうちの未来を創るコンソーシアム(代表企業: 穴吹興産)が参加した

    高松空港民営化の第二次審査では、三菱地所・大成建設・パシコングループ(代表企業: 三菱地所)、高松空港 ORIGINALSグループ(代表企業: オリックス)、香川・四国・せとうちの未来を創るコンソーシアム(代表企業: 穴吹興産)が参加した

高松空港民営化の案件で一次審査の各社入札価格がすぐに広がり、三菱地所が入札価格を倍増させて勝利した時にも書いたが、他社の入札機密情報が漏れているという状況は、福岡でも変わっていなかったようだ。審査委員会の評価作業が公正に行われていることに疑義を呈するものでないが、審査に関わるほとんどの人々がおしなべて厳密にルールを守っているといっても、"蟻の一穴"を完全に撲滅することがいかに難しいかを物語っている。

また、審査基準・方法には常に曖昧な部分が残る宿命もある。提案内容だけを厳格に精査・判断すると言っても、もともと提案に要求されている項目には定性的なものも多くあり、運営権対価額のように採点が機械的に算出されるものの方が少ない。そうなると、点数の積み重ねといっても、個々の項目の厳正な比較検討はさておいて、最後は自分が支持するグループが最高点となるように配慮して採点するケースは、少なからずあり得るのではないか。

3月28日に行われた静岡空港の運営権優先交渉権者の発表において、静岡県知事が選定背景として会見で述べたのは、「空港の運営について豊富な経験と実績がある」「本県でも様々な事業を展開してくれている」ということであり、提案内容自体の比較や評価については触れられなかった。このように、最終的には案件主体である国や県が種々の要素を総合的に勘案して運営権者が決められるという側面は否定しようがなく、採点が後追いでつけられた感をもって受け止められている面があるのも現実だろう。

筆者としては、これまでの運営権者選定に瑕疵(かし)や齟齬(そご)があるということを言いたいのではなく、今後の選定プロセスから上記のような疑いや懸念を払拭することが重要だということをもう一度考えてもらいたいのだ。

これまでの審査プロセスにおいては、一時提案と二次提案の整合性は常に問われてきたはずで、一次提案に書いていないことを二次でいきなり述べてもマイナス評価につながる、との"釘刺し"が当局からは競争的対話においてなされてきた。しかし一方で、一次審査で掲げた運営権対価額が二次で2倍に跳ね上がるような、一次と整合性のない=一次の需要予測・収支見通しを根底から覆す提案がまかり通り、勝利してきたのも現実ではないのか。

このような矛盾した実情を是正するため、提案をしたい。それは、「運営権対価の提案に一定度の採点比率を確保した上で、価格入札は一発勝負とする」ことと、「審査委員の評価は、委員個々について各社、各項目の採点結果を全て開示する」ことである。ただ、北海道7空港では一次・二次ともに運営権対価には23%の採点とすでに発表されているので、二次の価格は一次から20%以上変動させられないなどの縛りを入れるか、大きく変動させた場合にはペナルティを課すなどの措置を講じるべきだ。

  • 北海道内7空港に関しては、8月16日に第一次審査書類を締め切り9月頃に結果を通知、2019年5月頃に第二次審査書類を締め切り同年7月頃に優先交渉権者を選定する

    北海道内7空港に関しては、8月16日に第一次審査書類を締め切り9月頃に結果を通知、2019年5月頃に第二次審査書類を締め切り同年7月頃に優先交渉権者を選定する

また現在の委員による採点方式は、上下両端を削り残りの委員の評点を平均するというスキージャンプやフィギュアスケートに似た方式が採られているが、最終的にはこれらスポーツと違って空港案件では、勝者の提案内容と相手との点数差しか開示されないため、誰が個々の提案項目にどのような評価を下したかが分からない仕組みとなっている。

そのため、特定の応募者にいわく因縁があって極端な採点をしたのではないかという疑念が、常に出かねない状況にある。審査委員の方々の厳正な採点方針と結果を実証するためにも、ぜひ全容詳細を公開してほしいし、そのことが審査委員の方々のさらなる緊張感にも通じ、審査内容のレベル・精度を上げることにつながると思う。

福岡空港運営権の争奪戦は、敗退したとはいえ、外資オペレータと組んで専門外の空港運営に挑んだ東京建物と大和ハウスの奮闘で、二次交通を担う資格(ライセンス)を持つ会社が地元に限られるなどの不利を抱えつつも大激戦に持ち込んだことは評価したい。他方、地元連合においては、ANA/JALからの出向者や三菱商事の組織が寄与・機能して、最終的な勝利を勝ち取ったとも言われている。新運営権者による今後の福岡空港の運営が従来のFABによるものから変革し、過去の常識や地元の常識と決別できるのかは、今後注視されるべきだろう。

エアラインは一定の距離を

また、今後のこともあるので意見を述べておきたいのが、JAL/ANAによる空港運営権争奪戦への参画についてである。結論から言うと、筆者は両エアラインとも特定コンソーシアムの一員となって戦線に参加すべきでないと考える。

  • エアラインの空港運営には、不必要な緊張感やしこりというリスクも想定される

    エアラインの空港運営には、不必要な緊張感やしこりというリスクも想定される

そもそも「空港と航空会社」の関係は「地主・家主と賃借人」のような相対するステークホルダーであり、航空会社が空港を経営することが適当かどうかには業界関係者から異論があるのが現実だ。例えば、空港スポットの配分において大手2社が好位置のスポットを独占的に使用するので外航誘致に支障があるとし、エアラインの入札参画を禁止した高松の事例があった。

また、見送り客もクリーンエリアに入れるという"仙台方式"などを採用して空港のセキュリティ検査費用が上昇した場合、トータルコスト上昇をカバーするために旅客サービス施設利用料(PSFC)を値上げすることが検討される。その場合、エアライン負担を上げずに、空港利用旅客に賦課することへの反発が出ることなどが容易に予想される。

さらに、エアラインが特定コンソーシアムに加わって争奪戦を戦い敗れたとすると、勝者の特別目的会社(SPC)と運航の基幹を支えるフルサービスキャリア(FSC)との間に、不必要な緊張感やしこりが生じる可能性もある。二次交通の資格を持つ運輸企業と同様に、運営権者がどうなろうが空港運営に深く関わる事業者は粛々と選定経緯を見守りつつ、最終的な運営者と円満・円滑な関係を築くという姿勢が求められているのではないか。

最後に、今後の民営化プロセスの現状と展望について私見を述べたい。