富士通では、まず2016年2月に、100%子会社としてPC事業を分社化。富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)を設立した。2016年10月には、富士通がプレスリリースを出す形で、レノボ・グループ・リミテッドを相手に、PC事業に関する戦略的提携を検討していることを正式に認め、事業統合を視野に入れていることを明らかにした。

だが、交渉は難航した。田中社長も当初は、2017年3月末までに交渉を完了する考えを明確にしていたが、それを過ぎても話はまとまらない。正式な合意が発表されたのは、2017年11月のことだった。

交渉に時間がかかった理由について、FCCLの齋藤邦彰社長は、「ていねいに話を進めてきたことが、長期化した理由。もし、単に事業を売却するという話であれば、いくらで売るのか、という話だけで済む。だが、両社が、今後の成長戦略を一緒に描いていくということを考え、しっかりと話し合いを行う必要があった」とする。

富士通の田中社長も、「交渉の過程において、お互いが考えていたことや、方針にずれが発生しているわけではない。将来にわたって、うまくいくように考えており、最後のシナジーの部分について、意見をぶつけあっていた」と説明していた。

富士通のPC事業、独立した体制やブランドはそのまま残る

2017年11月に行われた説明会にて、富士通とレノボのパートナーシップが明らかに。富士通ブランドのPC開発、生産を行い、現在の製品ポートフォリオを維持すること、川崎の開発部門や、島根富士通のノートPCの生産体制も維持すること、そして、デスクトップPCを生産する富士通アイソテックは、FCCLから生産委託することなどが発表された。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    新体制の出資比率(DBJは日本政策投資銀行)

レノボがIBMのPC事業を買収した際には、ThinkPadのブランドを維持しながらも、組織はレノボに統合した。NECのPC事業の場合には、ジョイントベンチャーという仕組みで組織やブランドを残しながらも、人的交流を積極的に行い、生産拠点や物流拠点、サポートなどのリソースも活用することになった。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    島根富士通は、ノートPCやタブレットの生産拠点

だが、今回の富士通との合弁会社は、富士通のブランドを維持するだけでなく、開発、生産、営業、サポートなどのすべてを独立した形で維持することにした。IBMとも、NECとも異なるスキームが用いられているのだ。

新生FCCLには、レノボ・グループ・リミテッドが51%を出資し、富士通の出資比率は44%。これにより、富士通の連結子会社からは外れ、持ち分法適用会社になった。

PC事業の分離、富士通とFCCLの明暗

富士通本体にとっても、営業利益率10%に向けて体制が整うはずだったのだが、2018年4月に発表した2017年度連結業績の発表の席上、富士通の田中社長は、時期的な目安を修正。田中社長が掲げていた営業利益率10%の目標とともに、フリーキャッシュフロー1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上比率50%以上の目標達成時期を、先送りすることを発表した。

田中社長は、「デジタル時代において、グローバル競争を勝ち抜いていくためには、営業利益率10%以上などのレベルに達することが必須である、という考え方に変わりはない」としながらも、「ターゲットに至るまでのプロセスについては、達成までの時間軸を見直すことにした。私は社長として、引き続き富士通の変革に取り組み、目指すべき姿の実現が確実に視野に入るレベルに到達すべく努力する」とし、社長在任中の目標達成を事実上取り下げたのだ。

また、田中社長は、目標達成に向けたマイルストーンとして、事業売却益などの特殊要因を除く本業ベースで、2017年度には営業利益5%ゾーン、2018年度には営業利益6%ゾーンを目指すとしていた。

発表された2017年度の営業利益率は4.5%、本業ベースでは、営業利益率は3.2%に留まる。ネットワークビジネスの不振や不採算案件の増加などが影響した。そして、2018年度見通しに関しても、3.6%に留まることになる。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    富士通、2017年度の連結実績と2018年度の予想

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    富士通が描いていた連結営業利益の成長。上図の実績や予想とは開きが大きい

「当初は、2015年度、2016年度でビジネスモデル変革をやりきり、つながるサービスに経営資源を集中した成果を、2017年度以降、利益率向上という明確な形で表していく計画であったが、遺憾ながら、現実はこの計画とは乖離している。期待に反することになり、申し訳なく思う」(田中社長)と述べた。

一方で、FCCLによる分社後、PC事業は黒字幅を拡大している。意思決定の速度が高まり、世界最軽量のノートPCといった戦略的製品の開発が行われ、さらに、新規事業に投資する余力も生まれている。

富士通にとって、3年前の判断を、営業利益率という観点から見ると、PC事業の分社は結果として、得策ではなかったのかもしれない。分社化によって体質を改善し、さらに、レノボという成長を下支えするパートナーを得たFCCLにとっては、プラスの結果になったということができまいか。