米国の長期金利(10年物国債利回り)が3%を超えてきた。長期金利が3%台を維持するかどうかは不透明だが、永く天井になっていた3%を一時的にせよ超えたことは重要な意味を持ちそうだ。本稿は、2018年1月12日投稿「米国の長期金利上昇が意味すること」をアップデートしたもの。

4月25日、米国の長期金利(10年物国債利回り)がNY市場の終値で3%を超えた。長期金利が終値で3%を超えたのは、2011年7月25日以降では、2013年12月27日と同31日の2日しかない。今後、長期金利が一段と上昇するのかどうか、以下に考察した。

米景気は再加速するか

2018年に入って米国の経済指標は弱めのものが増えた。4月27日発表の1-3月期GDP(国内総生産)は前期比年率+2.0%程度と、昨年10-12月期の+2.9%から減速したとみられる(本稿執筆時点で未発表)。

ただし、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)において、景気は堅調であり、足もとの減速は季節性の歪みなどの一時的要因によると判断したようだ。FRBの判断が正しいかどうかは、今後発表される経済指標によってある程度検証されるだろう。

物価上昇率は2%に接近するか

昨春の携帯通話料金の大幅引き下げが、前年比でみた物価上昇率の下押し要因となってきた。そして、その要因は今後数か月で消滅する。3月のCPI(消費者物価)上昇率は、食料とエネルギーを除くコアが13か月ぶりに前年比2%を超えた。

FRBが重視するPCE(個人消費支出)価格指数コアは2月まで1%台半ばで推移していたが、CPIと同様の理由で今後は2%の物価目標に向けて加速する可能性が高い(3月のPCEは4月30日発表)。

FRBの利上げ観測は高まるか

かかる状況下で、FRBは緩やかながら着実に利上げを続けるだろう。金融市場は年内に残り2回以上の利上げが実施される確率を80%以上とみているが、3回以上の利上げの確率は40%以下にとどまっている。3回以上の利上げの確率が上昇するかどうかが注目される。

国債の需給は悪化するか

昨年成立した「トランプ減税」や議会が歳出の増加に前向きなことなどから、財政赤字は拡大基調にある。つまり、国債の発行額は増加している。また、QE(量的緩和)により国債を一時大量に買ったFRBは、昨年10月より保有国債の残高を減らしつつある。

国債発行残高の約4割を保有する外国人投資家の動向も微妙だろう。とりわけ、最大の保有国である中国は、ロシアと並んでトランプ大統領から「通貨切り下げゲームをしている」と批判された。外国政府が米国債を買えば、自国通貨売り・米ドル買いのフローが発生するため、通貨安政策との批判を受けかねない。

米国の長期金利が3%なら、主要国の投資家にとって魅力的な水準だ。ただし、トランプ政権が米ドル安を志向するとすれば、話は別だ。自国通貨建てでのリターンが低下するためだ。為替リスクを避けるために、為替ヘッジをつけることは可能だが、米短期金利の上昇によりヘッジコストは上昇している。

「良い金利上昇」か「悪い金利上昇」か

足もとの米長期金利の上昇を受けて、米ドルは堅調に推移している。そのため「良い金利上昇」と受け止められる。もっとも、株価が不安定になるなど「悪い金利上昇」の面も垣間見える。今後、米長期金利がどこに向かい、為替や株式市場がどのように反応するのか、大いに注目されるところだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。