電気自動車を「移動できるバッテリー」に

日産という1社の利益追求にとどまらないとの意識は、フォーアールエナジーの今後の事業展開にも精神的な柱として重要なものとなっている。1つは「バーチャルパワープラント」(VPP)という電力需給の構想だ。

「初代リーフが発売された当初は、まだそこまでの意識はなかったのではないかと思います。しかし、東日本大震災を経験し、復旧に際して電力が最も早く回復しましたが、それでも復旧までの数日間、EVなら大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載しているので、その電力を使えば家に明かりを灯すことができます。そこで、ニチコンと協力しながら、『LEAF to Home』という給電システムを急いで開発し、震災の翌年に販売に漕ぎ着けました」

  • LEAF to Home

    東日本大震災を機に開発を急いだ「LEAF to Home」(画像提供:日産自動車)

開発から販売までの早さは当時、誰もが驚いたほどだった。初代リーフの所有者の中にも、「LEAF to Home」を購入し、将来の災害に備えた人々がいる。大災害とまではいかなくとも、異常気象などで停電することが珍しくなくなっている今日である。

「『LEAF to Home』がVPP構想の基本となっています。日常的な利用においてクルマは、1日の9割近くを駐車場で止まったまま過ごすとの調査結果もあります。EVであれば駐車しているときでも、『移動できるバッテリー』として役立てることができます。EVを活用したVPPについては、国がルール作りをしています。日産だけでなく、どの自動車メーカーも反対はないはずです」

「手始めは『ネガワット取引』といって、EVに充電した電力を家庭で使うことによりピーク時の電力需要を抑え、社会全体での電力消費量を減らす取り組みです。次は『ポジワット取引』で、EVの電力を系統へ戻すことにより他の電力需要に回し、やはり社会全体での電力使用量を減らす取り組みがあります」

  • フォーアールエナジーの牧野社長

    EVを組み込んだVPP構想について語るフォーアールエナジーの牧野社長

EVをビッグデータ化することで開けるVPP実現への道

ことにポジワット取引では、電力供給をしていたEVが、クルマとして利用される際に走行可能な電力を確保しておかなければならない。それでなければ、何のためのEVか分からなくなってしまう。これの実現には、それぞれのEVが、日常的にどのような走行距離で使われているかなど、ビッグデータの蓄積とその検証が不可欠だ。

容易ではないかもしれないが、情報通信の時代には、有効活用するに値するエネルギー運用策といえる。日産の試算によれば、EVが普及してもVPPの活用により電力を無駄なく管理・運用できれば、社会全体の電力消費を増やすことなく、かえって減らせる可能性もあるとのことだ。

社会全体での電力運用への貢献は、これまでのハイブリッド車(HV)やエンジン車では不可能な領域だ。火力発電をもとにした電力を使っているうちは、エンジンを高効率で使う場合とCO2排出量の差は少ないとの見解もあるが、それは狭義の省エネルギーの視点でしかない。