京都大学(京大)は、1つの遺伝子Ck1dから生み出される、正反対の機能を持つ新旧2つの酵素Ck1d1とCk1d2が、時計タンパク質PERを安定させることを明らかにしたと発表した。

同成果は、京都大学大学院薬学研究科のJean-Michel Fustin 特定講師と岡村均 名誉教授(薬学研究科特任教授)らと、理化学研究所、大阪大学、千葉大学、デューク NUS 医学大学院との共同研究グループによるもの。詳細は国際学術誌「米国科学アカデミー紀要」にオンライン掲載された。

2017年のノーベル賞受賞対象にもなった時計遺伝子の発見は、生物において、身体の時間を刻む機構が遺伝子に書き込まれていることを明らかにした。さらに、時計タンパク質PERが、時計遺伝子自身を抑制するフィードバックループが体内リズムを形成することを解明した。ただ現在でも、なぜ「24時間」という周期が決まっているのかは明らかになっていなかった。

今回の研究では、家族性睡眠相前進症候群の患者が、夜になると猛烈な睡魔のために間もなく眠りにつき、朝早く起きてしまうように、睡眠リズムの周期が短いことに注目。この病気は、Period2(PER2)という時計遺伝子の突然変異によって起こる。この遺伝子変異によって、PER2タンパク質の安定性の鍵となるアミノ酸の1つであるセリンがグリシンに置換される。そのため、PER2タンパク質が不安定となり、体内時計(概日時計)の周期が短縮してしまう。

では、なぜセリンがグリシンに置換されるとPER2タンパク質が不安定になるのか。それは、タンパク質の機能と安定性を調節する一般的な方法であるリン酸化が不可能になるからである。セリンのリン酸化は PER2タンパク質の安定をもたらすが、セリンがグリシンに変異した場合リン酸化ができなくなり、PER2 タンパク質は安定化することができない。

今回、研究グループは、この体内時計のリズムの安定化に重要なセリンをリン酸化する酵素であるタンパク質キナーゼ(プロテインキナーゼ)を発見した。この酵素は、カゼインキナーゼ1デルタ(Ck1d)というよく知られた遺伝子にコードされていた。

さらにこの遺伝子Ckd1は、ただ1つのキナーゼでなく、PER2を不安定にする既知のCk1d1と、PER2を安定化させるCk1d2という新旧2つのキナーゼを生み出すことがわかった。すなわち、正反対の機能を持つ新旧2つのキナーゼが、1つの遺伝子の読み取り方の違いから生まれることを見出したのだ。

加えて、「24時間」という周期が、Ck1d1、Ck1d2のリン酸化活性のバランスを保つために有効であることもわかった。つまり、これら2つのキナーゼのバランスが崩れることが、家族性睡眠相前進症候群の発症原因であることが明らかになった。

  •  概日リズムの周期のグラフ。Ck1d1過剰で短縮、Ck1d2過剰で延長する

    概日リズムの周期のグラフ。Ck1d1過剰で短縮、Ck1d2過剰で延長する (出所:京都大学Webサイト)

なお、今回の成果を受けて研究グループは、今回の発見は、遺伝性の家族性睡眠相前進症候群の病態を解明したもので、睡眠リズムの研究に突破口を開いたものと期待されるとしている。