新しい川越の名産品を

呉服屋「呉服笠間」で扱う「川越唐桟(とうざん)」というストライプ柄の綿の布地は、近年、川越の特産品として注目されつつあり、あのJR東日本が運行する高級寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」の客室用浴衣にも採用されている。

  • 「呉服笠間」四代目の笠間美寛さん。後の棚に並ぶのが「川越唐桟」

    「呉服笠間」四代目の笠間美寛さん。後の棚に並ぶのが「川越唐桟」

川越唐桟の歴史は江戸時代末期にまでさかのぼる。それまで、高級品の絹は庶民にはとても手が届かず、庶民の衣服は麻などが主流だった。綿もあったが、和綿は細い糸がとれないため厚ぼったくなり、また、糸が短いため「節」と呼ばれる結び目ができ、着心地が良くなかった。

イギリスで産業革命が起こり細長い糸を紡ぐ技術が開発され、また日本の開国が進むと、エジプト綿やインド綿を原料とする細い糸が安く日本に入るようになる。「これで平織りの着物を作れば、江戸で売れるだろう」と、いち早く目を付けたのが川越の商人たちだったという。このように誕生した良質で安価な川越唐桟は爆発的に売れ、「唐桟」といえば川越と言われ、「川唐」の愛称まで生まれた。

しかし、明治26年の川越大火で街が衰退すると川越唐桟も途絶えてしまう。その後、昭和50年代にある人物が、かつて川越に唐桟という織物があったことを発見し、「唐桟を織って、再び川越の名産にしよう」と復興したのが、現在の川越唐桟なのだ。

  • 手頃な価格で求められる小物も販売しており、お土産にピッタリだ。「小物入れ」は税込980円

    手頃な価格で求められる小物も販売しており、お土産にピッタリだ。「小物入れ」は税込980円

呉服笠間では反物のほか、唐桟を使った「名刺入れ」(税込630円)や「小物入れ」(税込980円)なども扱っている。川越土産にひとついかがだろうか。

大好きな街で小さな商売を

この日、最後に訪れたのは中央通りと立門前通りの角にある「レレレノレコード」という店だ。店内はレコードを中心に、CD、カセットを販売するスペースと飲食スペースがほぼ半々になっている。

  • 「レレレノレコード」店主の小島大補さん。商品選びには独自のポリシーがある

    「レレレノレコード」店主の小島大補さん。商品選びには独自のポリシーがある

早速、売り物のレコードを見せてもらうと、洋楽やジャズの名盤に混じり、若き日の五木ひろしや中山美穂の顔が印刷されたジャケットが目に飛び込んでくる。様々なジャンルのレコードがあるようだが、店主の小島大補さんは「サウンドでもビジュアルでもいいんですが、自分の中で何か引っかかるものがないものは置かないようにしています」と商品選びのポリシーを語る。つまり、自分の部屋のレコードラックと同じで、自分が気に入ったものだけを置く、セレクトショップなのだ。

このように書くと何やら頑固オヤジかもと思われるかもしれないが、小島さんは川越市内の別エリア出身の30代で、2年ほど前にこの店を開いた若者だ。今は、店の雰囲気を気に入ってくれた地元のお客さんも増え、"たまり場"のように様々な年代の人が集まるようになったといい、「人が集まって、そこから何かが生まれたら面白いな」と屈託のない笑顔を浮かべる。

  • ちょっと変わった店名には「レレレのおじさん」の生みの親である赤塚不二夫さんへの尊敬の念や、「record」「recycle」などの意味が込められている

    ちょっと変わった店名には「レレレのおじさん」の生みの親である赤塚不二夫さんへの尊敬の念や、「record」「recycle」などの意味が込められている

また、この店をやることによって「自分の好きな街で、生活に必要な分のお金だけを稼いで小さく生活する。無理して遠くに通勤したりせず、家からちょこっと歩いてきて店を開ける。こういう生き方もある」ことを伝えたいと話す小島さんにとって、今まさに街の活性化が進む発展途上の昭和の街は、とても商売を始めやすい環境だったという。

そんな小島さんを小さい頃から知るという岩澤さんは、「この辺りは夜開いている店が少ないので、街の夜を盛り上げてくれる店があるのはうれしい。また、店で出す食べ物には地元の食材を使ってくれたり、DJの経験を生かして街のイベントを盛り上げてくれたりするのも助かる」と目を細める。

中央通り周辺は、昭和の街の会が立ち上がる前までは、にぎやかな南の川越駅周辺と北の蔵造りの町並みに挟まれ、観光客が素通りする典型的なシャッター商店街だった。しかし、ここ数年は、小島さんのような若者も移住して店を開くなどし、"街が動き始めている感触"がある。2017年にはエリア内に4店舗が新規開業し、今年に入ってからも立て続けに3店舗が開業した。

  • 川越昭和の街では、「昭和のアイテム」コッペパンの無料配布イベントも年数回開催している(写真提供: 昭和の街の会)

    川越昭和の街では、「昭和のアイテム」コッペパンの無料配布イベントも年数回開催している(写真提供: 昭和の街の会)

今後、岩澤さんが目指す持続可能性のある商店街や、小島さんが語るような地域に密着したスローライフに憧れるファンが増えれば、昭和の街は益々盛り上がっていくだろう。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。